硫化水素の材料にアフィリエイトが
硫化水素による自殺が流行っているそうです。
高校の時にほんのしばらく化学部にいたこともある身として、身近にある薬品を2種類混ぜるって何と何だろう?という事が気になりました。インターネットで調べてみるとごく簡単にその答えがわかりました。「硫化水素」で検索すると関連検索用のキーワードに自殺と出ますから、それを押すだけです。
その中のサイトの1つに、2種類の薬品のうちの片方をアフィリエイトで販売しているサイトがありました。主旨は
(薬品A)と(薬品B)を○○リットルずつ混ぜると硫化水素が出ます。(人体への作用の仕方などの説明)。きちんと使えばXXXXXXな(薬品A)のご購入はこちらから。
というような感じでした。(細かな点は私のほうで変えてあります。)
以前に『「死にたい」で検索する人の気持ち』というタイトルのエントリを書いたことがありましたが、硫化水素による自殺を考えている人は死ぬ本気度が高いように思います。そこに購買と直接に結びつきやすいアフィリエイトリンクがあった場合、その衝動を後押ししないだろうか、と気になります。なお、私が確認した時点でリンク先の商品は取扱中止となっていましたが、他のネットショップでは販売中のところも確認できました。
「死にたい」で検索する人の気持ち
http://blogs.itmedia.co.jp/yohei/2007/12/post_922f.html
アフィリエイトの他に2つ気になることがあります。
その1。硫化水素と検索すると、「硫化水素 自殺」と関連検索が出ること。上の(薬品A)をgoogleで検索すると、関連検索に(薬品B)が出ること。これは少しまずいように思います。Yahoo!が「死にたい」で検索する人に思いとどまらせるような施策を行っているならば、googleも何か対策を行うのが良いのではないかと思います。反対に(薬品B)での検索では関連検索に(薬品A)は出ませんでした。
その2。「青少年ネット規制法案」についてです。この法案がどうなるものか現時点では予測しかできませんが、硫化水素による自殺方法の紹介はきっと規制コンテンツに当てはまると考えて差し支えないでしょう。
小寺信良:臭いものにフタをしても、何一つ解決しない (1/3) - ITmedia +D LifeStyle
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0804/14/news007.html
例えば硫化水素の発生に関する化学的な考察を行ったサイトと、自殺を啓蒙するサイトの見分けはどのようにつけるのでしょうか。有機化学についておもしろく、それでいて勉強になるような話がたくさん掲載されている有機化学美術館というサイトがありますそのよいうなサイトで硫化水素に関する化学式が掲載されたページを18禁にして、その他のページは公開するというのは現実的ではないでしょう。(硫化水素は有機物じゃありませんが。)
有機化学美術館
http://www.org-chem.org/yuuki/yuuki.html
また、インターネットに国境は無い事から硫化水素の化学式である『H2S』で検索したり、図書館に行ってCAS番号の『7783-06-4』を調べだしてキーワードにして検索すれば海外からもたくさんの情報を得る事ができます。これを翻訳サイトに通すなり、脳内翻訳するなりした場合、傍から見て熱心に化学の勉強をしているのか、自殺を考えているのか区別がつきません。こういったケースを考えると、端末でのフィルタリングやプロバイダでのブロッキングは効果が薄いように思います。 また、地下鉄サリン事件はインターネットが本格的に普及するより前に発生しています。
情報は、目的に沿って入手される事で価値を持ちます。まじめな勉強コンテンツとしての化学式も、自殺しようと考えている人間にとっては自殺方法以外のなにものでもありません。同じように、例えばATMで受け取る預金残高の明細は、「犯罪者が狙うのは金持ちだろう。残高が小額ならば狙われる事もない。」とシュレッダーせずに捨ててしまう人もあります。しかしお金がない人に還付金詐欺を持ちかけようとしている人間にとって、これは有用な情報になります。還付金詐欺のような性質の犯罪は、金銭的に余裕のある人よりも無い人のほうがターゲットにされやすいです。懐が苦しい時に電話で「△△様でいらっしゃいますか?○○銀行に12345円お預けですね。実は今日までに手続をしていただかないと還付金が……」と持ちかけられると、だまされてしまうかもしれません。
このように、「本人にとっては「くだらない情報だから価値がない」のにある人に取っては「有用」になることがあります。そのすべてを統制することの難しさは目に見えていますし、危険な情報を発信している気などさらさらないのに発信者が責められることも回避されなければならないでしょう。課題山積ですが、よりよいネット社会の実現をめざして建設的な議論が行われることを期待しています。
(2008/4/14 23:40追記)
amazonで(薬品A)を検索すると関連検索に自殺関係の本がずらっと。どうなっているのやら。