【シーズン1 第3話】 岐路に立っているIT部門?
ご存知のようにIT部門は岐路に立っている(=運命の分かれ道)と言われています。今まであれほど権威に満ち、全体最適を旗印に進んできたIT部門はなぜこんなことになってしまったのでしょうか。その理由は、「木村岳史の極言暴論!」で、何度も何度もしつこくボロクソに書かれていましたが、それそろ批判ネタも出尽くしたこともあり(ネタ切れ?)、今後の大きな2つの方向性(創造)がIT部門側から示されて来ました。
それは、2015年5月28日に緊急開催される「経営・事業に直結するシステムを創造せよ!」というセミナーの案内文にクリアにまとめてありますので、今回はこれを話題にしてみましょう。
【オルタナティブA】「CIO/情報システム部門は今、岐路に立っていると言えるかも知れません。1つは、これまで通りの外注体制を維持しつつ、自らは案件や予算の管理に専念する道。モバイルやWeb、IoTなど新たなITを生かした新システムは事業部門、あるいは"第2システム部門"とも称される部門に委ねる方向です。」
【オルタナティブB】「もう一つは企画・開発能力を獲得して自ら、あるいはパートナーと密接に協力・協同する道。経営や事業をITでドライブ(駆動)するべく必要な能力を獲得し、ITと経営のプロとして会社に貢献するわけです。経営/事業部門の期待はどちらにあるか、そしてCIO/情報システム部門はどちらに舵を切るべきでしょうか?ITが経営をリードする『デジタルビジネス時代』(ガートナー)という言葉を引用するまでもなく、後者であることは明らかでしょう。」
この2つの道は、A or Bの対立分岐なのか、AとBが共通認識を持ち、ペアシステムで未来を切り拓くものなのかは分かりませんが、マーケティングテクノロジストの立場から考察してみましょう。
マーケティングテクノロジストにとり【オルタナティブA】は、働きやすくチャンス溢れる方向性です。なぜなら、この案内文にも「モバイルやWeb、IoTなど新たなITを生かした新システム」とあるようにデジタルのマーケティングの活躍するステージがたくさんあります。さらに既存のIT部門は「自らは案件や予算の管理に専念する」ことになり、新しい"第2システム部門"的な組織という器も生まれ、ポストも増えそうだからです。
世界の歴史に学ぶという意味から約2000年前にズームすると、戒律を重視したローカルなユダヤ教から新しい"第2ユダヤ教"的な組織がエルサレムで生まれ、パウロによりグローバルなキリスト教となっていった流れと同じです。
――「新しいワインを古い革袋に入れる者はいない。
そんなことをすれば、革袋は破れ、
ワインは流れ出て、革袋もだめになる。
新しいワインは、新しい革袋に入れるものだ。
そうすれば、両方とも長もちする。」(マタイによる福音書)
多少の摩擦はあるかも知れませんが、イノベーションを求めるならば、【オルタナティブA】を選ぶべきですし、そういう方向性を持つ会社の方が、発展性があると考えるマーケティングテクノロジストは多いでしょう。
では、【オルタナティブB】はどうでしょうか。「経営や事業をITでドライブ(駆動)するべく必要な能力を獲得し、ITと経営のプロとして会社に貢献する」とあるのですが、結局、既存のIT部門のままでは生き残ることができないから、自らが変化するという意気込みなのでしょう。これはIT部門という組織の特殊事情から生まれた自己改革の流れで、あくまで中心にIT部門がある考え方です。それが顧客にとり有益だという発想に立脚していません。
ここで「顧客(a Customer)とは何か」を日本の歴史から考えてみましょう。零戦の開発物語などはいくつかの映画や書籍になっていますが、マネジメントという視点から捉えた高仲顕さんの著書「零戦のマネジメント」はユニークです。この本には日本海軍の組織図が描かれていますが、零戦を設計、試作、製造した三菱航空機は海軍省の航空本部本部長の配下の総務部長の横(P62)に位置しており、要求仕様が出てくるのは総務部長からで、三菱航空機の顧客はお金を払ってくれる海軍だった訳です。戦後、自動車産業が復興してきますが、彼らの顧客は個人であり、家族であり、顧客を陸海軍から個人へシフト(Shift)できた会社は成長してきました。
企業の顧客に対する捉え方の違いで【オルタナティブA】【オルタナティブB】のどちらを選ぶかは決まってくると思いますが、少なくとも日本マーケティング協会は定義から目的を「市場(=顧客)創造」(Market Creation)としていますから、マーケティングテクノロジストは、顧客創造にITテクノロジーを活用すると効果が出やすい業種で活躍の場が多いということになります。
しかし、【オルタナティブA】が正しい、あるいは【オルタナティブB】が正しいという考え方は傲慢で、顧客という言葉の組織の捉え方により、IoT、3Dプリンタ、スマートマシンなどのテクノロジー起点の「デジタルビジネス」と表現した方が的確な場合もあるでしょうし、顧客起点の「デジタルのマーケティング」「デジタル・トランスフォーメーション」と表現した方が的確な場合がある訳です。
IT部門のトップが、企業の目的を「既存顧客への新しい価値の創造、新規顧客の創造(顧客創造:Create a Customer)」と捉えることが可能ならば、A or Bと対立軸で捉えるのではなく、マーケティングを正しく理解し、マーケティングテクノロジストをうまく使いこなす(利用する)こと、これが賢者の選択ではないでしょうか。
● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/
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