待ちの名刺か、攻めの名刺か
一番多いのは名刺の管理法だろうか。紙のままから電子化するのまでいろいろあるが、名刺をデータベース化するのにとどまっているものが多いようだ。
数年前に何人かの著者が出していたのが、名刺による自己PR法。通常サイズから多重折りまでいろいろあるが、主流は二つ折の名刺。自分の情報をたくさん載せることで、おぼえてもらうと同時に共感や信頼も得ようとするものだ。
そんな名刺本の世界に誠ブロガーの荒木亨二氏が乱入。いまさら名刺をテーマにどんな本を書くのかと興味津々だったのだが、これはまったく新しい観点の名刺本だった(注)。
(注)もちろん世界中の名刺本を読んでいるわけではないので、何かのパクリだと思った方はご一報ください。
※上の画像はAmazonより拝借しました。例によってAmazonアソシエイトにリンクされていますので、ご注意ください。
荒木氏の『名刺は99枚しか残さない』の紹介をする前に、自分自身の失敗について書いておこうと思う。
実は、以前自己PR用の名刺を作ったことがある。それもその手の本の著者のコンサルを受けて、制作もお願いしたものだ。
僕は、この名刺さえあれば、仕事が次々と舞い込んでくると思っていた。
名刺交換した人たちのほとんどは感心していた。その場で読みふけり始め、こういう名刺を自分も作ろうかなという人も多かった。
ところが、名刺からはまったく仕事が来なかった。
これは、名刺コンサル氏が悪いわけではない。「名刺がセールスマンになってくれる」という言葉を鵜呑みにし過ぎた僕がいけなかったのだ。
名刺コンサル氏は、たしかに自分の名刺で着々と人脈を広げ、仕事も獲得しているが、決して名刺だけに頼っているわけではない。自分のお客さんがいそうなイベントに参加したり、主催したりしている。そういう場で名刺を使うから仕事が舞い込むのだ。
僕は、ただ待っていただけ。違いは歴然だ。
とはいえ、自己PR用の名刺は、「待ちの名刺」である。効率のよいやり方はあるが、向こうがアクションを取ってくれない限りは無意味だ。
荒木氏の方法論はまったく違う。
自分の名刺に凝る必要はまったくない。実際、荒木氏の名刺は、センスのよさは感じるが、そっけない。
もらった名刺にこそ意味がある。それを戦略的に活用するのだ。
そのために、まずは99枚に絞り込めという。
99枚にどういう意味があるのか? 別に50枚でも、200枚でもよさそうなものだが、前掲書を読むと、99枚がベストだと納得させられる。
以前、数字で煽るコピーやタイトルはもう通用しないという記事を書いた。その中でも、意味のある数字を使うのであれば、逆にそれはいいことだとも書いた。
この「99枚」に関しては確かに意味のある数字だ。ただ、煽りと取る人も大勢いそうなのが、荒木氏のためには残念に思った。
この記事が、前掲書を煽り系の本だなと思って敬遠してしまった人に、もう一度振り向いてもらうきっかけになればと思う。
99枚に絞ったら、何をするのか?
まずはファイリングの方法を書いている。
システム手帳のリフィルを利用して管理する。両面に入れる人が多いが、名刺は表面だけにいれて、裏面にはポストイットで思いついたことを貼る。
ここまでは実践している人も多いと思うが、分類がユニークだ。ハヴズ、プロジェクト、フリーの3つに分けろというのだ。
ハヴズは、人脈を持っている人およびその人から紹介された人たち。プロジェクトは、あるプロジェクト(既に動いているものもこれから始めようというものもある)に関わる人たち。フリーはどちらでもなく、いつか一緒に仕事をしたいと願う人たち。
ハヴズとプロジェクトの両方に入る人もいるのではという疑問があるだろうが、それについてもきちっと答えが書いてある。
面白いと思ったのは、フリーが一番多いということ。荒木氏は未来志向なのだろう。
ここまでは前提だ。以上だけだと単なる名刺の整理術に過ぎない。この先が荒木氏のすごいところだ。
名刺を使って事業企画を出し、それに99人に絞り込んだ(自分から見た)最強ビジネスパーソンを巻き込んでいく。そのやり方が書いてある。
詳しい方法論は前掲書を読んでいただきたい。
僕はうなった。名刺のこういう使い方を今まで聞いたことがなかったからだ。
「待ちの名刺」とは180度違うやり方だ。これは「攻めの名刺」と言えるだろう。
「待ちの名刺」は、名刺交換した相手から仕事がくるのを待つだけ。僕のようにただ待つだけだと、待ちぼうけになる。
「攻めの名刺」は、自分で仕事を作ってしまう。それに大勢の人を巻き込んでいく。
「待ちの名刺」と「攻めの名刺」では、どちらが人に喜ばれるだろうか?
「待ちの名刺」をもらった場合、将来的な話も含めて自分に関係があると思えば、一生懸命読むこともあるのだが、関係ないと思えば、単にかさばるだけである。
「攻めの名刺」は、名刺交換した相手に仕事を運ぶものだ。面白い仕事なら当然喜ばれる。
荒木氏は人に媚びないタイプだと思っていたが、それは「攻めの名刺」で人に喜びをもたらしているからだろう。
「待ちの名刺」を使っている人のすべてがそうだというつもりはないが、少なくとも僕は、「待ちの名刺」を使っている間は知らず知らず人に媚びていたと思う。
人に媚びることで仕事をもらうのではなく、自ら仕事を作って人に喜んでもらいたいという人には必読の本だと思う。
これは、起業家やフリーランスだけに必要な能力ではない。それどころか企業のマネージャーにいま一番求められている能力ではないだろうか。
この本は、読み込む本ではない。使う本だ。ぜひ使っていただきたい。
頼まれて書評を書くこともありますが、くだらないと思ったらお断りしています。
今回は頼まれてもいないのに書きました。
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