【シーズン1 第4話】なぜ、マーケティングテクノロジストはIT部門から数段低く見られるのか
今回は、ダイヤモンドオンラインの連載の【最終回】「Zero to One」で紹介した話からはじめてみます。
「あるグローバル企業のCIOが、講演会で『経営=IT』と語っていたのだ。事業の目的が顧客創造(Create a Customer)であるならば、『顧客創造(Create a Customer)=経営』であり、『経営=IT』ではないはずだ。 ・・・ つまり、前述のグローバル企業のCIOが主張する『経営=IT』という捉え方は、IT(IT部門)は経営に重要な役割を果たしているという意味であって、実際に顧客創造(Create a Customer)を行うのはマーケティングとイノベーションなのである。」
「経営=IT」と捉えている人にとってのマネーフローは予算です。マーケティングテクノロジストにとってのマネーフローは顧客創造(Create a Customer)から得られたアウトカムのひとつです。花王のマーケティングを牽引してきた故佐川幸三郎さん(花王のマーケティング部長、副社長、後に会長、社団法人日本マーケティング協会 理事長)の名著「新しいマーケティングの実際」から、このことを確認してみましょう(P12)。
「給料は自分が所属している会社や、組織から出ているのではなくて、それらが提供した製品やサービスを使っていただいた顧客から出ているのである。・・・自分たちが出している商品やサービスが、消費者に受け入れられているかどうか、他社の出しているそれよりもより大きな支持を得ているかどうか、を常住座臥いつも念頭において仕事をすることが、マーケターの基本的な心構えである。」
この本のどこを読んでも「企業の最も重要な機能は、創造的なシーズを生み出す機能とマーケティングの機能の二つである。」「企業とは、自由競争の中で顧客と市場を創造する仕事集団である。」と、顧客創造(Create a Customer)を語るばかりで、「ITを過信するな」という言葉はあっても「経営=IT」という捉え方は微塵も存在しません。マーケターにとって、顧客創造から自分の給与を得ることはあたりまえというスタンスなのでしょう。マーケターの発想からすると、前述のCIOの「経営=IT」という捉え方は明らかに誤りということになります。
「経営=IT」と捉えているうちは、IT部門は経営に近い仕事をしているという意識(妙なプライド)があるためマーケティングを数段下に見る傾向があります。単にマーケティングの仕事がバタバタした仕事にしか見えないのかも知れません(実際バタバタしたところもあります)。佐川幸三郎さんが言うように企業の最も重要な機能である「マーケティング」と「イノベーション」に貢献できるIT部門となれれば、それを廃止しようとか、縮小しようという話になるはずがありません。
――最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である」
チャールズ・ダーウィン
そして、ダーウィンが示唆する「変化できるもの」になるためには、以下のパラダイムシフト(価値観の変革)を必要とするでしょう。
「経営=IT」⇒「マーケティングとイノベーションをITでドライブ(駆動)する」
このパラダイムシフトが行われれば、IT部門がマーケティングテクノロジストを自分たちより数段下と見るのではなく、自分たちに必要なパートナーと認識することになり、経営や事業に貢献する、すなわち、IT部門(あるいは"第2IT部門")が、顧客創造(Create a Customer)をドライブ(駆動)することになるのです。
最近、日本に進出している欧州、米国の大手企業(ITベンダーではない)のCMOが集まる十数名ほどのClosedな食事会に参加したことがありますが、後日、Linkedinで参会者を検索してみると、当然、各人のプロフィールを確認することが可能でした。ITベンダーから移籍した人、転職し、業種を変えCMOに就任している人など、大企業でも人の水平移動が行いやすいのが欧米企業で、それをさらに容易にしているのがLinkedinなのでしょう。
しかし、同じような日本企業の会合があった後に、名刺交換を行った人をLinkedinで検索してみると、登録している人は皆無です。今の会社に満足しているかどうかは別にして、欧米のような水平移動はほとんどありません。
したがって、日本企業には数少ないマーケティングの全体最適的視点ができる社内の人に光をあてることが必要になります。さらに、最近のマーケティングはITテクノロジーを駆使するため、テクノロジーへの洞察力も必要します。残念なことに、現状の日本のマーケティング部門は4P理論の「Promotion」にフォーカスしており、部門を横断した全体最適を行うカルチャーはありません。
この閉塞感のある状況を突破するには2つのパラダイムシフト(価値観の変革)が必要ではないでしょうか。
【パラダイムシフト1】
「経営=IT」 ⇒「 マーケティングとイノベーションをITでドライブ(駆動)する」(顧客視点のデジタル・トランスフォーメーション)
【パラダイムシフト2】
「マーケティングテクノロジストを育成する」(あるいはアドホックチームを作る)
● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/
本記事の著者へのお問い合わせはこちらまで。