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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

IT立国を目指すベトナム

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米国にいるとあちこちからの移民に出くわす。最近初めて、ベトナムの会社に働くベトナム人に会った。これまでに会ったベトナムから来た人たちは皆、米国企業で働いていた。直接会ったことはないが、ベトナムからボートで決死の脱出をした人々の話はよく耳にした。荒れ狂う海でボートが転覆して死亡する人たち、海賊に襲われる人たち。命からがら米国までやって来た。

「恐竜」世代の思春期は、ベトナム戦争華やかな頃に重なる。北ベトナムはソ連や中国と組み、米国と戦っていた。そんな記憶とは無縁に、今、新たな世代がベトナムで育っている。

会ったそのベトナム人は、日本を含む世界中にITのアウトソースを展開している会社の米国代表で、とにかく若い。せいぜい30代に入ったところだろうか。ハノイ出身だと言っていた。35年以上前に終わったベトナム戦争は、彼にとっては単なる歴史で実感はなく、全く反米の意識はない。むしろ、米国に市場を求めている。現在国内は親中派と親米派に分かれているそうだ。

米国は英語が通じるからか、中国よりもインドへのアウトソースが多かったと思う。日本は中国に馴染みのあるせいか、アウトソースはそちらの方が多いように思う。だがここ数年来、中国もインドも賃金が上がり、アウトソースの場所としては魅力を失いつつある。それに引き換えベトナムは、若い人口構成(7080%30代以下)、高い識字率(94%)、そして安い物価という条件が揃い、魅力のあるアウトソース市場である。

それを背景にしてか、この若きリーダーは自信に満ち溢れ、市場を米国と日本に求めたいと熱意を込めて述べていた。彼の会社は既に1000億円の売り上げがあり、日本でも有名な会社が顧客となっている。できるだけ政治の話はしないようにしていたが、やはりベトナムの日本への感情は気になるところだ。この人は、ベトナムにとっての脅威は中国だと言っていた。国境を越えれば向こう側は中国で、そこには強力な軍隊が存在する。この脅威に備えるためには、彼は米国と「日本」に助けを求めたいと言った。米国はともかく「日本」か、と思うけれど。

日本を市場と見ての発言とも解釈できるが、筆者はそれだけではないと思う。日本の経済力、国民、技術力はまだ捨てたものではない。彼は以前、ベトナムに進出してきた日本の企業から就職の誘いを受けたが断り、今の道を選んだ。しかし、日本に対してはとても良い感情を持っている。過去を引きずらず、未来に向かって全力疾走しているという感じだ。

1960年代後半から70年代にかけて、日本が経済的に急成長し、「明日は今日より良くなる」というエネルギーが世間に満ち満ちていた時期を知る「恐竜」世代の筆者は、今のベトナムに同様のエネルギーを感じる。

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