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今 回は、米国のオンライン小売事業者ゴルフスミスの成功事例を紹介したいと思う。ゴルフスミスは、米国のゴルフ関連用品を専門に扱う大手チェーンストアで、イーコマースにも力を入れている企業として知られている。最近発表された2011年度第1四半期の業績も好調で、イーコマースによる売上高が対前年同期比で30.3%も伸びたという報告が出ている。そして、このイーコマースによる売上高が伸びた大きな要因の一つが、イーコマースビデオを導入したことであるという報告が最近公開され、米国のオンライン小売事業者の間で話題になっている。

ゴルフスミスの成功事例を紹介したいと思った理由は、イーコマースビデオを導入してコンバージョン率が35%も上がったというインパクトの大きさももちろんあるが、一番の理由は、今まで紹介してきたザッポスやオーバーストック・ドットコムが実践してきた戦略と全く違ったアプローチ方法を取り入れて成果を手に入れたからである。これから紹介する、ゴルフスミスがイーコマースビデオを導入するに当たって選択した戦略は、日本国内のイーコマースビデオの導入を検討しているオンライン小売事業者にとっても参考になることは間違いない。是非最後まで読んでいただき、イーコマースビデオ導入の参考にしていただければと思う。

 

1】 コンバージョン率が35%アップしたゴルフスミスのイーコマースサイト

※ ゴルフスミスのイーコマースサイト ⇒ http:www.golfsmith.com

ゴルフスミス・ドットコムが運営するイーコマースサイトは、ゴルフ関連用品を中心に、最近では靴や洋服なども販売している。現在取り扱っている商品アイテムは、ゴルフクラブ、靴、洋服、GPS端末、ボール、カバンなど全部で11種類。商品動画に関して言えば、全てのアイテムに配置されているわけではない。ただ、前回紹介したクロックス同様、特定の場所に商品動画を集中させているせいか、比較的探しやすい。

例えば、特集コーナーの”New 2011 Golf Clubs”をクリックしてみてほしい。ゴルフクラブの写真が表示されると思うが、その写真をクリックすると商品購入ページに移動する。その商品購入ページに表示されている写真の下の方に商品動画がある。この特集コーナーに限定すれば、ほとんどの商品購入ページに商品動画が配置されているはずだ。

ゴルフスミスの商品購入ページを見て、すぐにコンバージョン率が35%アップした理由がわかった。商品動画が一目でわかるデザインになっている。彼ら自身、インタービューでこのデザインは意識して作成したことを認めている。また、商品動画を再生するためのプレイヤーのことを“big shiny black play button(大きくて黒光りするプレイボタン)と呼んで、” この目立つプレイヤーがコンバージョン率のアップにつながっていると発言している。

ゴルフスミスが今回採用した、商品購入ページに直接商品動画の再生プレイヤーを用意するユーザインターフェースは、イーコマースビデオの導入を検討している全てのイーコマースサイトがお手本にしてほいデザインである。ザッポスもオーバーストック・ドットコムも、始めてサイトを訪問する顧客は商品購入ページで商品動画を見つけるのに苦労するという声をよく耳にする。ゴルフスミスのデザインは、商品動画を前面に出していて好感が持てる。

商品動画自体も非常によく出来ている。再生時間は60秒前後にまとめられているし、商品の特長もポイントを絞って伝えることができている。まざに商品動画のお手本のような完成度だと言っていいだろう。この後に詳しく説明するが、ゴルフスミスは商品動画の生産を自社では行わず、全て外注しているということだ。この辺りにもヒントが隠されているのかもしれない。

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冒頭でも触れたように、ゴルフスミス・ドットコムが導入したイーコマースビデオは、1年後にとんでもない効果を生み出す。導入から1年後に効果測定を行ったところ、商品動画を配置した商品購入ページのコンバージョン率が、テキストと写真だけの商品購入ページに比べて35%も高いという、驚くべき効果があったということがわかったという。

また、もう一つの効果として、具体的な数字は公表していないものの、商品動画を配置した商品の方が、テキストと写真だけ用意した商品よりも返品率がはるかに下がったという。この返品率が下がったという効果は注目に値する。あのアマゾンでさえ、商品の返品が収益を圧迫しているという調査結果が出ている。商品動画を導入することで、返品率が下がり収益の向上につながるという事実は、全てのオンライン小売事業者に、イーコマースビデオの導入を検討させるきっかけとなるはずである。

 

【2】 ゴルフスミスが採用したイーコマースビデオ導入を成功に導く2つの戦略

では、ゴルフスミスはなぜたった1年だけでこれほどの成果を上げることができたのだろうか。その秘密は、ゴルフスミス独自の戦略にある。1年間で成果を上げることに成功した、イーコマースビデオ導入を成功に導いた彼らの戦略を紹介したい。

① 商品動画を配置する商品を限定する

ゴルフスミスは、彼らのイーコマースサイトにイーコマースビデオを導入することを決めた時から、全ての商品に商品動画を配置するのは無理だという理由で、商品動画を配置する商品を限定するという戦略を採用した。自分たちの意志で商品動画を配置する商品を限定するというこの戦略は、ザッポスやオーバーストック・ドットコムが採用してきた戦略と全く反対で面白い。ただ、商品を限定すると言っても、そこにはゴルフスミス流の戦略が当然のごとくある。以下が、商品を限定するためにゴルフスミスが実行している3つの戦略だ。

-1 20%の売れ筋商品に限定する

ゴルフスミスは、80:20のルールに基ずき、商品動画を配置する商品を20%の売れ筋商品だけに限定している。ブランドや性別などで限定するのではなく、売上に貢献している商品だけに限定するという戦略は、ある意味わかりやすくていいのかもしれない。このゴルフスミスが実行した20%の売れ筋商品に限定するという戦略は、中小のオンライン小売事業者にとって朗報以外の何物でもない。このやり方でちゃんと成果をあげているのだから、試してみない手はないと考えるのが普通だ。ザッポススタイルが根底にある、今までの常識を覆すような、画期的な戦略の一つだと言っていいだろう。

-2 複雑な商品に限定する

ゴルフスミスは、できるだけ複雑な商品にだけ商品動画を配置するよう限定している。確かに、彼らのイーコマースサイトにアクセスして、いろいろな商品購入ページを覗いてみたのだが、ゴルフボール、バッグ、洋服などの商品購入ページでは商品動画を見つけることができなかった。売れ筋商品の中から、商品動画を使って説明した方が良いと思われる商品だけにさらに限定するという戦略は、商品を限定するためのルールとしても、わかりやすくていい。

-3 定番商品に限定する

ゴルフスミスは、できるだけ定番の商品に商品動画を配置するよう限定している。季節限定のライフサイクルの短い商品に商品動画を配置しても、せっかくコストかけて制作して商品動画がすぐに必要なくなってしまう。この無駄を無くするために、ライフサイクルの長い定番商品だけに商品動画を配置する戦略を採用している。

② 商品動画の生産は全て外注する

ゴルフスミスは、商品動画の制作を全て外注している。これも、ザッポスが実践してきた全ての商品動画を自社生産するやり方と全く正反対の戦略だ。ただし、商品動画の中で商品を説明する役は、自社のスタッフを必ず起用している。この点に関してはザッポスと同じ考え方のようで、顧客に信頼してもらうためには、モデルなどは使わず自社のスタッフを起用するべきだと語っている。

この商品動画をすべて外注するという戦略は、全体の予算が決められているような場合には効果を発揮すると思う。と言うのも、ザッポスが商品動画をすべて自主生産している背景には、全ての商品に商品動画を配置することが理想であるという前提条件がある。もちろん、顧客に提供する商品動画は自分たちで全て作りたいという、感情からくる要素が大部分を占めているだろう。しかしその一方で、全ての商品に商品動画を配置するためには、コスト的に考えてみても自主生産するしかないというもう一つの事情があったことも事実である。

よって、20%の商品にしか商品動画を配置しないという決定がなされ、そのおかげで予算に余裕ができたのであれば、その余裕分を商品動画の生産を外注するコストに回すという戦略は理にかなっている。ちょっと乱暴な言い方になってしまうが、最終的には、そのイーコマースサイトが、量を選ぶか質を選ぶかという問題になってくる。

 

【3】今回のまとめ

今回紹介したゴルフスミスの成功事例が、他のオンライン小売事業者に与えるインパクトは相当なものだろう。なぜなら、

 ① イーコマースサイトのコンバージョン率が35%上がった
 ② 商品の返品率が下がった

といった、明確な成果が報告されているからだ。しかも、ゴルフスミスは、この成果をたった1年で成し遂げている。そして、この成果を成し遂げるためにゴルフスミスが選択した戦略がまたユニークだ。それは、これまでザッポスやオーバーストック・ドットコムが実行してきた戦略とは、正反対に位置するものである。

 ① 商品動画を配置する商品を限定する
 ② 商品動画の生産を全て外注する

特に、①の「商品動画を配置する商品を限定する」という戦略は、「できるだけたくさんの量の商品動画を用意する」という、ザッポススタイルの戦略を前にして途方に暮れていた中小のオンライン小売事業者にとっては、バイブルのような存在になるだろう。やり方さえ間違わなければ、20%の商品にだけ商品動画を配置する戦略を選んでも、十分な成果が得られるということだ。

米国のオンライン小売事業者の間で、イーコマースビデオ導入の勢いが当分止まりそうもない。そして、米国のオンライン小売事業界には、ゴルフスミスのような成功事例がまだまだたくさんある。面白い事例を見つけて、また報告したいと思う。

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伊藤 靖

伊藤 靖

株式会社リトルウイングス代表取締役。
青森県弘前市出身。大田区蒲田在住。
企業のメディア戦略、コンテンツ戦略、モバイル戦略の構築と実行をサポートするサービスを提供しています。

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