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仕事柄、これまでIT業界をはじめ各界のキーパーソンにインタビューする機会が多々ありましたが、よく「だれが一番印象的でしたか?」と聞かれます。人物だけでなくインタビューしたタイミングもあるので一概には言えませんが、そう聞かれたときに思い出す人のひとりは、CSKグループの創設者、大川功氏です。大川さんの足跡はあらためて紹介するまでもなく、よく知られているのでここでは割愛しますが、亡くなられた2001年3月のおよそ1年前にインタビューさせていただく機会がありました。
経営者としてオーラが出ている人はほかにもいますが、大川さんのオーラはそれまで私が経験したことのない迫力でした。静かながらも場を丸ごと飲み込んでしまうような気迫、眼光鋭い雷おやじとやんちゃ坊主が同居したような立ち振る舞い、そして大阪人ならではの間の取り方と緩急をつけたトーク……私も大阪人なのですっかり大川さんのペースに乗せられてしまったのをよく覚えています。
そんな大川さんが、当時のインタビューの中で、インターネットが社会にもたらす本質的な変化について、こんなことを話していました。
「まさしく“個”の時代が来ます。かつての工業化社会では筋肉労働者が中心でしたが、情報化社会になって知識労働者が中心の時代へと大きく変化しました。賃金も、工業化社会では筋肉労働に対し時間単位で支払われていましたが、情報化社会では知識労働に対する成果がベースになってきています。なぜなら、知識労働の場合は必ずしも時間をかけることが結果につながるわけではなく、人間のやる気、知識、経験などによって成果が大きく変わるからです。そうなると、強制的なマネジメントではなく、人をいかにやる気にさせるか、知識や経験をどれだけ多く蓄積させるか、ということが大事になってきます。情報化社会になり、知識労働に移行してきたことで、マルクスが主張していた資本家が労働者から搾取するようなことも困難になってきた。人間のやる気や感性、知識・経験の蓄積など、人の頭の中を搾取しようにも手の出しようがないですから。よく情報化が世の中を変えてきたと言われますが、本質的には個人が搾取されなくなってきたことが世の中の枠組みを変えてきたのです。だからこそ個人の時代が来ると私は確信しています」
そして大川さんは、そうなるとビジネスのあり方もこう変わると予見していました。
「あらゆるものが新しいパラダイムへとシフトするでしょう。とくにインターネット上では形のあるものよりも、美しさや感性、創造性、遊びといった“美・感・創・遊”の形のないものの売買が、ビジネスとして急速に立ち上がってくると思います。そうなると、顧客を確実に獲得するためのデータベースの整備と、それを活用したワン・トゥ・ワン・マーケティングが必要になりますが、ネット上では個々のニーズをきっちりと把握してマーケティング戦略を展開することができます。そうした蓄積と戦略展開がビジネスの新しい付加価値になっていくでしょう」
およそ6年前のこのインタビューでは、話の内容が広範囲に及びすぎて、あとで記事にまとめるのに苦労した覚えがあります。でも今回、あらためて当時の取材ノートを読み返してみると、一時代を築いた大川さんの見る眼の鋭さをつくづく感じさせられました。
こんな取材回想録ふうに取り上げられる話がありましたら、またご紹介したいと思います。
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