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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

シリコンバレーと製造業

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Andy Grove氏はIntelの創業者の一人で、いまだにシリコンバレーで強い影響力を持っている。これまで、シリコンバレーの変質について警鐘を鳴らしてきているが、最近のBusiness Weekでその持論をまとまった形で展開しているので、それに触れてみたい。

米国が製造業を離れて金融業へと特化していき、大学でも博士はおろか修士でも理科系ではなく経営や金融分野に進むことが圧倒的に多くなっている。理想は、学部または修士までは理科系(例えばコンピュータ サイエンス)で、その後MBAを取ることだ。しかし、理科系を勉強してきていなくても、スタートアップでも大手でもMBAはもてはやされる。

なにやら製造というと「ダサイ」というイメージがあり、人が集まらない傾向がある。それに加え、製造費の高騰ということもあって、コンピュータ関連製品の製造は中国や台湾などにアウトソースされることが多くなり、今や製品の大部分は米国の外で製造されているのは周知のとおりだ。仕様やデザインは米国で決め、製造は外国という構図だ。競合する各メーカーの製品を、ひとつの製造会社が量産しているという図も珍しくない。これも世界的分業という流れで仕方がないと大方の人は同意するのだろう。

Grove氏はこれに真っ向から反対している。この傾向が進むにつれ、シリコンバレー全体として就業数が減少し始めた、と氏は指摘する。シリコンバレーのスタートアップが、居並ぶ大手を蹴落として市場を独占し、大規模な株式公開をして創業者に巨額の金が転がり込む。そればかりに目が向けられているが、実はそれだけではなく、そういった企業はシリコンバレーに大量の直接および間接の雇用を生み出す。

すべての人がスタートアップを創業できるわけではない。また、スタートアップを始めた人々が全員成功するわけではない。シリコンバレーは特殊な地域ではあるが、そこに住む人も他の地域と同様、雇用が必要だ。製造業をアウトソースしてしまうということは、製造業に携わる人々の雇用が奪われ、製造に関する技術等が失われることになると、Grove氏は懸念する。

テレビその他のエレクトロニクス産業を外国に奪われ、自動車産業さえもトヨタなどの外国企業に凌駕されて(実際カリフォルニアの高速道路を走ると、日本車やドイツ車が8090%という感じだ。もっともテキサスなどではそうではない)いるというのに、アメリカ人はあまりそれを気にしているようには見えない。

これは対岸の火事などではなく、日本でも同じことが起こるのではないか。米国で見ていると、一時期かなりの分野で日本製が見られた。今もまだ、自動車は圧倒的に日本製が多いし、コンピュータやTVなどの家電も日本製は多い(カリフォルニアに限られるかもしれないが)。しかし現在、例えば携帯電話は韓国製が圧倒的に多い。日本はアメリカの市場から後退しているように見える。その次は日本の市場からも消えてゆくのではないかと危惧する。

我田引水のそしりを受けることを覚悟で言うと、昨今の、ウェブをインフラの一番下と見てその上にアプリやサービスだけを提供する風潮は、コンピュータのハードやOSレベルを理解する技術者の育成を阻害し、長期的には業界そのものが、コンピュータ システムの開発で大きなハードルにぶち当たるような気がする。恐竜世代としては、ウェブもインフラの上に乗るアプリケーションのひとつに過ぎないと捉える。そのアプリを支えるインフラを開発・改善できない国は、短期的にはともかく、長期的には決してコンピュータ業界をリードできないと思う。インフラやOSはよその国がやるからよい、というのは、製造はどこかの国に任せるからよい、に通じるところがあると思う。インフラをおろそかにすることは、その業界から撤退することだと思う。

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