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IBM提供のシュタインズ・ゲートの短編アニメを見てコグニティブ・コンピューティングの未来を考えさせられた

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IBMさんがシュタインズ・ゲートとコラボレーションした企画をスタートされました。

特設サイトはこちらです。

Steins;Gate Sponsored by IBM 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング

上記サイトからはYoutubeにアップロードされた3分ほどのオリジナルアニメ「クッキング編」がリンクされています。ラボメンナンバーの1から4の4人がコグニティブ・コンピューティングについて紹介するような形となっています。別の話も予告されていて4本まで公開されるような感じです。ここに8はどうしたって書いたら反映されるんですかね?されませんかそうですか。

公開後にはtwitterのリアルタイム検索で上位に「シュタゲ」といったキーワードがランクインした他、科学アドベンチャーシリーズの公式ツイッターアカウントの@kagakuadvによる紹介tweetは800RTを超えるなど力強く波及していっています。ITmediaねとらぼを始めニュースサイト各所でも記事として紹介されております。私も楽しく視聴しました。

日本IBMと「シュタゲ」がコラボ 「コグニティブ・コンピューティング」のアニメ公開 - ねとらぼ

シュタインズ・ゲートとIBMの関係は見ている人にはすぐわかる、見ていない人には非常にわかりにくい上にネタバレになってしまうのでこのエントリでは細かくは紹介しません。シュタインズ・ゲートで重要なアイテムがIBMのデスクトップPCをモチーフとしたIBN5100という機種でした。また、本日はXBOX360でシュタインズ・ゲートの原作となるゲーム版が発売されて5周年となることから、その関係でのコラボというのもあるかと思います。

さて、コグニティブ・コンピューティングとは何でしょう?コグニティブ(Cognitive)とは「認識の」や「経験的知識に基づく」という意味であり、認識(Cognition)から派生しています。私はcognitionという単語はすっと思い出せませんでしたが、recognizeといえば理解する、という意味だったことは思い出せました。

更に語源をあたってみましょう。スペースアルク社のサイトによればこの辺りの単語はラテン語のnoscere(知る、認識する)を語源とするようです。英語ではgnostic(知識に関する、霊界の知識を有する、グノーシス派の)となったとされています。know(知る)、diagnose(診断する)、noble(知られた、高貴な)、ignore(無視する)あたりも関連しているようです。gnosticというと、手元にある山川出版社の世界史小辞典第2版によるとグノーシス派という単語があり、

「古代キリスト教の異端。(中略)物質界の無知から開放されて霊的世界の英知を知覚するものは、不死を与えられ、天上界に住むと説く。」

とあります。私は宗教や哲学には明るくありませんが、人間が物質界について突き詰めて知ることによって神性に至ることができる、というような考え方であったと理解しています。なお最近さまざまなニュース系アプリが人気を博していますが、そのうちのGunosyはこのグノーシス派が名前の由来となっており、ギリシア語のGnosy(知識)にU(you:あなた)をつけた造語とのことです。

なんとなくわかった「コグニティブ=認識」という意味。それがコンピューティングとどのように繋がるのでしょうか。それはIBMのWebサイトのこの文面がわかりやすいと思いましたので引用します。

企業はビジネス分析を通して、業績に関する洞察を獲得したり、将来の機会を見つけようとしています。しかし、システムが私たちの思考、行動、経営の仕方を変えてしまうかもしれません。新たな時代のコグニティブ・コンピューティングは、経験を通じてシステムが学習し、相関関係を見つけては仮説を立て、記憶し、成果から学習することができます。

IBM 新しい思考、行動、経営の方法

情報システムというのはスマートフォンからPC、サーバ、メインフレームまで極端に形状やアーキテクチャが変わってもInput、処理、Outputという三要素は変わりません。ムーアの法則や数学の発達により処理は高度に進化してきました。しかしながら残るInputとOutputの分野は進歩が遅れていると言えます。硬直的なPC+有線ネットワークに依存したワークスタイルからスマートフォン+ワイヤレスネットワークの世界に進んだだけでこれだけ世の中が変わりました。もしInput自身をコンピュータが判断し、そのOutputも人間向けでなく他のコンピュータに向けたものとしたらどのようなものになるか?私は想像もできません。

その前者であるコンピュータが自律的にInputすることができる世界というのがコグニティブコンピューティングの目指す達成像のひとつではないかと思います。世の中を認識し、学習することができるコンピュータは何がすごいのでしょうか?今のコンピュータはあらゆるInputを人間の「入力する行為」または「インターフェースに合わせたデータ連携」に依存しています。スマートフォンで情報流通量が爆発的に増え、1日のtweet数が4億回を越しているとも言われます。とはいえ人間がインプットするスピードは遅いですし、人間にわかりやすい自然言語ですとか、動画、写真といったデジタルデータはコンピュータが解釈しにくいですし、その上に乗っかる表情や声のトーンなどは一層わかりずらいものです。そのため人間は現実世界をコンピュータに投影するため関係代数を使いますし、自然言語で入力せずにフォームに区切ったりしています。

それがIBMのWatsonによるクイズ番組ジョパディのチャレンジでは合計100万冊の書籍に相当するデータがそのまま入力されたと聞いています。100万冊を人手で教え込むことは現実的ではありません。仕掛けとしてはアルゴリズムが開発され、それに基づいてWatsonが読み、内容を認識したのでしょう。認識しただけではクイズに使えませんので、正解は何かという学習も同時になされたかと思います。100万冊を処理できるならば1000万冊を処理することも期待できますので、世界最大の図書館であるアメリカ議会図書館にある1,972万9,698冊(2004年当時・書籍のみで新聞などは含まない)の書籍をすべて読むこともアーキテクチャや物理的制約が許せば可能になることでしょう。このように人間がわざわざ入力するという制約から解放されるのがコグニティブ・コンピューティングのすごい点の一つであると思います。

そしてもうひとつ。人間の認識を越えるという点もすごいところです。話は冒頭に戻り、シュタインズゲートの「クッキング編」では手元にある材料からコグニティブ・コンピューティングで美味しい料理を作るというストーリになっています。(クリスティーナの料理力にも絡めた展開です。素晴らしい。)料理というのは長い歴史の中でかなり成熟していますが、食材や調理法がグローバル化したために組み合わせの爆発が生じており、なお一層多くの種類の料理を作る予知があると思われます。実際に肉じゃがは日本人料理人がイギリスのカレーから着想ししょうゆ味にしたという説があります。これはシンプルな工夫の例で、例えばアフリカの果物をすき焼きに入れるといった工夫は人間の常識からはなかなか難しいものです。

一方で、人間の味覚は味覚物質の量とそれに対する生化学的な反応から成り立っています。どういった配合ならば美味しいという条件をコンピュータが理解できるのであれば、どのような素材をどのように料理すればどのような味覚物質が得られるかというデータベースを与えることでレシピを創造することができてしまうでしょう。この味覚の創造は単純な素材で単純な調理ならば足し算引き算で済むので人間でも可能であると思います。しかしながら実際には「ニンジン」といっても甘みや苦味といった複数の味覚成分の組み合わせとなった素材ですから「甘みを足すためにニンジン」ということをすると苦味も入ってしまいます。また、調理時間や調理時に起きる素材間の相互の化学変化などの複雑な事象もあるでしょう。これらを組み合わせて理想の味を出すのはRSA暗号の素因数分解のようなもので、コンピュータにとっても簡単なものではないと思われます。が、人間はそれ以上に太刀打ちできない領域でしょう。おそらく料理人の方は過去に味わった料理の記憶と共に、完成品からの足し算引き算からなる膨大な試行錯誤で新しいレシピ開発をされているのだと思います。コンピュータが作るレシピであれば完成品なしにブロックを積み上げるようにして理想の味を作ることができそうです。これは人間の認識を超える力です。シュタインズゲートでは、料理の下手さの記号的な表現としてグレープフルーツのサラダに納豆と挽肉を入れようとするシーンがありました。普通の人であればそのような発想はできないでしょうが、求める成分に対する要素の分析によっては「これまで見たことがある組み合わせ」というのは何の意味もないでしょうから、コグニティブコンピューティングの結果であればそのような料理を提案できるかもしれません。

その先はどうなるのでしょうか。先ほどコンピュータはInput、処理、Outputの3要素からなると紹介しました。ではOutputはどうでしょうか?現状、コグニティブ・コンピューティングのフォーカスはInputと処理にあるように思います。そのためOutputはInputおよび処理の過程に誤りがないかを人間に尋ねるという使われ方が中心となっています。例えばコグニティブ・コンピューティングによる料理の結果、美味しいものはできるのでしょうか?シュタインズゲートの「クッキング編」では鳳凰院凶真が試食をして美味しくて驚くという結果でした。私の理解では、コグニティブ・コンピューティングの計算結果のうち人間系に作用する料理や医学といった結果は人間に理解できる形でOutputされると共に、結果の良し悪しが新たなInputとしてフィードバックされることになるでしょう。それによってアルゴリズムが強化されれいきます。その一方で人間系にいちいちOutputしないような使われ方も考えられます。例えば株式の超高速売買のように「利益が大きければ勝ち」ですとか、小売データの分析活用のように「売り上げを増やせば勝ち」といったルールであれば人間にOutputすることなく、センサー直結で自動運転してもらっても一向に構わないはずです。むしろ「信号を制御して渋滞を減らす」といった社会問題ですらほとんどの課題は人間に逐次Outputする必要はありません。知覚分野や倫理判断の必要な分野のみが人間と歩調を合わせるだけであり、それ以外のOutputはコグニティブ・コンピューティングの系というよりはIoTの枠組みと共に進歩していくのかもしれません。人事評価とかはたぶん正解なのですが、ちょっと嫌ですね。(戦闘妖精雪風みたいな話もありますし)

さてシュタインズ・ゲートでは過去に干渉することで現在や未来がメロメロになるところがおもしろみのひとつです。超高速売買のアルゴリズムの暴走が株式市場に不安定をもたらすのと同様に、コグニティブ・コンピューティングの結果で人間だけでは起こり得なかった事象を引き起こすと言うこともありえるでしょう。IBMさんの「無限大」上での志倉千代丸氏とIBM森本典繁所長との対談でもこのような会話がありました。

「あの時ああすればよかった」というある人の経験は、集合知として分析・パターン化すれば、将来同じ状況下におかれた別の人の助けになるのかもしれないなと思いました。
ある場面で欲しかった知識や情報を、事後過去の自分に対してアドバイスするメールを送り、それをデータベース化します。いろいろな人から集まるアドバイスをビッグデータ分析によってパターン化し、属性や状況などとマッチングして、自動的に適切なアドバイスをメールとして届けることができれば、原理的には過去にメールを送り、未来からメールが届くのと同じようなことになるのかなと。さすがにロト6の当選番号を送って役に立てるというのは無理ですが……(笑)

森本所長もシュタゲご覧になってるんですかね。それはさておき、コグニティブ・コンピューティングを進めることで本来我々だけでは辿り着けなかった世界線とは異なる世界線に辿り着くことができるのかもしれません。以前は職人芸の領域だったマルチスレッドの開発の敷居が言語や開発環境の進展により幾分か下がったように、実はコグニティブ・コンピューティングも環境が整えばごく一部の高度な技術者のものではなくなるかもしれません。タイムマシンを作ることはさすがにSFの世界ですが、将来を見通すことはできそうな気がします。おりしもWatsonはWatson AnalyticsとしてSoftLayer上のクラウドサービスとして提供され始めました。

Bluemixでの提供も視野に:IBMがWatsonエンジンをサービス化、間もなくベータテスト版提供へ - @IT

電子レンジとブラウン管が無くても、あたかも未来から来たメールのようなInsightを受け取れる日が来るかもしれません。楽しみですね。IBMさんならびにWatson君のご活躍と動画第2弾以降でのナンバー8の登場を祈念しております。

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