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IBM提供のシュタインズ・ゲートの短編アニメを見てコグニティブ・コンピューティングな道案内システムを考えさせられた

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Microsftさんとのクラウド分野での事業提携のニュースで大きな騒ぎを起こしそうなIBMさんが日本国内でシュタインズゲートと連携したコグニティブコンピューティングに関するオリジナルアニメ作品を配信しています。

外出先で、いつものようにぶつかり合った、岡部と紅莉栖。ケンカ別れした2人は、互い­に後ろ髪を引かれながらも、別々のルートで秋葉原の未来ガジェット研究所への帰途につ­く。それぞれの携帯端末に接続されたコグニティブ・コンピューティング・システムに、­道順のナビゲーションを委ねるのだが…。

Steins;Gate 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング EPISODE II ナビゲーション編
http://www.mugendai-web.jp/steinsgate/episode2/

なお先日、EPISODE I クッキング編が公開されていまして、それに関する私のエントリはこちらとなります。

IBM提供のシュタインズ・ゲートの短編アニメを見てコグニティブ・コンピューティングの未来を考えさせられた

さて今回は色々とあってラボメンのNo.1とNo.2が「最適な経路で未来ガジェット研究所までナビゲートしてほしい」という要望をコグニティブシステムに依頼するという内容でした。色々とあって最適な経路が提示されるという話でした。

通例、「最適な経路」という命題は我々がよく利用するカーナビゲーションのシステムと同じように「時間優先」ですとか「距離優先」といった明快な命題です。そのような命題を解くための手順を「アルゴリズム」と呼び、そのアルゴリズムが特定のコンピュータ言語で実装されたものを「プログラム」というように呼びます。

ある命題があれば、多くの場合にそれを解くためのアルゴリズムがあります。そのアルゴリズムをプログラムに実装することができ、かつプログラムの実行時間が人間の許容できる範囲内の時間に終わるのであれば情報システムの技術者がハッピーになるというそのような仕掛けでITの業界は回っています。

例えばこちらのリンク先のように難解そうに見える問題であってもアルゴリズムを最適化するために研究に取り組んでいる方がいるようです。

製鉄所における熱延工程(Hot Strip Mill)とは、スラブと呼ばれる鋼鉄のかたまりを一枚ずつローラーで上下から挟んで引き延ばし、コイルと呼ばれる薄板に加工 する工程です。 生産されるコイルの表面品質はローラーの表面状態に依存します。 スラブの圧延を繰り返すとローラーの表面状態が悪くなっていくので、ある程度の数のスラブを圧延すると、ローラーは新しいものに取り替えられます。 ローラーの取り替えから、次の取り替えまでの間のことをラウンドと呼びます。 このようなローラーの表面状態の変化のため、例えば高い品質が要求されるコイル を生産するには、ローラーの取り替え後、ローラーの傷みが少ない初めのうちに圧 延しなければならないなどの制約があります。 薄いコイルを圧延するには高い圧力が必要で温度も上昇するため、薄いコイルを圧延するとローラーが徐々に痛んでいきます。 そのため、薄いコイルを連続して圧延できる数には制限があります。 また、ローラーの表面状態を回復させるために、厚みのあるコイルを挿入しなけれ ばなりません。

熱間圧延工程におけるスケジューリング問題とは、スラブプールの中から適切なスラブを選択し、様々な制約を満たす複数ラウンドのスケジュールを作る問題です。

ビジネス・アナリティクス - 熱延スケジューリング

私も理解し切れていませんが、熱い鉄を圧延するためのローラーは、厚いコイル→薄いコイルというように使うと寿命まで長く使うことができるようでして、そのようにスケジューリングができればいいのですが世の中からの注文の順番などの制約からそのように使うことは難しく時に設計寿命より短くローラーがダメになってしまうと。よって最適なスケジュールを作るにはこれまでは職人芸だったけれども、優れたアルゴリズムが研究されれば価値がありそうだと、そういうように見て取れます。他にもマニアックなアルゴリズムというものはたくさんあります。たとえばこれ。

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自動改札機の運賃計算プログラムはいかにデバッグされているのか? 10の40乗という運賃パターンのテスト方法を開発者が解説(中編) - Publickey

自動改札機の運賃計算プログラムはいかにデバッグされているのか? 10の40乗という運賃パターンのテスト方法を開発者が解説(後編) - Publickey

他にも情報処理技術者試験の勉強などで「巡回セールスマン問題」といった言葉を聞いたことのある方がいらっしゃるかもしれません。そういったような「命題とアルゴリズム」の関係というのは情報技術の発達を推進する重要な要素の一つであることに間違いはないでしょう。

さてこのアルゴリズムの部分は、このように計算すればこうなるはずだという人間の思考をベースとした数学的なアプローチがこれまでの主流でした。が、コンピュータにお任せしてビッグデータを解析し、何らかの規則性や相関を発見させるといったアプローチも生まれています。今回のオリジナルアニメはナビゲーションを最適化するというテーマでした。最適なナビゲーションをするために周辺の渋滞情報や鉄道のダイヤ、歩行ルートなどがアニメ中の「コグニティブシステム」により計算されてアウトプットが提示されたものと思います。ひょっとすると夏場であれば歩行ルートが日陰になっていることですとか、風通しの良いところといった提案があるかもしれません。

さて人間視点ですと「それは気が利いているね」ということでいかにも最適と捉えることができるのですが、実はこの「最適」というのが曲者です。上で書いたように「最短距離」ですとか「最早で着く」といった指標と異なって「暑くない」ですとか「緑が目に美しい」といった指標も含めた最適をコンピュータに提示させるというのは非常に難しいものです。いくつか「快適さ」という指標も含めた上で「最短」などの指標と一緒に個人別で重み付けをして、ビジネスマンなら早さ中心ですとか、お年寄りならば快適さ中心といった評価をすることはできるでしょう。ただそのようなやり方には限界も感じられます。今回のアニメはそういった次元を更に超越した内容となっており、誰もが「これは最適な経路だったな」と思わせると同時に未来感(実現の難しさ)も感じられるストーリーに仕立て上がっているのはさすがはコンピュータをよく知るIBMだと深く頷かされました。

ちなみに、そういった指標を分解せずとも可能なアプローチもあります。考えられる限り多くのセンサーデータ、路面の温度ですとか風向といった指標ですね、そういったものを測定可能なように統合的にデータを収集しながら、ある程度の誤差を意図的に含めるような形で経路を作成し、非常に多数の人に長い時間ナビゲーションシステムを使ってもらった結果の中で再利用率が高いですとか、何らかの方法で収集した「満足度」が高い経路にはどのような法則があるのか、それをビッグデータ解析して後から知見を見出すということはそれほど非現実的なやり方ではありません。今でもスマホ向けのソーシャルゲームでは適当な時間にキャンペーン情報をプッシュ配信し、どのようなクラスタに何時頃にどういったキャンペーンを撃ちこめば課金してくれるのか?利用時間が伸びるのか?友達の誘いが増えるのか?といった指標を管理していると言われています。

その一方でそのようなランダムさに支配された試行なく、かつ人間の力も借りずにいわゆる「フォアキャスティング」すなわち未来予測の手法でコンピュータ自身にこうすればこうなるだろうという予測をさせるということは今の段階ではなかなか難しいことですし、ましてや的中するとなれば一層に難しいものです。それでもアニメの中では何が起きるかはお楽しみください。ただし見る側としてはおよそ15秒くらいでオチが未来予測できてしまうというのもまた非常に興味深いものです。

そしてラボメンがNo.6,No.7と出てきたところで次回にはいよいよNo.8が出るに違いないという未来予測をもってこのエントリを終えると共に、いよいよそうならなかったならばいつ出るのか?出ないのか?ハイペリ先生に聞けば教えてもらえますか?みたいなことを期待するというか思い悩むというか、ドキドキしながら次回作をお待ち申し上げる次第であります。

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