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― IT部門とマーケティング部門のハザマで ―

【シーズン1 第10話】Customer Experienceとエンタープライズアークテクチャ

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 10数年前に携わったある外資系企業は、すべてのステークホルダーとのTouch Pointを強化した企業のことをExtended Enterprise(拡張企業)と呼んでいました。改めて検索してみると、「タッチポイント」というカタカナ言葉は、日本では博報堂の登録商標、電通は「コンタクトポイント」、アサツーディ・ケイでは「体験ポイント(EXポイント)」、東急エージェンシーでは「リレーションポイント」、と各社の登録商標となっています。

 この「~ポイント」を今風の言葉にするならCXポイント(Customer Experience Point)、とでも呼びましょうか。ITベンダーの宣伝の影響で、CXというとWebサイトのUX/UIをイメージしてしまうことがありますが、日本でも売上の90%以上を占めるリアルなTouch Pointが重要なことは明々白々です(米国の国勢調査によれば、小売りの売り上げの6~10%がネット販売であり、90%はリアル店舗による売り上げとなっている)。

 自分自身に降りかかったことですが、3年間ほど不自由なく使用していたiPhone4Sのバッテリーの消耗が激しくなったことと、SIMフリーの格安スマホが出現してきたので、今年買い替えを決心しました。MNPの転出のためauのコールセンターに3月初旬に電話をしたとき、2年縛りの契約解除料を請求されました(2月中の変更なら不要)。このことは契約書に書いてあり、契約時にも説明されたとのことでしたが、どうしても納得がいかなかったので、もう少し分かるようにちゃんと契約更新可能期間を通知して欲しい、とクレームを伝えました。すると、問題がエスカレーションされ、上司から日割りで対応するから契約解除料はいらない、と連絡がありました。これはWebサイトではなく、コールセンターというチャネルのCXが悪くなかった(2年縛りそのものがCXに良くない)例です。

 リアルな店舗の対応でも同じことなので、CXを高めるには、人の側面はもちろんですが、ITを含めたシステムの側面も重要です。例えば、上記の例はコーポレートナレッジとして例外管理をデータベース化したり、あるいは、下記のように商品情報マネジメント(PIM/MDM)をコールセンターのCX強化につなげることも可能です。

「ある家電メーカーがユーザーからのコールセンターへの問い合わせを分析した結果、最も多くある質問は『時計の合わせ方』だった。そこで、自社のWebサイトに商品毎に違う時計の合わせ方のコンテンツを探しやすく掲載したところ、コールセンターへの問い合わせが激減した。また、ある外資系生命保険会社が自社商品のコールセンター用コンテンツに、保険金を受け取った際の日本の税金についての解説など、商品には直接関係がないが、顧客に必要と思われるコンテンツを充実させることで、顧客体験(Customer Experience)を高めた。」(巨大化した企業サイトがブランディング目的だけで運営されているより)

 IT部門では、今まで全体最適システムをEnterprise Architecture捉え、コストダウンや顧客満足をアウトプット(結果)としてきましたが、これからはまったく逆の発想としてCXの強化から入り、その結果として、全体最適システムをアウトカム重視のExtended Enterprise Architecture(To-Be:拡張EAが目指すべきアーキテクチャ)として捉えることが、競争力に直結する時代に入ったのではないでしょうか。

 では、CXの強化を誰が考えるのでしょうか。宣伝部でしょうか、営業部でしょうか、オムニチャネルを考慮するならばIT部門(あるいは、第2 IT部門)が一番考えやすい位置にいるはずです。どうやら、マーケティングテクノロジストはCXとEnterprise Architectureを橋渡しする「焼き鳥の串」になる必要性もありそうです。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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