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「をも見よ参照」を見よ。

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昨日に引き続き、「件名」による図書の分類のことを考えています。図書館では新しく買った本をその内容に見合った件名でタグ付けすることで検索性を高めています。件名により図書を検索する仕組で優れているところは、「をも見よ参照」と言われる仕組があるところです。コンピュータのプログラムで言えば、ポインタのようなものでしょうか。

下の図は昨日の図の件名の部分を詳しくしたものです。

をも見よ参照の例

  1. 書籍「コンサルと私」を読んだところ、類似した本を読んでもっと勉強したいな、という思いになりました。
  2. 書籍の最後のほうについている図書カードを見たところ、件名が「コンサルタント(経営)」であることがわかりました。
  3. そこで『コンサルタント(経営)』の件名について調べます。
  4. UF:経営コンサルタント、NT:中小企業診断士、RT:経営診断、というような関連項目が得られました。
  5. 気になる件名があれば、その分野で本を探します。

このUF,NT,RTというのは何なのでしょうか。実はこれこそが「を見よ参照」と「をも見よ参照」と言われるものです。国立国会図書館件名標目表2006年度版の凡例からわかりやすいものをいくつかを抜粋して挙げてみました。

  • UF:「を見よ」参照 (Used For)
  • BT:「をも見よ」参照(上位語) (Broader Term)
  • NT:「をも見よ」参照(下位語) (Narrower Term)
  • RT:「をも見よ」参照(関連語) (Related Term)

上から見ていきますと、UF「を見よ」は「ここじゃねぇ。あっちいけ」で転送するものです。BT「をも見よ」は上位も参考にしてみたら?というものであり、「バスを調べるならまず自動車について調べたら?」というものです。NT「をも見よ」は下位を参考にしてみたら?というものであり、「果物を調べるなら、リンゴとミカンも調べたら?」というものです。RT「をも見よ」は関連語を参考にしてみたら?というものであり、「Perlを調べるならRubyも調べたら?」というものです。

上の図では、書籍が「コンサルタント(経営)」という件名で所蔵されています。その件名を調べてみると、Used Forとして「経営コンサルタント」を見てください、とあります。そして他には下位の概念としては中小企業診断士やITコーディネータという件名があるので、そちらに興味があるようであればそちらを検索してみてはどうですか?という誘導になっています。そしてRelated Termとして経営診断という件名も「をも見よ」になっています。こうすることで、当初は「コンサルタント」という単語で検索を行った利用者が、「経営診断」という件名でグルーピングされた書籍に辿りつきやすくなります。

例えば等松農夫蔵の半生を紹介する書籍が「伝記」として分類されていたとすると、「経営」というテーマで本を探している人にとって予想外の位置に置かれていることになります。しかし件名があれば、この書籍にも伝記、経営診断、会計監査などの様々な件名がつけられますので、色々な角度から到達できるようになります。さらに、いきなり「経営診断」という件名を予想する事ができなかったとしても、コンサルティングか?と検討をつけたところから「をも見よ」参照によって正解に近づきやすくなります。(もちろん、間違った類推でゴールから離れていってしまう事もあり得ます)

今回参考にした国立国会図書館件名標目表のように、図書館員の方が参考にする件名標目表というのはこうした件名間の相互関係がしっかりと作りこまれています。また、何ヶ月かおきというペースではありますが、追録というのが配布されて新しい単語にも対応しているようです。それと異なり、はてなブックマークのようなソーシャルブックマークサービスなどで用いられるタグは個人個人が自分の使いやすいように作成するというケースが多いです。そのため、ある人は[システムエンジニア]というタグを作り、そしてある人は[SE]というタグを作ります。そのため、タグの作成者と別の利用者が他人が行ったタギングの結果を利用しようとすると、システムエンジニア、SE、SIerなど思いつく限りの言葉を入れて検索しなくてはなりません。

コンピュータ側の処理で「システムエンジニアというタグがつけられたURLにはSEというタグも頻繁に登場する」という関係法則を発見し、おすすめタグを提案することは不可能ではありません。しかし件名の「を見よ」参照のようにどちらかを主のタグとして、どちらかを転送用タグにすることができればそれがもっとも効率的であるように思います。ただしそうするにはすべてのタグを垂直ならびに水平に関連づける必要があります。

インターネット上に現れるトレンドキーワードの出現と消滅の早さは目まぐるしいものがあります。今日もITmediaを飛び出してYahoo!のトップニュースになっていましたが、1,2ヶ月前と比較して「初音ミク」や「vocaloid」という単語はかなりメジャーなものになった事でしょう。書籍と比較するとwebの世界ではこうした性質の単語が多いように思われます。そのせいで事前に単語の関係を定義しておくという図書館方式でwebサイトの検索性を分類することは難しそうです。この関連付けの作業をコンピュータ任せで行うことができたら素敵ですが、まだまだ技術的障壁がたくさん残っていそうです。Wikipediaのようにマンパワーグリッド方式で頑張るのがもっとも現実的であるように思います。複数人で作業にあたるためには運用ルールを作らなくては結局個人の印象でタグが作られてしまいます。(ちょっとWikipediaの運用ルールは厳しすぎるようにも感じますが。)ではタグのルールはどのように作れば良いのか……。ということで今日はもう遅いので寝る事にします。

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