【書評】リーダーになるのが嫌なのだけど・・・という人へ~『内向型人間のリーダーシップにはコツがある』
渡瀬謙さんの新刊『内向型人間のリーダーシップにはコツがある』が、とても心に響いた。僕には、むちゃくちゃ派手なリーダー失格経験が2度もあったからだ。もう二度とリーダーにはなるまいと思っていた。ところが、この本を読んで、もしかしたらリベンジできるのではと、あれ以来初めて思えたのだった。
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渡瀬謙さん(写真)をご存知でしょうか?
元リクルートのトップ営業の一人なのですが、リクルートらしさが全くない人です。
リクルートと聞いてイメージするのは、体育会系のイケイケ営業マン(実際はそうでもないようなのですが)。渡瀬さんは、文化系で引っ込み思案です。刺繍とかが似合いそうなタイプです。
ところがこれが強みになるんですね。2009年に出した『内向型営業マンの売り方にはコツがある』という本がヒット。
以降、大和出版の"内向型"シリーズだけでも4冊。合計で約20冊の本を出しています。
成功者ではあるのですが、成功者にありがちなギラギラ感はまったくないし、人を見下すような態度もかけらもないのです。普通かけらはあるものなのに。
●渡瀬さんの本の特長
僕は『内向型営業マンの売り方にはコツがある』以前からの友人です。
渡瀬さんは律儀に毎回献本してくださいます。
有名になるとそういうことをしなくなる人が殆どの中で、昔からの友人を大事にする渡瀬さんの姿勢には頭が下がります。
ただ、献本されても書評の書きようのない本を送られても困るんです(それで書評を書かないとぱったりと献本がなくなるというのが真相です)。
その点、渡瀬さんの本は、そんなに突拍子のないことが書いてあるわけでもなく、考えてみれば常識的なことばかりなのですが、でも毎回ハッとさせられることが必ず書いてあるんですね。
それに文章が読み易いのだけど、簡単なことが書いているということではなく、渡瀬さんならではの温かみと、そこからくる深みがあるので、毎回読むのを楽しみにしているのです。
そんな渡瀬さんの新刊『内向型人間のリーダーシップにはコツがある』が、この三連休に届きました。
●そちらで来たか!
内向型シリーズ。最初のテーマは「営業」でした。
渡瀬さん自身は内向型営業マンのトレーナーであるという「自分軸」があります。
ですので、次は「雑談」、その次は「人づきあい」という営業マンが気になるテーマで書いてきたのだと思います。
そろそろネタ切れではと思っていたのですが、今度は「リーダーシップ」。ネタはあるものですね。
今回は、営業マンよりも広い範囲が対象になっているようです。
そのせいか、今まで以上に僕に響きました。
何しろ僕は、リーダーとしては派手な失敗実績を持っていたからです。
●リーダー失格だった僕
おまえの失敗談はもういいという人は次の見出しまで読み飛ばしてください。
僕はリーダーとしては、大きく2回失敗しています。
1999年10月から12月までの2ヵ月の休職経験。
社内外で10以上の組織の利害が複雑に絡みあうプロジェクトのマネージャに抜擢されたのですが、まったく利害調整ができず、一人で抱え込んだ末に神経症になってしまったのです。
それまでかなり順風満帆なキャリアを積んでいた僕にとっては大きな挫折でした。
しかし、会社は再びチャンスを与えてくれました。リハビリには2001年まで掛かりましたが、その間、基本的に残業なしにしてくれたのです。
お蔭様で、僕の神経は回復し、もう一度グループリーダーとしてビジネスを回してやろうとの野心も生まれてきました。
それで張り切って仕事を取り過ぎました。この頃の僕は、まるで神懸り。提案した案件のほぼ全てを受注しました。
ところがマネジメントができない。約2年で僕は燃え尽きてしまいました。
一時期は派遣を含めて15人ほどの部下がいましたが、そのうちの5人が立て続けに退職し、僕は辞表を書きました。
●初めてやり直せるのではないかと思った
辞表はすぐに受理されず、僕は異動になりました。しかし1年半後には転職してしまいました。
忘れたくても忘れられない経験です。部下だけでなく多くの方に迷惑を掛けました。
今やらせてもらったらリベンジできるという自信は、その後もまったく湧いてきませんでした。
失敗の理由が良くわからなかったからです。
せいぜいもう少し強い心を持つべきだった、精神修養に励むべきだった、ぐらいの考えしか出てきませんでした。
ところが渡瀬さんの新刊『内向型人間のリーダーシップにはコツがある』を一読して、もしかしたら今度はできるんじゃないかと初めて思えたのです。
●失敗した理由
渡瀬さんも、独立後に同じような経験をしたのだそうです。ただ、彼は最終的にあることに気づき、僕のような破綻には至りませんでした。
その「あること」とは?
僕もまったく同じことをしたのですが、渡瀬さんも最初は本を読み漁り、自分なりに「あるべきリーダー像」を描いたのだそうです。
その結果渡瀬さんは、理想のリーダーは次のようなことをするのだと思い込んでしまいました。
- メンバーにこまめに話しかける
- 自ら率先して雰囲気づくりをする
- みんなにやりがいを与える
渡瀬さんは一生懸命これらに取り組みました。取り組めば取り組むほどメンバーの気持ちは離れていったといいます。
しかし、転機が訪れます。大口顧客が3つほど相次いで取引を停止してきました。倒産の危機です。
そのとき渡瀬さんは格好をつけずに、全てを正直に打ち明けて、協力を仰いだのだそうです。
共通の目的ができた組織は強い。結局V字回復を達成し、会社の雰囲気もものすごく良くなったのだそうです。
このときに渡瀬さんが心がけたのは、理想のリーダーとは全く逆の態度で、つまり「素の自分」のままメンバーに接するということでした。
心がけたというよりも、それしかできなかったのかもしれません。
いずれにしろ、無理をやめて、「自分が一番自然でいられる状態」に戻したら、メンバーがついてくるようになったのでした。
●僕も無理をしていた
僕も、ダメだったときの渡瀬さんとまったく一緒でした。
無理をしていたのです。
それまで僕は、順風満帆に昇格してきました。1回だけ昇格試験に落ちましたが、それでも同期では5本の指に入るスピード出世でした。
大きな期待を感じていました。プレッシャーもありましたが、認められる快感もありました。
がんばらなきゃいけないといつも思っていました。
自分の性格の弱さが嫌いでした。高校の部活を途中で辞めたことが心の奥に棘のように刺さっていました。
強くならねば・・・。
理想のリーダーにならねば・・・。
その後、僕の元部下が、何人か若くして部長になりました。僕が会社を辞めた後です。彼らを見ていると、確かに精神力も僕より上なのですが、自然体でもありました。無理はしないのです。
無理をしないから、肝心なところでは逃げないで済む。
人間の強さって、本当はこういうことなんじゃないか、と僕は今はそう思います。
僕がこのことに気づけたのは、渡瀬さんの新刊『内向型人間のリーダーシップにはコツがある』のおかげです。
●自分軸は無理をするためのものではない
自分軸を作る際に重要なのは、「なぜ」を突き詰めることです。
その際に、「弱い自分」や「ダメな自分」と向き合えた人のほうが、よい自分軸が出てくることが多い。これは僕の自分軸発見支援経験から断言できることです。
向かい合えない人の自分軸は、あいまいなものになりがちです。
自分と向き合い、自分を受け入れる。これが自分軸発見のプロセスそのものだと言ってもいいと思います。
これができれば、無理をすることが馬鹿らしくなり、素の自分で行こうという気になる。
僕は、軸を持つことで試行錯誤に耐えられるようになると考えていました。
もちろんその面はあります。ただ、その理由は強くなれたからではなく、自然になれたということだったようです。それにようやく気づきました。
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