常にコミュニティーに貢献しようとする姿勢は、私がサンを誇りに思うことのひとつです。利益を独占するのではなく、コミュニティーをつくり、シェアしていこうとする意欲がサンにはあります。Javaのコミュニティーがその良い例でしょう。Javaコミュニティーが創出した利益は、貢献した多くのベンダーによってシェアされており、サンが独り占めしたのではありません。
私は、日本の企業とやり取りする中で、競合同士であっても協力し合っているのを目にしています。シェアする、協力するということが既に日本の社会や文化に根付いていると感じています。それは米国で目にしたものと同じです。
もちろん、企業は株主やパートナー、そして従業員のために利益を生み出さなければなりません。サンも競合他社に勝つために積極的に取り組んでいます。そうして利益を得る一方、コミュニティーに貢献して技術やアイデアを還元するのもわれわれの責任であり、そのバランスが大切だと思います。
例えば、11月のJavaOne Tokyo 2005(http://jp.sun.com/javaone/)では、多くのJavaのサービスやソリューションを紹介しますが、同時にJavaの活用については他社よりもサンが理解していて、他社よりもわれわれの製品の方がJavaのサービスを提供するのに優れているということを示そうとしています。しかし、仮に顧客が競合他社の製品を導入したとしても、競合他社がJCP(Java Community Process)の一員だということであれば、きちんと貢献していきます。
サンの始まりは、コミュニティーでシェアできる、オープンなハードウェアとオープンなソフトウェアを組み合わせたワークステーションを開発しようとしたことでした。その後、四半世紀近く経ち、領域は広がりましたが、その基本は今も変わっていません。
今のわれわれのビジョンは、信号を発するのであれば、どんなデバイスであれ、ネットワークに接続されるということであり、Javaのデベロッパーはソフトウェアを書くことによって、そうしたデバイスを通じてネットワークに貢献しているといえるのです。
Javaのデベロッパーには感謝の言葉を伝えたいと思います。サンではなく、彼らが世界で最も優れたデベロッパーコミュニティーをつくりあげているのです。
そして、デベロッパーのみなさんがJavaによる優れたサービスを開発しようと競い合うのは健全なことですが、同時にほんの少しの時間を使ってコミュニティーに貢献してほしいと思います。そうすることでJavaのコミュニティーはもっと素晴らしいものになっていきます。
今のコンピュータの世界には、たくさんの選択肢と優れたオルタナティブがあるのですが、それでも過去の投資を守りたいという気持ちがITマネジャーらにはあるのでしょう。それは理解できます。
そこでわれわれサンでも、企業顧客を支援するために、他社と協力しながら2種類の新しいビジネスモデルに取り組んでいます。
ひとつは、サンのすべての製品が競合他社を含めた他社製品と相互運用できるようにすることです。この点においてわれわれは業界で最も優れた相互運用性を提供できることを目標としています。その取り組みの一環として、SeeBeyondやTarantellaなどの買収も行いました。
Tarantellaの技術によって、非常にセキュアなシンクライアントソリューションであるSun Rayの環境で使い慣れたWindowsのアプリケーションを利用することができます。こうした相互運用性への取り組みの成果は、JavaOne Tokyo 2005でも紹介できると思います。
もうひとつは、長期的な視野に立った、ユーティリティーコンピューティングへの取り組みです。
毎年、トヨタやホンダから魅力的な新車が出てきますが、だからといってそのたびに買い換えていく余裕はありません。ユーティリティーコンピューティングというのは、言ってみれば、最新のクルマを常にレンタルできるようなものです。最新のハードウェア機器を購入しても、すぐに陳腐化してしまうというリスクを取り除く方法なのです。
ユーティリティーの典型的なサービスは、水道、電気、ガスなどです。電気を使いたいからといって個人や会社がわざわざ発電機を買わないでしょう。ユーティリティーコンピューティングの目指すところもそれと同じです。
昨日、日本企業の多くや、米国の確立された伝統的な企業では、ITにおいてリスクを取りたがらない傾向があると書きましたが、それはなぜでしょうか? 私の経験から書いてみたいと思います。
先ず、リスクを取れば、失敗する可能性があります。それに人と同じことをしている方が楽です。
イチローのメジャーリーグ挑戦には大きなリスクがあったと思います。しかし、彼が日本の野球界を去り、メジャーリーグでプレーしたことで、彼はより大きな成功を収め、ベースボールがよりグローバルなスポーツになりました。
また、伝統的なITマネジャーがリスクを取りたがらないのは、選択肢が限られ、オルタナティブ(代替案)も少なかったからだと思います。1960年代から70年代は、基本的にメインフレームしか選択肢がありませんでした。しかも、それは少数のベンダーによって独占されていました。
1980年代から90年代になると、PCが登場し、選択肢が増えたのですが、残念ながらすぐにマイクロソフトとインテルによって独占されてしまいました。
しかし、今のコンピュータの世界は、たくさんの選択肢があり、仮に選択した結果がうまくいかなかったとしても、良いオルタナティブがあります。これがまさしくオープンシステムということです。
サンにおいてもいくつか例を挙げることができます。
1990年代、サンはオープンスタンダードアーキテクチャーとして自社のRISCコンピュータをデザインしました。われわれのRISCコンピュータを導入しようと選択した顧客にとって、それはメインフレームに対する優れたオルタナティブになったと思います。仮にそれがうまくいかなかったとしても、他社、例えば、富士通が同じアーキテクチャーに基づいた製品を開発して提供しています。
また、Solarisも素晴らしいオルタナティブだと思いますが、ほかにもさまざまなUNIXの派生が市場にあるほか、いずれはLinuxもオルタナティブになり得ると思います。
そして、もちろんJavaもそうです。ソフトウェアを書き、サービスを開発していくためのオルタナティブです。われわれはJCP(Java Community Process)という互換性を維持しながら革新を加速させる仕組みをつくり、あるときは競合するプレーヤー同士が協力して、Javaのさまざまなオプションが提供されるようにしました。これは素晴らしい選択だったと思います。
ITリーダーにお願いしたいのは、もっともっと新しい技術にトライしてほしいということです。それをせず、クローズドなベンダー固有の技術で囲い込まれたままでいる方がもはやリスクは高いのだということを理解してほしいのです。
ここ数年の日本における私の一般的な経験で思うのは、日本企業は、米国の確立された伝統的な企業をしばしば彷彿とさせてくれます。そこには共通点があるのです。
先ずは、技術に関してはリスクを取るのを恐れているということです。そして、伝統的なリーダー、あまり革新的でないリーダーというのは、より良いサービスの提供というよりは、コストの削減に集中しているということです。彼らはコスト削減を優先するあまり、既存のサービスの水準まで落としてしまっています。
伝統的な市場における伝統的な思考のリーダーの場合は、自分たちの戦略を立案して意思決定するというよりは、ほかの企業の戦略を後追いする傾向があります。
しかし、そうした伝統的なところと比較して、楽天、東京工業大学などでは、ITリーダーらがリスクを取る傾向が見られます。彼らは先ず、サービスを提供することを優先して考えています。もちろんコスト削減にも配慮していますが、あくまでも2次的なものとして捉えていると思います。彼らがコスト削減を考える場合は、サービスの水準を維持しながら、よりコストを削減する方策を見出そうとしているのです。
そして、やはり典型的な新しいITリーダーは、ほかの人の戦略を後追いするのではなく、独自の戦略に基づいて意思決定しているということです。
いずれにせよ、米国においても日本においても、古い考え方をする人もいれば、新しい考え方をする人もいます。国による違いではありません。
共通点として見られるのは、オープンプラットフォームを使おうとしてること、きちんとしたサービスの提供を第一に考えていること、競合が激しい中にあっても自社の顧客のための戦略を立案しており、決して後追いではないということです。
サン・マイクロシステムズのダン・ミラーです。これから約1週間、オルタナティブ・ブログの場を借りて、変革に挑戦する「次世代ITリーダー」について日ごろ考えていることを書いていきたいと思います(ただし、実際にはサンのスタッフが翻訳をしてくれています。ご容赦ください)。
私がサンに入社したのは1988年10月10日で、最近18年目を迎えました。私がサンを選んだのは、リスクを取る会社を体現していて、まだ設立から日が浅いのに業界を変える力を秘めていたからです。
ただ、個人的なことを付け加えれば、親しい友人がサンで働いていたことも1つの理由になっています。また、私にとってスコット・マクニーリは非常に興味深い人でした。ぜひ、その下で働きたいとも考えていたのです。
この17年間、サンはさまざまな偉業を達成し、ときにはあまりうまくいかないこともありましたが、私の目から見て、退屈だったことは一度もありませんでした。
サンは、伝統的な企業においてというよりは、日本でいえば、楽天のような新しい会社において、より大きな成功を収めています。彼らのリーダーやITリーダーというのは、これまでとは違った考え方を持っているのだと思います。
サンはもちろん新しい技術を引き続き提供していきますが、やはり新しい技術を受け入れてくれる新しい考え方を持った新しいリーダーが必要なのです。
シリコンバレーにおける私の経験ですが、新しいことに挑戦し、それによって報われたITリーダーたちをたくさん見てきました。ただ、日本の多くの企業や、米国であっても伝統的な企業においては、「もし失敗すれば、それによって罰せられてしまうのではないか」と心配する傾向が見られます。
一方、政府に目を転じると、日本でもオープンソース化や郵政民営化に真剣に取り組む意欲があるのは興味深いことです。
私が言いたいのは、サンとしてはもちろんやるべきことをやっていきますし、政府もやるべきことをやってほしいのですが、最終的に重要なことは、ITリーダーが新しい技術をどんどん取り入れていくことです。それがなければ何も実現しないのです。
明日からは、リスクを取ることを恐れない、新しい考え方を持つITリーダーについて書いていきたいと思います。