コード生成AIの進化と人月ビジネスの終焉
先日、米マイクロソフトが発表した大規模な人員削減のニュースがありましたが、注目すべきは、製品開発を担うソフトウェアエンジニアが主な削減対象となったことです。この動きは、マイクロソフト一社に留まらず、国内外のテクノロジー企業で散見され始めており、AIによる自動化の波がソフトウェア開発の現場、ひいてはSIerのビジネスモデルそのものに本格的な変革を迫っていることを示唆しています。
AIによるソフトウェアエンジニア削減の現実
AI、特にコード生成AIの能力は近年飛躍的に向上し、従来は人間のエンジニアが担っていた領域をカバーしつつあります。例えば、以下のような事例が報告されています。
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米大手テック企業における人員再編: GoogleやMetaといった企業でも、AI技術の進化に伴い、一部プロジェクトでエンジニアの役割が見直され、人員配置の最適化が進められています。AIを活用することで、より少人数のチームで効率的に開発を進めるケースが増えています。
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ゲーム業界でのAI活用: 一部のゲーム開発会社では、ゲーム内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の挙動生成や、背景アセットの自動生成などにAIを活用し、開発工数の削減とクオリティ向上を両立しようとする動きが見られます。これにより、従来は多くのアーティストやプログラマーを必要とした作業が効率化されています。
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スタートアップにおけるリーンな開発体制: 新興企業においては、初期段階からAIツールを積極的に導入し、少数のエンジニアで迅速にプロダクトを開発する事例も増えています。GitHub CopilotのようなAIペアプログラマーは、エンジニアの生産性を大幅に向上させると報告されています。
これらの事例は、AIが人間のエンジニアの仕事を完全に奪うというよりは、エンジニアの役割を変え、より高度な問題解決や創造的な業務へとシフトさせていることを示しています。しかし、単純なコーディング作業や定型的な開発業務においては、人間の労働力への依存度は確実に低下しつつあるのです。
一方で、コード生成の自動化が進んでも、コードレビューによる品質保証は、当面は人間に依存すると考えられます。 なぜなら、AIが生成したコードには、その特性上「確率的な揺らぎ」が含まれる可能性があるためです。開発基準を厳密に遵守し、最終的な品質についての責任を負うことは、現時点では人間にしかできません。そのため、人間のエンジニアの役割が直ちになくなることはありません。しかし、その役割は、単にコードを書くことから、AIが生成したコードをレビューし、品質を担保し、より複雑な設計や要件定義を担う方向へと大きく変わっていくでしょう。
将来的には、このコードレビューや品質保証といった課題もAI技術のさらなる進化によって解決できるようになるかもしれません。そうなれば、そのための人材もまた、新たな役割へとシフトしていくか、あるいは不要となる可能性も視野に入れておく必要があります。
SIerの人月ビジネスへの警鐘
この現実は、コードを書く労働力を提供することで収益を上げてきた多くのSIerにとって、ビジネスモデルの根幹を揺るがす事態を意味します。人月単価で見積もり、エンジニアの数を投入することで売上を拡大してきた従来のやり方は、AIによる生産性向上と省力化の流れの中で、その前提を失いつつあります。
さらに、コード生成AIの発展は、ユーザー企業による内製化を加速する要因にもなります。 これまで、システム開発におけるコード作成には多大な労力が必要であり、多くのユーザー企業は自社でそのリソースを賄うことが困難でした。そのため、SIerに対して労働力、すなわち工数として外注する必要があったのです。しかし、AIによってこの『コードを書く』という最大の制約が取り払われることで、ユーザー企業が自らシステム開発を行うハードルは劇的に下がり、SIerへの外注の必要性は急速に、そして確実に薄れていくでしょう。
加えて、旧態依然としたSIerの人月ビジネスは、絶え間ない価格競争にさらされ、結果としてエンジニアの賃金を上げることが難しい構造に陥っています。 このような状況下で、志の高い、向上心のあるエンジニアは、時代の趨勢を敏感に読み取り、自律的に新しいスキルを学びます。そして、より高い報酬と成長機会を求めて、内製化を推進し優秀な人材を積極的に採用しようとするユーザー企業への転職を選択するようになるでしょう。ユーザー企業側も、内製化を進める上で即戦力となる優秀なエンジニアを採用しやすくなるという側面があります。
この状況を放置すれば、SIerからはますます優秀な人材が流出し、企業変革を担うべき貴重な人材を失ってしまうという深刻な事態を招きます。
しかしながら、多くのSIerがこの変化の大きさに気づきながらも、具体的な対応に踏み出せていないのが現状ではないでしょうか。
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AI駆動開発の未経験: AIを活用した開発手法やツールについて、知識レベルでは理解していても、それを喫緊の経営課題として捉え、プロジェクトで導入・活用するまでに至っていない。
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利用への自主規制: 新しい技術に対する漠然とした不安や、既存のやり方への固執から、AIツールの利用に心理的なハードルを感じたり、社内ルールで制約を設けたりしている。
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環境整備の遅れ: AI駆動開発を実践するために必要な開発環境、学習リソース、ガイドラインなどが整備されていない。
システム開発を取り巻く環境がこれほど急激に変化しているにも関わらず、過去の成功体験に囚われ、旧態依然としたやり方を変えようとしないSIerが存在することは、非常に残念なことです。
変革への道は「実践」の中にしかない
このような状況を打破し、時代の流れに即したSIビジネスの次のステージを目指すのであれば、もはや情報収集や座学に留まっている場合ではありません。
「どうすればいいのか」を自ら体験的、実践的に学ぶこと。これに尽きます。世の中の状況を情報として知るだけでは、しょせん実践には結びつきません。AIツールを実際に使い倒し、その長所も短所も、そして自社業務への適用可能性も肌で感じること。そこからしか、真のノウハウは生まれません。
「お金がかかる」「スキルがない」といった言い訳は、変化を拒むための都合の良い口実に過ぎません。そのような姿勢を続けていれば、やがては新しい価値を提供できずにお金が入らなくなり、新しいスキルを身につけたいと願う向上心の高い人材は、変化を恐れる会社から去っていくでしょう。
もはや、情報を集めたり、机上で考えあぐねたりしている場合ではないのです。
実践を積み上げて生きたノウハウを身につけ、次のSIビジネスの道筋を自分たちで模索する時です。変化の速い世の中だからこそ、とにかく試してみる。成功も失敗も経験し、その結果から学び、改善を重ねていく。このサイクルを高速に回すこと以外に、変革を成し遂げる方法はないのです。
SIerがAI時代を単に生き抜くだけでなく、新たな価値提供者としてさらに発展していくためには、過去の成功体験や既存のやり方に固執することを捨て、未知の領域へ果敢に挑戦する勇気を持ち、実践を通じた学びを高速で継続する覚悟、そしてそれを新たなビジネスチャンスへと転換する戦略性が求められています。
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【第1回】 2025年6月10日(火)
【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
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