私の取材ノート:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 私の取材ノート

IT業界を四半世紀見てきたジャーナリストのこだわりコラム

« 2006年4月26日

2006年5月1日の投稿

2006年5月29日 »

 仕事柄、これまでIT業界をはじめ各界のキーパーソンにインタビューする機会が多々ありましたが、よく「だれが一番印象的でしたか?」と聞かれます。人物だけでなくインタビューしたタイミングもあるので一概には言えませんが、そう聞かれたときに思い出す人のひとりは、CSKグループの創設者、大川功氏です。大川さんの足跡はあらためて紹介するまでもなく、よく知られているのでここでは割愛しますが、亡くなられた2001年3月のおよそ1年前にインタビューさせていただく機会がありました。

 経営者としてオーラが出ている人はほかにもいますが、大川さんのオーラはそれまで私が経験したことのない迫力でした。静かながらも場を丸ごと飲み込んでしまうような気迫、眼光鋭い雷おやじとやんちゃ坊主が同居したような立ち振る舞い、そして大阪人ならではの間の取り方と緩急をつけたトーク……私も大阪人なのですっかり大川さんのペースに乗せられてしまったのをよく覚えています。

 そんな大川さんが、当時のインタビューの中で、インターネットが社会にもたらす本質的な変化について、こんなことを話していました。
 「まさしく“個”の時代が来ます。かつての工業化社会では筋肉労働者が中心でしたが、情報化社会になって知識労働者が中心の時代へと大きく変化しました。賃金も、工業化社会では筋肉労働に対し時間単位で支払われていましたが、情報化社会では知識労働に対する成果がベースになってきています。なぜなら、知識労働の場合は必ずしも時間をかけることが結果につながるわけではなく、人間のやる気、知識、経験などによって成果が大きく変わるからです。そうなると、強制的なマネジメントではなく、人をいかにやる気にさせるか、知識や経験をどれだけ多く蓄積させるか、ということが大事になってきます。情報化社会になり、知識労働に移行してきたことで、マルクスが主張していた資本家が労働者から搾取するようなことも困難になってきた。人間のやる気や感性、知識・経験の蓄積など、人の頭の中を搾取しようにも手の出しようがないですから。よく情報化が世の中を変えてきたと言われますが、本質的には個人が搾取されなくなってきたことが世の中の枠組みを変えてきたのです。だからこそ個人の時代が来ると私は確信しています」

 そして大川さんは、そうなるとビジネスのあり方もこう変わると予見していました。
 「あらゆるものが新しいパラダイムへとシフトするでしょう。とくにインターネット上では形のあるものよりも、美しさや感性、創造性、遊びといった“美・感・創・遊”の形のないものの売買が、ビジネスとして急速に立ち上がってくると思います。そうなると、顧客を確実に獲得するためのデータベースの整備と、それを活用したワン・トゥ・ワン・マーケティングが必要になりますが、ネット上では個々のニーズをきっちりと把握してマーケティング戦略を展開することができます。そうした蓄積と戦略展開がビジネスの新しい付加価値になっていくでしょう」

 およそ6年前のこのインタビューでは、話の内容が広範囲に及びすぎて、あとで記事にまとめるのに苦労した覚えがあります。でも今回、あらためて当時の取材ノートを読み返してみると、一時代を築いた大川さんの見る眼の鋭さをつくづく感じさせられました。
 こんな取材回想録ふうに取り上げられる話がありましたら、またご紹介したいと思います。

Isao Matsuoka

« 2006年4月26日

2006年5月1日の投稿

2006年5月29日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

松岡 功

松岡 功

『ITmedia エグゼクティブ』(アイティメディア発行)編集委員。ビジネスおよびマネジメントの視点に立ったIT活用を追求しています。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
最近のトラックバック
カレンダー
2013年1月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
matsuoka
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ