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【5億7800万ドル】 GM破綻で考える、広告宣伝の在り方…ウッズ、松井の今後は?

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 GMの破綻にまつわる話題を、Alternative Blogでも多くの方が書かれています。米国を、世界を代表する大企業ですから、その破綻が及ぼす影響は、まだ計り知れない部分も多数あるでしょう。私が気になっているのは、広告宣伝に与える打撃です。

 すでに昨年あたりから、GMは広告宣伝費の大幅な削減に着手しています。元々GMはスポーツへの支援に積極的な企業と言われていますが、スポーツ関連のテレビCMだけで「一昨年はトヨタの倍近い【5億7800万ドル】(約550億円)を費やしたと伝えられるが、今後、広告宣伝費は圧縮される可能性が高い」(YOMIURI ONLINEより引用)。

 2008年11月、GMが契約満了より1年早い2008年限りでタイガー・ウッズとのスポンサー契約を打ち切ると発表したニュースは、多くのメディアで取り上げられました。「ウッズとGMとの契約は5年単位。その金額は5年で7億ドル(約630億円)とも年間1億ドル(約90億円)とも言われていた。最初に契約を結んだのは2000年。2008年は契約第2期の4年目だった」(日経ビジネスONLINEより引用)。

 当時は日本でも「派遣切り」問題が渦巻いている頃であり、Tウッズの期間中での契約解除は、GMの経営状況悪化を強く印象づけました。

 調べてみると、GMのゴルフ離れは昨年春先から打ち出されており、4大メジャーの1つ、マスターズのテレビ中継におけるCM提供中止を決断。さらにPGAツアーへのオフィシャルカー提供を2009年から大幅削減しています。

 ゴルフに限らず、今年2月に開催された全米スポーツ界最大のイベントと言われているアメフトの全米王座決定戦・スーパーボールでも、GMはスポンサーを降板。スーパーボールのテレビ放送は、年間の最高視聴率を記録することも多く、テレビCM放送時にはプレーも止まるほど。ここからの撤退は、GMの危機を象徴する決定としてビッグニュースとして世界中に広まり、知った私も大変驚きました。
 
 このほか、野球のメジャーリーグでも、ヤンキースのスポンサードを2008年で終了。2009年からはGMに代わってトヨタとアウディが新しいヤンキースタジアムに広告を出しています。

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 「企業の広告宣伝費というのは、元来、利益の上澄みから捻出されるものだ」というのが業界でメシを食う者の共通認識です。つまり、なくてはならない支出、というよりは、お金があれば投資する、という支出だと。もっとダイレクトにいえば、税金払うくらいなら、広告宣伝にでも使って次の利益につなげようという支出だということです。従って経営環境が厳しくなれば真っ先に削られる支出項目の代表的なものだといえるでそしょう。

 その意味で、GMが昨年から広告宣伝費の削減に着手していたことは理解しやすい話です。破綻・再建が決まった今となっては、より厳しい方針が打ち出されてくるでしょう。米バンダービルト大学の経済学者ジョン・ブルーマン教授は、GMの広告宣伝戦略について、次のような指摘をしています。

「規模を縮小し、ブランドイメージの向上を目指す長期的なものより、短期的な販促につながる広告宣伝にシフトする。テレビ広告費だけでも半減するのでは」(YOMIURI ONLONE より引用)

 ジョン・ブルーマン教授の推測は広告戦略の道理でしょう。遠い将来の利益を見込む戦略に投資をする余裕は、今のGMにはないということです。債権者の立場にしてみれば、明日の利益に直結する投資を優先し、短期間で借金を回収できるようにしてくれと厳しい要求が出てくることは想像に難くないはずです。

 宣伝費を投資するなら、どんな効果がどれくらい得られるのか。これまで「やってみなけりゃわからない」「イメージを数値で計ることは難しい」というのがこれまでの広告だとすれば、今後は効果測定に対してもシビアな要求が出てくることは必至です。昨今はインターネット広告が急速に増えてきていますが、その理由のひとつは、効果の明瞭性にあります。テレビやラジオ・新聞などのマスメディアではオブラートに包まれていた効果測定が、インターネット広告ではアクセスログ解析により、良くも悪くもはっきり出てくるわけです。

 GMに突きつけられた課題は、GMに限らずすべての企業の広告宣伝戦略に影響を与えることでしょう。厳しい経営環境に喘ぎ、当期の利益捻出に苦心している中で、広告宣伝費の削減をせざるを得ない企業が大半だと思います。中でも長期的視点が必要なブランド広告や、効果が目に見えにくい広告は厳しくなるでしょう。たとえばイベントの冠提供やスポーツ選手・チームのスポンサードなどは、直接的・短期的に実利を生む販促活動とはいえません。そもそも企業は何の為にスポンサーシップを行うのか? この原点が、今、そして今後も問われる事になるでしょう。。。

  ※参照先
   スポニチ 2008年12月17日
   日経ビジネスONLINE 2008年12月16日
   YOMIURI ONLONE 2009年6月2日

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