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「短時間=簡単、だから安価で」というロジックが横行する日本の弊害

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レコーディングを仕事をしている有名ミュージシャンの人達は基本的に掛かった時間でギャラを受け取りますが、1回演奏してOKになると何回もやり直しをする下手なプロのほうがギャラが高くなるという矛盾が生じるため、最低何時間分という最低料金を定めていたりします。

スタジオなどの設備でも、前後の設営と片付けの時間も料金が必要ですという注意書きがあったりするのを見かけるのは、やはりそこで使った時間だけしかお金を払わない人達がいるからでしょう。

自分たちのような開発した能力と、技術を維持しながら、オーダーに対してお客さんが望むアウトプットに付加価値をつけて形にしていく職業に対する値段交渉で

短時間で済むから=簡単でしょ=だから費用も安くて済みますよね?

たしかに短時間で済むかもしれませんがその仕事を入れた以上、ギャラの割が良い仕事が来ても断るのが仁義と考えているだけに、このロジックで値段交渉されると本当に脱力します。

そのほかに、ミュージシャンやカメラマン、映像撮影などなど機材の運搬やらセッティングと片付けがあるような業種においてですと、最終的にOKになるテイクは数分であっても、そこまでの準備、セッティングに時間が掛かる場合もあります。

そういう不利益があるからこそ、ギャラはあくまで稼働するかしないかで、短時間だからとか、半日だからという減額には対応しないという個人、組織があるのもそういう理由からでしょう。

たとえば、自衛官や消防士さんが、毎日の訓練して常にパフォーマンスを発揮できるように訓練を続け、必要な装備や設備を維持するのにどれだけの人・モノ・カネがどれだけ必要かを考えれば、クリエイティブ関連の仕事だってもっとギャラの面で改善されるべき点は多いのではないかと感じています。

アウトプットに思考や工夫を求められない単純作業に高いギャラを請求する事はほぼ無理な時代になっています。

それでは、どのような仕事であれば高い報酬を請求できる素地があると言えるでしょうか?

  • 短時間に済ませるための設備投資と利用環境の維持に設備投資が行われている
  • 短時間で答えを導き出すための、知識・経験・技術を有している
  • 同様の結果を導きだすために、幾つかの方法を列挙し、それぞれの方法のメリット・デメリットを説明、必要であればプレゼンする能力を有している
  • クライアントが望んでいるアウトプットを自身の経験・知識・能力を活かして「これがあなたの欲しいものですね?」と提示してあげる能力を有している

幾つか挙げさせてもらいましたが、機械化の時代で人間に求められているのは

要求された仕事に付加価値を加えてアウトプットできるか?

ここに尽きると思います。

機械化してしまえばそこにイノベーションは起きません。プログラムされたことをやるだけですから。

食べて行くのに失敗を恐れ、そこそをを目指せば手間賃方式のほうが楽かもしれません。

プロ野球で3割の打率を残すのは相当に大変です。自身のクリエイティブ関連の仕事でも成功もあれば失敗もあります。

ただそこでプランニングしたことがクライアントの役にたっているなら、そこに応じたギャラを請求することが出来るポジションには移行したいと考えていますし、そのポジションに求められる努力を続ける覚悟は持ち合わせているつもりです。

企業はコストを掛けない事に基本重点を置きますが、ここ最近さすがに超金持ち資本家連中への富みの集中はこのままじゃまずいだろうと、当の本人達からも言い始めている状態になってきています。

プルトクラートを自認するニック・ハノーアーはTEDで、自身のお仲間であるプルトクラートに向けてこんなメッセージを発しています。(引用は4分過ぎの部分)

私たちがこの社会における あからさまな経済格差に対して 何もせずにいたら あの民衆が襲いに来ます 自由で開かれた社会で今のような経済格差の拡大が長く続くはずがなく過去にも続いた例はありません。

極めて不平等な社会には警察国家や暴動が付き物です。手立てを講じなければ世直し一揆が私たちを襲います。可能性の話ではありません時間の問題です。

その時が来たらそれは誰にとっても酷いことになりますが、特に私たち超富豪にとっては最悪です。経済格差が悪だとかいう倫理的な議論をしているのではありません。私が訴えたいのは この経済格差の拡大は馬鹿げていて、最終的には自滅につながるということです。

格差拡大は私たちが民衆に襲われる危険性を高めるばかりでなくビジネスにも大打撃を与えます...

経済的な価値で語られることに違和感を感じつつも、日本が戦後所得倍増計画で大きく飛躍したように、米国でも中産階級に再びお金が回るような富の分配が必要とする声が出て来ているのは注目に値します。(ちなみに戦後日本においては国際社会が日本の低賃金に懸念を示していたのは、この前のエントリーで紹介した通り)

ニック・ハノーアーはこのプレゼンでフランス革命を例にしていますが、仏人経済学者のトマ・ピケティの21世紀の資本論で示される100年前のヨーロッパとアメリカの格差が近年どのように変化しているのかというこちらの資料も非常に興味をそそられるものがあります。

トマ・ピケティ.jpg

最後に、繰り返しとなりますが、機械が代行できる単純作業に高い価格を付けるのは困難で、ここでは2極化が進むだけです。

これからの時代は、プログラム化する以前の工程でプランニングやクリエイティブを行う能力を持つ人は、ある程度裕福な中産階級として生活できる可能性があると考えます。

そういう意味で、資本を持った側が前述のような能力を持った人材に従来よりも高い費用を支払ったとしても、結果的にそれは中産階級にお金を回すことになり、経済成長率を高めていくためにも必要な事だと考えます。

日本ってこれまで年功序列とかで給料考えていた素地があるだけに、その人の能力に対してギャラを払うという考え方が浸透していないのが非常に残念です。

ギャラの設定として、法人化されていれば組織としての収益もありますから、給料の2倍~3倍の売上の確保が組織維持には必要と考えつつ、従来方式の人日単価で費用感を出してみると、ざっくりこんな感じの数字が見えてきます。

1year 1month(20day) 1week 1day 1h 1 minute
19,200,000 1,600,000 400000 80,000 10,000 166.7
16,800,000 1,400,000 350000 70,000 8,750 145.8
14,400,000 1,200,000 300000 60,000 7,500 125.0
12,000,000 1,000,000 250000 50,000 6,250 104.2
9,600,000 800,000 200000 40,000 5,000 83.3
8,400,000 700,000 175000 35,000 4,375 72.9
7,200,000 600,000 150000 30,000 3,750 62.5

有能な弁護士さんや、戦略コンサルタントのような人達はもっと高い設定で仕事されてい方も多いはずですし、経済大国だと言っている国の企業相手に大事な製品・サービスのマーケティングプランやら、クリエイティブプラン、デザインを提供できるスキル開発とその維持・メンテナンスをしている人が受け取るギャラとしては法外な金額じゃないと思います。

日本がこれから豊かになるためには、雇用の流動性確保で優秀な人材が高い給料で雇われる可能性を高めることと、これまで認めてこなかった企画など形のないものへの対価の必要性を認め、創造性のある仕事にはそれなりに厚い報酬を支払うことが、格差社会を埋めていくためにも必要なのではないかと考えます。

先進各国の中で最低の生産性とされる日本ですが、フレデリック・テイラーの科学的管理法、新訳版にこんな一節があります。

計画的な怠業が行われるのは、出来高性の下においてである。仕事に精を出して出来高を増やした結果、単価を引き下げられてしまうという経験を二回か三回ほどすると、その働き手は雇用主の事情などいっさい忘れ、「手抜きに訴えてでも、これ以上の賃下げは何としても防いでみせる」と悲愴なまでの決意をする。

中略

「職場一丸となって同じ目的のために働き、みんなで利益を分け合う」という意識は完全に失われる。

ニック・ハノーアーの主張やトマ・ピケティの資料にもあるように一部の金持ちや企業にお金が回る仕組みは完璧に出来上がり、その格差はどんどんもの凄いことになりつつあります。

バブル時代のお金への狂騒は見苦しい事も多数ありましたが、その中には皆で儲けよう的なマインドもあり、この辺は今の時代にも求めら得ているのではないかと考えています。

これから先、日本もコスト削減だけじゃなくて、今日一例として上げた早く仕事が出来ることを安易に低価格で叩くのではなく、付加価値があればそれは高い報酬で報いるマインドが社内・社外を問わず、結果として生産性を高め、更に大きなところして経済の活性化にも繋がっていくと考えます。

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