離職率50%どころか、従業員に掛けた保健の死亡率が予測の50%以下で投資効果があがっていないとクレームつける米国企業の凄まじさ
離職率50%が高いかという見出しを見てふと思い出した事があります。
先日久々に見直した映画「キャピタリズム」の中で家族には内緒で従業員に生命保険を掛けていた例を紹介しているくだりでこんな数字が出てきます。
アメリカン・グリーティングス社、RRドネリー社、P&G社、従業員の死亡率が予想の50%にしか達しておらず(投資効果が出ていないとして)、この3社はこの問題を強く認識。文書で保険ブローカーに低死亡率を責めている
この問題を調査しているという弁護士はアメリカにおいてもこの問題は個人情報の壁に阻まれて調査不能なのだが、こんな企業がそういう保険を掛けていたという情報が漏れたと語るシーンがあり、そこでは超有名企業の名前がずらりと並びます。
バンク・オブ・アメリカ、シティバンク、ウォルマート、ウィン・ディクシー、マクダネル・ダグラス、ハーシー、ネスレ、AT&T、サウスウエスタンベル、アメリテック、アメックス
離職率どころか、従業員の死亡率が50%未満で投資効果が上がらないとという話は、映画の中でも突っ込み入っていますが、従業員が死ぬことを望んでいる事になるわけで、これはもうほんとうに訳の分からない世界です。
さて、ここで出てきたウォルマート、町山智浩氏の「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」で、「ウォルマート、激安の代償」としてこんなエピソードが紹介されます。
- ウォルマートの正社員の平均年収は1万9430ドルだが、アメリカ政府は4人家族で年収1万9350ドル以下を「貧困家庭」と規定している。しかも週34時間以上労働で、残業手当無しの、組合もなし
- 生活保護を受けている従業員は8%
- この人たちが政府から得る援助の総額は年間16億ドル(本来ウォルマートが賃金として支払うべき分を税金が補助していることになる)
- 一方ウォルマートは雇用創出を理由に地方自治体から開店資金援助を受けており、その金額は全米で10億ドルに及ぶ
- ウォルマートCEO(リー・スコット氏)の年収は2700万ドル(約28億円)で、創業者一族5人が受け取る額はそれぞれ18億円
この「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」著者町山さんはこの章で、悪いののウォルマートだけではないという事で、こうも指摘します。
今は全米の大規模量販店、いやすべての大企業がウォルマートのマネをしている。中国やインドや中南米で時給20円の奴隷労働で作らせた激安商品で米国内の小売業と生産業を爆撃し、職を失った人々をタダ同然で雇う。低賃金労働力として貧困層を構造敵に作り出しているわけだ。
たしかに超低賃金で働かせて問題になった企業はそれ以外にもありますね。わたしの中で調停賃金、奴隷労働の問題で思い出すのはナイキ社のことです。
マーケティングが素晴らしく、ブランド評価などでも世界の上位にランキングするナイキ社ですが、創業者フィル・ナイト氏は低賃金の労働者を使って効率的な生産を行えば、アディダスやプーマといった大手企業がいる市場に参入できるのではないかという論文をスタンフォード大学時代に書いた話をご存じの方も多いかと思います。
そして実践した結果として見事会社も大きくなりましたが、その過程において児童労働や低賃金問題で批判を浴びるようになった訳です。
アメリカにおいて労働者と経営者の収入格差は開く一方ですが、ウォルマートやナイキ、のような批判を浴びた企業の近年におけるCSR(企業の社会貢献)、サステナビリティ活動の様子は昔の評判とはこれまた大きな差があります。
ハーバード・ビジネス・レビューの4月号では、「ウォルマートの挑戦:サスナビリティとビジネスの両立」という記事があり、ウォルマートのエブリデイ・ロープライスとエブリデイ・ローコストを追求することと、サステナブルなビジネスを目指すことはまったく矛盾なく両立可能だというリー・スコットのコメントを紹介しており、「40年かけて学んだ パタゴニア流企業の責任とは」という記事の中では、パタゴニア社は環境負荷を削減するためにアウトドア産業協会を通じてエコ・インデックスという評価ツールを開発、ここまできたのはナイキの貢献が大きいとわざわざ書かれていたりもします。
これらの企業が従業員への給与や待遇面でどんな改善をしたのかを把握はしていませんが、これまでのやり方のままではまずいということである程度の方向転換を図っているのは事実かと思います。
こういうウォルマートやナイキの変化が本物だとしたら、もしかして現在叩かれている会社も、ここから数年後にはそれまでが信じられないような変貌を遂げたりするのでしょうかね…