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小さな子供と一緒にエスカレータに乗るのは意外と大変

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佐々木さんの「1人用エスカレータに「追い越し禁止」の張り紙…そこまで急ぐ日本人って何か変では?」を読んで思ったことがありました。

小さな子供と一緒にエスカレータに乗る際の注意事項は「社団法人日本エレベータ協会」のサイトによるとこうなっています。

お子様の1人乗りは危険です。ちょっとしたことでバランスを崩し、大きな事故となることがありますので、必ず保護者が手をつないでお乗りください。

子供と手をつないで乗る方法は2つしかありません。1つは子供を高い段(のぼりなら前、くだりなら後ろ)に立たせ、親が低い段に立ちます。これは親子で身長に差があるためで、反対に立つと腰を屈める無理な姿勢になってしまいます。のぼりの場合は子供が前に立つ、すなわち先に降りる形になりますが、エスカレータ慣れしていなかったり気が散ったりすると子供が降り口につまづくことがあります。ですのであまりやりたくありません。反対にくだりで大人が前に立つと、降りるときに後ろを振り向きながら、という形になります。これは自分が危ないです。

そういうことがありますので、多くの鉄道会社などで掲示されているとおり、一番いいのは2人で横に並んで立つことだと思います。しかしこの乗り方についてネットを検索すると、子供を持つ親が嫌な目にあったという声が数多く見つかります。おおむね、後ろから歩いてきた人からどくように言われたり、無理に体を入れて追い抜いたり、固いビジネスバッグで子供を押しのけたなどというものです。私もこれまで年配の男性に追い越されながら舌打ちされるなど嫌な思いをしたことがあり、混雑したエスカレータでは安全に注意しながら前後に乗るようにしています。少し手前から一声をかけてもらえば子供の手を引き寄せて邪魔にならないよう通すことは難しくないんですけどね。

確かにエスカレータの業界団体は上のとおり「手をつなぐ」としか言っていません。しかし駅やデパートでは手をつないで並んで乗ることを推奨していますし、形骸化しているとはいえエスカレータは歩行禁止、追い抜き禁止が建前であるはずです。デパートなどでは特に安全に意識を払っており、手をつなぐよう音声でも案内していることが多いです。ですのでこのルールをまったく知らないという人は少ないのではないでしょうか。

にも関わらずなぜ子供と並んで乗ることが許容されないのでしょうか。自分が小さいころを考えてみると、今ほどバリアフリー化が進んでおらず特に駅ではエレベータやエスカレータが普及していませんでした。すなわち、それくらいの時期に子育てを終えた年齢の人たちは、駅でエスカレータやエレベータに子供を乗せる機会が今より少なかったと言えます(下図によればエスカレータ設置駅の数は20年で5.79倍になった)。とすれば、その年齢層にはエスカレータに子供を乗せることの危険を認識していない人が多いのかもしれません。(もちろん年配の方でも、孫の子育てに参画している人、昔から危険を認識している人、きちんとルールを守ってエスカレータに乗る人、追い抜くとしても無粋なことはしない人、などが圧倒的多数であることは言うまでもありません。)他には子育て未経験の人も子連れエスカレータの危険を認識する機会が少ないのではないかと思います。

大手民鉄では、エスカレーター・エレベーターの設置を進めています。本格的な取り組みを始めた87年度と比較すると、エスカレーター設置駅は約6倍に、エレベーター設置駅も約21倍になったほか、下りエスカレーターの設置や時間帯による上り下りの使い分けなど運用面の改善も進めています。

● エスカレーター・エレベーターの設置駅数の推移(大手民鉄16社)

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社団法人日本民営鉄道協会より

こうした認識不足が原因とすれば、追い抜いていく人が単にマナーが悪いということでは片付けられません。危険だということに気付かないとすれば、それはどのような原因によるのでしょうか。確かに自分が一人で乗っている場合、横を追い抜かれても危険を感じることはありません。怖いと思うのは走っていかれたり大きな荷物がぶつかったときくらいです。また、大人一人と子供一人で横に並んで乗る場合、エスカレータの種類によっては大人一人分くらいすり抜けられるスペースがあるものもあります。この大人一人+子供一人を「ちょっと太った大人一人」か「荷物の多い大人一人」と同じに考えてしまうと、追い抜くことに抵抗感がなくなるのかもしれません。ましてや急いでいるときであれば進路を防ぐ邪魔な親子に悪態をついてしまう、という人もいるかもしれません。

しかし小さな子供を連れてエスカレータに乗っている親は周囲に注意を払うために緊張しています。相次いだエスカレータの事故はそれに輪をかけています。ですのでまったく子供に触れることなくするりと追い抜かれたとしても、なかなか気持ちのいいものではありません。そういう心理状況ですと余計に「ひやっとした」とか「腹が立った」という思いが強まることが多いのではないでしょうか。また、子供はじっとしていませんので実際に衝突したり、すんでのところで衝突しかかったという危険も少なくないと思われます。

それなら親子連れは階段を歩け、と思う人もいるかもしれませんが、子供の短い足で階段を歩くよりはエスカレータを止まって利用したほうが安全です。階段は階段で右側通行左側通行が守られなかったり、エスカレータよりも気兼ねなく全力ダッシュで上り下りする人がおり、必ずしもエスカレータより安全というわけでもありません。これまでの私の経験では、無理に追い抜く人さえいなければ、子供と並んでエスカレータに乗ることは階段を利用するよりも安全であるように思います。最初と最後の一歩だけ集中すれば黄色い枠線内に止まって手を握っているだけですから。もっと安全なのはエレベータです。多少待つことはありますが、エスカレータとエレベータがある場合、エレベータを使うことが多いです。しかし子連れの場合はエスカレータもエレベータも使えますが、ベビーカーや車椅子の人はエスカレータを使えません。ですのでエレベータが混雑しているようであればエスカレータを使います。また、エレベータはエスカレータよりも設置条件がシビアなようで、非常に不便な場所にしか設置されていなかったり、一部しかエレベータ化されていない駅が多々あります。

子供は時に痛い目にあって危険を知ることも重要です。エスカレータやエレベータばかり利用して階段で転ぶことの危険を知らないまま育つというのは、それはそれで不健全であるように思います。しかしそういった教育は別に駅でやるべきことでなく、例えば近所の慣れた場所で行えばよいでしょう。移動を目的とした駅では誰もが速やかに目的地に行きたいのは当然のことです。子供を連れていたとしても「この少子化の時代に子育てしてるんだから」と特別扱いを要求したりせず、互いの利益を尊重することを考えなくてはなりません。

急いでいる人は自分の要求を通すために「急がせてもらってすみませんね」という気持ちを持ち、子供を連れている人は「まだ小さいのでもたもたしてすみませんね」という気持ちを持つことができれば、そんじょそこらで衝突が起きることはないように思います。特に急いでいると心に余裕がなくなります。それが多くのいざこざの原因を作ります。遠距離恋愛中の恋人に会いに行くというのならエスカレータを走るのも仕方がありませんが、「こっちは仕事があるんだよ!」という理由で小さな子供を押しのけるのであれば、それは寂しいです。

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