優秀なSIerは解決策や具体的な戦略を提案する?
優秀なコンサルは解決策や具体的な戦略は提案しない
(けんじろう と コラボろう!)
のエントリが注目を集め、多くのコメントと今時点で280もの
ブックマーク(はてブ)を集めています。
私もタイトルを見て興味を持ち、会社で一読した上で
家でもしっかりと読ませていただきました。
私が「この部分が良かった」などと言えるものではない素晴らしいエントリなのですが、
全体を通して特に重要だと思ったのは以下の一文です。
「コンサルの対象となる事業やビジネスエリア(会社全体の場合もある)に関して、正確で、客観的な情報を整理(戦略立案する人にわかりやすい形)し、目を開かせ、クライアント(コンサル対象の企業)自身が情熱を傾けられるような戦略や新商品や事業アイディアを自ら創造し意思決定できる場をファシリテートする」
優秀なコンサルはこのように行動し、
そうでないコンサルは自分がやりたい方向へお客様を誘導したり、
論理的には正しいけれども実現性に疑問のあるような提案を
行ってしまいがちだということが、けんじろうさんのブログで述べられています。
それでは優秀なSIerは何を為すべきなのでしょうか。
コンサルとSIerの立ち位置というのは大病院の医師と開業医のような関係にあると思います。
(決して開業医を大病院の医師よりも低く見たような考え方を主張するものではありません。
それぞれがそれぞれの役割に応じたスタイルで為すべき事を為すべきだと思います)
病気になったら、最寄の開業医を頼ります。開業医ですぐに原因が診断され、
病気を治癒させることができればそれで闘病終了です。
ただし、原因が判明しないこともあります。また、開業医の対処で
症状が緩和しないこともあります。その場合は検査設備の整った大病院に
紹介されます。大病院では開業医にはない設備と細分化された医師陣の力で
病気を判別します。多くの場合は治療方針が固まると開業医に「逆紹介」されます。
ただし、初診料も高いですし、待ち時間も長いです。
色々と本格的な検査をしないと診断結果がもらえなさそうだという雰囲気があります。
私は、このような関係がコンサルとSIerにもあるのではないかと思っています。
その違いを明らかにするために、病気の視点に切り替えて見てみます。
わかりやすいものは怪我です。怪我は症状がはっきりしています。
なので見た目に血が出ている場所を見せれば開業医があっさりと治してくれます。
こちらは例えば
「社内の文書回覧網が複雑化しているので電子回覧板システムを導入したい」
というお客様に対してSIerが効果的なパッケージを納入して解決したような例です。
難しいものとして、内科系の病気があります。
お腹が痛いようなものであれば、どの臓器が痛いのかを
判別していく必要があります。このあたりから開業医と大病院とで
治療にかかる費用と時間が大きく分かれ始めると思います。
例えば企業にとって「儲からない」病気が出始めました。
ここで「売り上げを加速させなければ」と自己診断しました。
「売り上げが鈍っています。お客様との関係を向上して
収益力を高めたいです」とSIerに駆け込むとします。
そこでSIerはソリューションとしてCRMを導入する事にしました。
そのことで病気=儲からない状態は改善しました。
ここで、CRMを導入しても効果が見込めなさそうだとわかるのであれば
SIerも無理に開発を受託しないと思います。
SIerと言ってもお客様の課題分析をきちんとしますので、
SIerなりに調べた結果としてCRMが効果的だということの
確証が取れれば受託に応じます。ただし、SIerのスタイルによっては
CRMが本質的な解決策であるのかどうか、検討しないかもしれません。
ここで「儲からない」病気が出たところで「CRM導入について」をテーマに
コンサルテーションを受けた場合を考えます。
まずは「CRMが必要なのか」を本格的に調べる事になりました。
数年間の財務諸表を調べたところ、販売費および一般管理費の
増大が見られました。よくよく調べてみると、数年前に
導入した会計ソフトがまずくて事務作業が余計に大変になっていました。
そこでそのソフト含めて間接業務の非効率性を指摘しました。
そのことにより間接業務の見直しとシステム化の方針が策定され、
公開仕様書を作成して入札を実施し、開発を行いました。
結果として、財務バランスが良好になりました。
その事で余裕が出たお客様に「攻め」のCRM導入を追加提案し、
親密なSIerを紹介することになりました。
このケースはコンサルに頼んでSIerが治療したパターンです。
このケースではけんじろうさんのブログに倣って例を挙げましたので
コンサルは問題点を気づかせるために資料を提示しただけです。
具体的な解決策や戦略はSIerから提案した形です。
これをまた人間が病気したケースに裏返して見てみます。
人間が病気すると言っても、指を切ったりインフルエンザになったりするだけではありません。
時には「とにかく具合が悪い」というだけの場合もあるかと思います。
そのような場合、どのように診察すべきなのでしょうか。
悪い医師は、具合が悪い原因を調べずに症状に対して治療を行います。
「胃が悪いのでこの薬を飲んでください」というように、
胃潰瘍で原因であれば、潰瘍を改善する薬を出します。
良い医師は、胃潰瘍に至った原因を探ります。
そしてストレスが原因であれば患者にそのことを伝え、
ストレスを取り除くための努力を患者自身に促します。
また、肝臓が悪い患者を診た場合を考えます。
悪い医師は、肝臓を良くする薬を処方するだけです。
良い医師は、肝臓が悪い原因を探ります。
アルコール依存が原因であれば、アルコールをやめるよう説得します。
アルコール依存に至る原因が家族関係にあれば、家族を呼んで
事情を聞いたり、カウンセラーを紹介したりします。
決して肝臓保護薬をあげて終わりということはありません。
また、肝臓が悪くなった原因としては、実は腎臓が悪くなったせいで
副次的に肝臓がダメージを受けたというようなことも考えられます。
その場合は腎臓が悪くなった原因を調べます。
それがメタボリック症候群のせいだと判明したとします。
その場合もコレステロールを下げる薬を処方するだけでなく、
運動をしたり食事生活を見直すように助言します。
その際に、検査数値を提示して高脂血症を発症している事や、
お腹周りの脂肪の厚さを認識させたり、「こんなに怖いメタボ」というような
パンフレットを持たせてくれます。
その事で患者は肝臓が悪いから体調が悪いのではなく、
食べすぎや運動不足のせいで具合が悪くなったことを認識します。
ここに至らなければ新薬も名医も患者を治す事はできないでしょう。
SIerがやること為すことすべて対症療法でしかないという気持ちはさらさらありません。
我々はパッケージングされたソフトウェアを販売している訳ではありませんので、
お客様への飛び込みでその日に仕事を成り立たせることができません。
既にお付き合いのあるところから「実は今こんなことで困っている」という相談を受けたり、
公開仕様書を手に入れて応札したりして仕事を広げます。
公開仕様書を手に入れた場合は、ほとんどの場合において
コンサル段階が終了しており、開発すべきものは固まっています。
そのため、SIerは逆紹介を受けた開業医や、薬を処方する薬剤師や、
リハビリの療法士のような立場でお仕事をさせていただく形になります。
その付き合いを一度きりにしなければ、次の商機が到来します。
お客様から相談を受けた場合です。
しかし場合によっては、会社の代表として相談を持ちかけられるのではなく、
「部署」として相談を持ちかけられることがあります。
その場合はその「部署の目標」を達成するための開発を行う形になりますので
どうしても対症療法的にならざるを得ません。
また、業務分析をしようにも、お客様の中の一部署とだけしか話すことができず
他の部署の状況が把握できないということも起こり得ます。
そのような場合には、全社的課題の洗い出しというようなことができません。
金になるならなんでも受託すれば良いようにも思われますが、
「作ったけど意味が無かった」という実績を残す事は長期で見れば失点です。
SIerと一口に言っても巨大な企業から少人数の企業までありますので、
それらすべてをSIerと一まとめにしてしまうのは乱暴かもしれません。
SIerの中には大病院の医師も開業医も薬剤師も療法士も看護婦もいるでしょう。
その中で言えばけんじろうさんのブログにあるような優秀なコンサルは、
やはり大病院の医師であるように思います。
大病院に行くほど体調に不安を感じる患者は、レントゲンやCTなどの検査を
拒否するということはありません。しかしそれが町のお医者さんの場合だと事情が異なります。
「ちょっと頭が痛い」といって町のお医者さんに行ったのにいきなり「MRIをやりましょう」と言われると
驚いてしまうと思います。コンサルとSIerの違いはそのあたりにあると思います。
まな板の鯉になった気持ちで財務状況も何もかも全部見せますよ、
という気持ちで呼ぶのがコンサルタントであり、
ちょっと喉が痛いから風邪薬もらいたいんだけど、と言う気持ちで呼ぶのが
システムエンジニアであるように思います。
この違いはお客様の心構えではないでしょうか。
SIerとしては求められるのがシステム一式ですので、
その過程で具体的な解決策や戦略も提案します。
しかしコンサルは求められるのが「先生、どこが悪いんでしょう?」という質問に対する
回答であるのではないでしょうか。
それを求められているのに具体的な解決策や戦略を回答するだけで
「悪い場所がどこか」を回答しないのは、本質を見誤った事であるように思います。
結果として「良くなった場所」に注意が向いている間に
悪い場所が一層悪くなってしまうことすらあるかもしれません。
そこのところをけんじろうさんのブログではほんの3行くらいで説明されていました。
自分の場合は……。
ま、これが優秀なコンサルタントと一般システムエンジニアの
パフォーマンスの違いということでご笑納ください。
上の私の文章で「コンサルは病気を病原から治療してくれる腕前の良い医者。
SIerは対症療法しかしない悪い医者」というように受け止められてしまうと
少し失敗なのですが、私なりに精一杯考えさせていただきました。
最後になりますが、せっかく医者で例えをやりましたので、
自分が目指すべきはどんな医者なのかも考えてみました。
大病院に行くと、百戦錬磨の医師が初診を担当しているところがあります。
初診の後、●●科に行ってくださいと言われ、そこで主治医が決まります。
初診では症状や家族歴などを聞いて、具体的に「この辺りを検査しよう」
というための見当をつけるからです。見当が正確であれば無駄な費用や時間を減らして
効率的に診療を行う事ができます。逆に見当が不正確であれば
無駄な検査を受けてしまうことになります。
長い長い時間をかけて経験を積み、いつかは
10分くらいお客様の話を聞いただけで「このへんが悪いですね」ということを
言い当てられるようになると良いとは思います。
しかしこれだけ企業形態が複雑化した現代においてそれを為す事は
魂のオーラの色で診断する事に等しいかもしれません。
いつかSI界のブラックジャックと言われるよう頑張ります。