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【シーズン1 第13話】マーケティングオートメーションの実態は契約更新率で明らかになる!

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 マーケティングオートメーションのネタが続きますが、最近は「MAバブル」と言われています。バブルですからいつかは弾けるということです。しかし、MAなどのクラウドサービスのビジネスはマーケティング費用がかかるため赤字が長期化しますが、契約者からの収入が支出を超え、一度黒字化すると赤字になりにくいという特徴があります。

 ベンチャーキャピタル(GP)が、LP(リミッテッド・パートナー)から集められたファンドマネーを投資(≠プロパー投資)する判断は大きく3つあると言われています。

  • 開発リスクが少ないこと
  • マーケティングリスクが少ないこと
  • 経営リスクが少ないこと

 開発リスクとは開発できるかどうかのリスク、マーケティングリスクとは売れるかどうかのリスク、経営リスクとは経営者や経営体制のリスクということですが、クラウドサービスを開発できても、それを販売する単価が月額モデルだとすると、固定費を満たすためにはそれなりの数を販売する必要があります。数を販売するためのマーケティングコストが常にかかるのがクラウドサービスの宿命です。クラウドサービスが続かなくなるのは、絶えず必要となるマーケティングコストを含めた月々の固定費を捻出するだけのキャッシュフローを生み出せないところにあります。

 一般的にベンチャーキャピタリストは前述の3つのリスクのうち、2つのリスクが少ない場合に投資可能と判断することが多いので、クラウドサービスのベンチャー経営者はシリアルアントレプレーナーが立ち上げる傾向があります。シリアルアントレプレーナーとはいくつも起業を連続して繰り返すタイプの起業家のことを指します。ベンチャーキャピタリストはシリアルアントレプレーナーなら経営リスクが少なく開発リスク(技術者が集まる)が少ない、と考えます。なぜなら、成功はもちろん、他のベンチャーキャピタリストの投資したお金で経験(失敗を含め)を積んでいるからです。

 デジタルマーケティング分野では、アクセスログ解析のSite CatalystをAdobeに売却した後にクラウドBIサービスベンダーのDomoを創業したジョシュ・ジェームスさんもシリアルアントレプレーナーです。Domoを創業した際には経営リスクが少なく開発リスクが少ないと判断できたためたくさんの資本金(約540億円)が集まりました。同じようにチェコのシリアルアントレプレーナーのローマン・スタネックさんはNetBeansをSunに売却した後に、GoodDataというクラウド型BIサービスベンダーを創業しましたが、同じように経営リスクと開発リスクがないとベンチャーキャピタリストに判断され必要な投資を得ました。

 このように経営リスクも開発リスクも組織内部のことなので資本金は集まりますが、マーケティングリスクは不透明(特に日本市場なので、うまく行くとは限りませんし、広告宣伝にお金をかけ、一時的に押し込めばいいというものでもありません。そこでMAツールでマーケティングリスクを考察するため、グローバルなMAツールのシェアをマーケティング自動化サービスのマーケットシェア(出典: Datanyze)から転載してみましょう。

  • HubSpot(28.2%)
  • Marketo(19.5%)
  • Pardot(13%)... SFDC
  • Eloqua(9.6%) ... Oracle

 現段階で日本の事業会社(販売パートナーを除く)におけるHubSpotユーザーは80社程度、Marketoは60社程度、Eloquaは40社程度、と推測していますが、少なくともすべてのベンダーを合わせても総ユーザー数は数百社でしょう。しかし、今年2月のMarketo Japan Summit 2015には1,300人が集まりました。MAバブルと呼ばれている理由は、実態より期待が大きい(過剰流行性)からなのです。

 そして、最も重要なことは事業会社に導入されたMAツールが有効に使われているかどうか、ということです。MAツールはクラウドサービスで提供されますが、契約の最低単位は1年間です。もし使われてないなら翌年に更新するのん気なユーザーはいないでしょう。となると、来期に向けて相当大きなマーケティングイベントが開催され、「契約更新を打ち切ったユーザー数+新規のユーザー数=プラス(+)」にならないと、売上が前年より増えないことになります。クラウドベンダーが絶え間なくマーケティング費用をかける必要があるのは、クラウドサービスが1年単位の契約ということにも起因するのです。逆に、マーケティング費用をほとんどかけず、ユーザー数を1+1=2、2+1=3・・・と増やして行けば、例え現在の総合計が3社でも、10社11社12社・・・といずれは1,000社になるので、固定費を極力抑え、1社1社積み重ねる人たちもいます。

 マーケティングのツールを売っているのだから、実証する意味でも自らがマーケティング(Promotion)でたくさん売らなければならない、という考えと、ユーザーがマーケティングオートメーションでアウトカムを得ることこそが売上に直結する、という考えがあると思いますが、私は次のように考えることが王道だと思います。

「自分たちが売っているのはMAツールではなく、マーケティングのアウトカムを売っているのである。」

 問題はこう考えることが例え正解であったとしても、欧米の本社が要求する拡大スピードに合致しない場合は自身の責任を問われるので、この矛盾が解決できれば長続きする、ということになります。

 MAツールの場合は契約更新率の確認(先行ユーザーなどから)を行えば、その実態がいとも簡単に明らかになるので、外部環境のシナリオライティング(シナリオプランニング)を行い、MAバブルに惑わされず、自社の競争力に結び付く利活用戦略を練ることが重要ではないでしょうか。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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