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ユニクロ柳井会長の矛盾昇華度は、至高の第五レベルのリーダーシップの域に到達か!?

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ユニクロの柳井会長の「年収100万円も仕方ない」の記事が大きな反響を呼んでいます。

「国が違うから賃金が低いというのは、グローバルに事業を展開しようとする企業ではあり得ない」という話に、記者は賃金の金額設定の話をして、そこに柳井氏は

  • 日本より欧米の店長のほうがよほど高い
  • 日本での賃下げは考えていない
  • 途上国の賃金を欧米並にいきなりはできない
  • それ(途上国)の賃金をどう、平準化し、実質的に同じにするか、具体的な仕組みを検討している」

こう、答えていてます。

まず「日本での賃下げは考えていない」と書かれている事と、こちらの『ユニクロ、「世界同一賃金」導入へ 優秀な人材確保狙う』の記事のほうでは下限は320万になっているので、なんでここで1億と100万で2極化の話をしたのかがちょっと疑問。

別に柳井氏の弁護をしようと思ってこのエントリを書いている訳ではありませんが、個別要素としてはこんな話やデータがあるよというのを幾つかご紹介しておきたいと思います。

ここ最近わたしがブログで良くとりあげる「機械との競争」でも、中間層が没落する話が紹介されており、富の正味増加分の八〇%以上が上位五%の世帯に、四〇%以上が上位一%に集中しているという数字の紹介と共に、学歴による収入格差はこんな風に開いているという数字も紹介されています。

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出典:機械との競争 日経BP社 より

年収100万じゃ暮らせないという話も当然出てきますが、これまで当ブログでも数回紹介していますが、ウォルマートは出店にあたって日本で言う補助金をもらいながら、従業員には生活保護を受けるレベルの給料しか払っていない先例もあります。

また野口悠紀雄氏の「1940年体制 さらば戦時経済」の中にはこんな指摘もあり、

経済学の理論では、生産に関しては市場における競争原理にまかせ、生活の保障はそれとは別に社会保障でおこなうべきだとしている。つまり、個人の生存や生活は保証されるべきだが、それは雇用の保証によるのではないという考えである。

この考え方を柳井氏が取り入れての発言かどうかは確認しようはないのですが、こういう話を踏まえて考えるとそれほど目新しいことを言っている訳でもないというのがご理解いただけるかと思います。

次に、記者は「グローバル企業」として成功していますが…と質問しています。ここで語られている成功とはどういう具体性があるだろうと考え、まず売上の源泉となる店舗がどのような世界展開しているのかライバルのGAPとH&Mを調べてみました。

まずここで気がつくのは、この3社は複数のブランドを展開しており、新聞などで店舗数として出てくる数字はそれらのブランドを含めた店舗数だということを知りました。

ホームページに公開されている情報からユニクロとGAP単体の数字を抜き出してみると1206(2327)対1379(3064)このような数字となります。(H&Mはブランド別の資料が見当たらず店舗数だけなら2776)

GAP ユニクロ
GapNorth America      
United States 889 米国 5
Canada 101    
  990    
       
Gap Europe      
United Kingdom 148 英国 10
France 37 フランス 3
Ireland 3    
Italy 10    
  198 ロシア 2
       
Gap Asia      
Japan 144 国内ユニクロ事業 847
China 47 中国(除く香港) 182
  191 香港 16
    台湾 27
    韓国 91
    シンガポール 8
    マレーシア 7
    タイ 6
    フィリピン 2
       
合計 1379 合計 1206

ここでのユニクロは単体ブランドでの店舗数の面での頑張りと、アジアにおいて複数の地域に出店しているところがGAPのグローバル展開との違いとして見えてきますが、逆にH&Mがこれだけの地域に出店しているのには驚かされました。

  • Germany
  • USA
  • United Kingdom
  • France
  • Sweden
  • Netherlands
  • Switzerland
  • Spain
  • Norway
  • China
  • Italy
  • Austria
  • Denmark
  • Belgium
  • Canada
  • Poland
  • Japan
  • Finland
  • Russia
  • Portugal
  • Greece
  • Czech Republic
  • Romania
  • Hungary
  • Croatia
  • South Korea
  • Ireland
  • Slovenia
  • Turkey
  • Singapore
  • Luxembourg
  • Slovakia
  • Bulgaria
  • Malaysia
  • Mexico
  • Latvia
  • Franchise

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H&Mの店舗数の伸び 出典:Annual-Report-2012_en.pdf

マーケティングの基礎を習う授業では、SPA・製造小売業の例として取り上げられるGAP、ユニクロ、H&Mですが、こうやって店舗展開の仕方をざっくり見てみるだけでも各社の方針の差違が見えてきますね。

ユニクロの「グローバル企業」として成功というところに戻って考えると、GAPは米国内での店舗閉鎖、ドイツからも撤退し中国への出店を強化している流れがありますのでこの観点で確かにGAPの戦略にも先行するような形でアジアを中心としたグローバル展開を成功させていると言えるようですね。

またインタビュー記事にもどって見てみます。

--売上は増やせ、その一方では残業はするな、では生身の人間は壊れませんか?という質問に、

将来、結婚して家庭を持つ、人より良い生活がしたいなら、賃金が上がらないとできない。技能や仕事がいまのままでいいということにはならない。

とあるのですが、家庭をもって子供1人か2人を大学出すまでに必要な給与水準を得ようとおもったら(一人で稼ぐか、もしくは共稼ぎ前提で考えるのかも含めて考える必要ありますが)ユニクロの場合どんな働きぶりになるのか示すことで、その前段の「それは誤解だ」という話に説得力でてくるだろうにと思います。

次に、日本の働き手もと途上国や新興国と同じものしか生み出せないなら、同じ賃金でやるしかない?という質問に、先進国が抱える同じ課題だとしてこんな話が出てきます。

戦略やマーケティングとか、もうかる付加価値の高い部門を日本におくことだ。世界中の企業が最適地企画、最適地生産、最適地販売に移っている。

ユニクロは日本の会社なので戦略やマーケティングとか、もうかる付加価値の高い部門を日本におくというのは普通だと思ったので、アメリカの会社はどう考える?と思い資料を探してみたらポーターの資料でこんなのがありますね。(1989年のモノなのでアセンブリーや検査は状況違うだろうという注釈付きですが)

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出典:現代の経営学 産業能率大学 より

ちなみに、H&Mの直近のAnnual Reportにはこんな情報も記載されていて、こちらも参考になります。

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出典:H&M Annual-Report-2012_en.pdf

このH&Mの資料を見ていると、Board of Drectorsの元、マーケティング以外にもSustainabilityといった要素も含めた最適地企画、最適地生産、最適地販売に移行しつつある姿が見えてきます。

ここから感じるのは最適地企画という観点からするとそれぞれの国で柳井氏の言う付加価値の高い戦略やマーケティングを受け持つ人間は必要になるでしょうから、彼が言いたいのは、同じ社内でもどっちの仕事につくかで大きな賃金差をつける会社になりますよいう事なんだろうな、、と感じた次第。

今回100万という分かりやすい数字が一人歩きしてしまった感がありますが、「ユニクロのグローバルワン全員経営」について、経営の流儀という書籍の中でハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏は以下のような解説をしています。

「仕事をするうえでは、トップからアルバイトまで対等で、働く人々を横一線で考えるパートナーシップを持つ経営構造を目指す」

これを徹底するために一橋大学大学院国際企画戦略研究所がハーバード・ビジネス・スクールやスイスのIMDというビジネススクールと組んで手伝いをしていると書かれています。

全員が経営者となりトップからアルバイトまで対等、でも職位は最低だから320万…というのはどこか矛盾を感じますが、

最高レベルのリーダーは一見矛盾しそうな原則が併存、あるいは昇華・統合されて兼ね備えている人こそ、最高のリーダーだという考え方があり、J.コリンズはグッドカンパニーをグレートカンパニーに発展させた経営者を「第五レベルのリーダー」と呼び、その特徴として「矛盾した性格」を持つと指摘しています。

確かに「矛盾昇華度」は実践の場において大変重要な要素ですが、金井壽宏氏の言う、現在変革を主導する人に欠くべからざる能力として

  1. 大きな絵を描けること
  2. 絵を実現する筋道を考えられること
  3. 必要な人を巻き込むために、絵や絵に至る筋道w説明でき、参画を説得できること
  4. 最後までやりきれること

これを考えた場合、

今回社内で危機意識を高めるための言葉が今回たまたま外部に向いてしまったのかもしれませんが、一連の記事を読んで、柳井氏の考えに喜んでついてくるフォロワーが出てくるのかと考えると、大きな「?」が頭に浮かぶのは私だけではないように思います。

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