ヤマトのサービス残業問題を報じる朝日新聞の考え方に感じる違和感
朝日新聞が、ヤマト運輸においてサービス残業が常態化してパンク寸前と報じており、記事の冒頭
宅配便最大手のヤマトホールディングス(HD)が、全社規模で未払い残業代の支給を進める方針を決めた。異例の経営判断によって、ネット通販を支える宅配の現場がサービス残業で支えられている実態が改めて浮き彫りになった。
宅配の現場がサービス残業で支えられているとしています。
そして、こんな記述があるのですが
端末で実際の休憩時間を記録すれば、サービス残業は防げるが、端末を触る余裕がないときもあるという。
これはそもそも記録していないケースであり、そういう行為を生み出す組織運営の問題点への指摘は見当たりません。
次に、
ヤマトの配送拠点は全国約4千カ所。宅配業界で群を抜く規模だ。自社で多くのドライバーを雇い、荷物が集中する地域に人手を移すなどして、他社に頼らず家庭に配り切るノウハウを蓄積。業界2位の佐川急便が2013年に手放したネット通販大手アマゾンの荷物も多く引き受けてきた。
ここでは、朝日新聞は他社に頼らず家庭に配り切るノウハウを蓄積したと紹介したと思ったら、次のブロックでは小倉昌男氏の「サービスが先、利益が後」の話と、「荷物量の伸びは予想を超えていた」というヤマト運輸常務の言葉とともに、自社で運びきれない状態であると指摘しています。
ネット通販の普及で利幅の薄い荷物が増え、自社で運びきれない分を他社に委託する費用がかさんでいる。
最後に、ヤマトの経営側も不必要なサービスを減らす事と現場正常化の必要性を認識していることを紹介しつつも、利用者は便利なサービスを享受できなくなる可能性があると朝日新聞はまとめてます。
運賃を上げたり、再配達や夜間の時間指定配達など手厚いサービスの一部を見直したりすることで、荷物の急増を抑える方向で検討が進んでいるという。利用者は、これまで通りの便利なサービスを享受できなくなる可能性がある。
日本の悪弊として挙げられることの多いサービス残業。ここ最近の社会の流れとして批判が集まるのは致し方ないかと思います。
ただしサービス残業を批判しつつ、利用者が便利なサービスを享受できなくなる可能性があるという記事のまとめ方が、そもそも長時間労働を助長する日本人の考え方の一つと言えないでしょうか?
『サービスマネジメント入門』のサービス生産性の日米比較という章で、日本におけるこの手の議論について「他の条件が一定なら」という前提が意識されないことの問題点と共に、こんなエピソードが紹介されています。
- アメリカの巨大小売店に行ったら店員が2人で、試着した服が散らばっているなど売り場は整理されているとは言えず、日本でユニクロなら6人はいるだろうと思った。
- 売上高が同じなら、アメリカの販売店の労働生産性はユニクロの3倍あることになる
- だが、店舗でのサービス品質を、日本の消費者は評価し、我慢するであろうか。かなり疑問だと言っても間違いないであろう
- 日本とアメリカのサービスの生産性を比較する場合、こうしたサービス商品への期待の違いを生み出す伝統や文化といった基盤にも目を向けるべきであろう。
こちらに米国でのアマゾンの配送状態を紹介した記事があります。
こちらにあるように自宅のドアの前に放置してOKの状態を日本の消費者が受け入れたらどうなるでしょう?
その他に改善を見込めることろはあるでしょうか?
『サービスマネジメント入門』では、サービスの生産性と品質について今後必要とされるのは、さまざまなサービス生産における個々のサービス家庭を分析することによって、サービス生産における生産性とサービスの品質の関係についてのコンティジェンシー理論(状況適応理論)を作り上げることであろうとしています。
こちらにあるように、アマゾンでの配達状態は可視化されていますが、自宅に居ない場合でも配達され、再配達となってしまうプロセスには変革・改善の余地があると推測されます。
最後に繰り返しとなりますが、サービス残業を糾弾しつつ、利用者がこれまで通りの便利なサービスを享受できなくなる可能性があると指摘してしまうこの考え方が、いま日本で変革が必要な考え方の一つと言えないでしょうか?