シリア問題が大きく報じられる事となった日本人ジャーナリストの死
先日2008年の南オセチア紛争(ロシア-グルジア戦争)をテーマに扱った『5デイズ』(5 Days Of War )という映画を見る機会がありました。
映画は、「戦争が起これば最初に真実が犠牲になる」というアメリカのハイラム・ジョンソン上院議員の言葉がテロップで出てきて、戦争取材をしている記者の乗った車が銃撃される場面からスタートします。
この紛争、北京オリンピックの期間中に起きたことも驚きでしたが、その現場では最前線で決死の取材を続けるジャーナリストたちがオリンピックのために取材映像が放映されないという何とも辛い状況に陥っていた事を映画は伝えています。
この映画も実話をベースにしたものですが、昨日シリアで日本人ジャーナリスト・山本美香さんが取材中に犠牲になり、その取材で無くなる瞬間まで撮影されていた映像を見て衝撃を受けつつ、何とも言葉で言い表せない気持ちになりました。
曾野綾子氏の「ただ一人の個性を創るために」という書籍に、『第三の悪』というテーマで、中国とロシアの条約締結を報じる新聞社が社説で
特定の国を敵視せず、相互の協力、協調を発展させることで国際社会にも貢献する。そんな両国関係であってほしい。
と書いている事に対し、大の大人がこんなおきれいごとをいう事の迷惑を『第三の悪』ではないかと思うと書いており、さらに
ほとんど地球上のすべての国が、必ず特定の国を敵視している、多くの場合、それは隣国だ。しかし人間の英知と計算が、敵視するだけでなく、それをどうしたらアメとムチでごまかして緊張を緩和していけるか、を考える
と続きます。
ここ最近日本が抱えている問題について多くのマスコミは具体的な方策を示しているケースは非常に少なく、曾野綾子氏の指摘のもっともさを痛感していたのですが、今回亡くなられた山本美香さんは、世界で起きている領土問題、地域紛争、人種問題など綺麗ごとで済まない話を理解している貴重な存在だったはず。
経済関係が大事だから冷静に…というのは頭では理解できますが、今回のようなケースを世界的な見地から見たらどう判断して、どう行動するのが良いかを、実体験をもって語れる方を失ったことは大きな損失ではないかと思います。
『5デイズ』は、オリンピックで報道枠の空きが無いという信じがたい状況ながらも、必死で現場からレポートを伝えようと努力を続ける記者たちの姿を描いていました。
今回の件は日本国内のメディアが山本さんの死と共に、取材していたシリア問題を大きく報じ、米国務省報道官や英BBCも異例の扱いで報道しているのこと。
山本さんが生きていれば今後沢山の活躍をされたと思いますが、ご自身の死がこのような形でシリア問題の報道に繋がったことは、死と隣り合う最前線で記者として活躍されていた山本さんにとってせめてもの慰めになるのではないか…と考えたいです。
山本さんのご訃報に心から哀悼の意を表します。