SXSW2017観戦記ーその10 次はあなたがチャレンジする番だ!
アメリカ合衆国テキサス州の州都であるオースティンの街全体がフェスティバル会場となるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は、1987年に音楽祭からスタートして1994年にはインターネットやデジタルを取り入れ、ITの未来を占うショーケースともいわれています。そのIT業界における影響力はファッション業界で言えばパリコレに相当する存在といっても過言ではないともいわれています。
SXSWはもともと音楽が主体で、あのピアノ弾き語りジャズ歌手のノラ・ジョーンズがメジャーになったのもここがきっかけだというのは有名な話です。94年には「Music」に加えて、「Film」と「Interactive」を加えて現在のスタイルになったといわれています。
《今年で30周年を迎えたSXSWは世界各地から参加者で盛り上がりを見せる》
黎明期を占うフェスティバル
IT業界の産業アナリストであるガートナーが開発したハイプサイクルをご存知でしょうか。縦軸に期待度、横軸に時間をとり、新しいテクノロジーは、黎明期から「過度な期待」のピーク期、幻滅期、啓蒙活動期を経て生産性の安定期を迎えるという考え方です。
《ガートナーのハイプサイクル(Wikipediaより)》
長年、日米のハイテク企業でマーケティングを担当した友人が言っていました。"SXSWは、まさにガートナーのハイプサイクルにおける黎明期のアイデアや技術を試すものだ"と。
なるほど、参加出展内容を見ると半完成品やテストマーケティングの途上の商品が多く、コンセプトモデルを展示するコーナーや企業も多かった
日本企業のチャレンジ
日本企業では、パナソニックとソニーの活動が特徴的でした。通常、コンベンションセンター内の展示スペースでブースを構えるのがこのような展示会の慣わしだと思われますが、SXSWでは街全体がイベント会場に様変わりします。この二社もコンベンションセンターではなく、オースティンの街の一角に展示スペースを設けていました。
パナソニックのアプライアンス事業部は、ガートナーのハイプサイクルにおける黎明期を試す場としてSXSWを有効に活用した日本企業だと言えます。全ての展示品は同社の「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャーカタパルト)」活動の一貫として同社のアプライアンス社(いわゆる白物家電の事業部)のイノベーター達が、社会課題の解決に取り組むアイデアや、衣食住に関わるアイデア、IoT技術を活用したアイデア等、多種多様な新規アイデアを出展しました。
《パナソニック"PanasonicHOUSE"ではアプライアンス事業部の斬新なアイデアが!》
"The WOW Factory"と名づけられたソニーのブースは、他の企業がひしめくオースティンコンベンションセンターの向かいにあるJAPANFACTORYと呼ばれる別棟にてソニーの最新技術を活用したプロトタイプや研究開発段階のプロジェクト、ソニーのエンタテインメントコンテンツと組み合わせたアトラクション型の展示などを紹介していました。同じ家電とはいえ、もはやパナソニックとは違う道を進み始めたのが現在のソニーではないだろうか。
《ソニー"The WOW Factory"では、エンターテイメント色を強く感じた》
IBMの今年のメッセージは"IBM is Making"
オースティンに研究施設もあるIBMは古くからSXSWに参戦する企業である。"IBM is Making"のメッセージが示すとおり、すべてが試行中、あるいは提案という位置づけのものが多かった。一見すると、くだらないと思えるものも多い。それをSXSWに展示すれば参加者からのフィードバック、共同研究の発生の可能性もあり得る。昔のIBMなら内部で消えていったような研究を、こういうかたちで試行し、オープンにする点がさすがではないだろうか。
《IBM"IBM is Making"を強烈に打ち出す演出が道行く人の目を引いた》
学生が世界に羽ばたく登竜門
"Todai to Texas"は、東京大学の在学生・研究者・卒業生を中心としたプロジェクトチームやスタートアップが、SXSWに参加し、自分たちのプロダクトやサービス、作品を展示するプログラム。夏と秋に本郷キャンパス内にて開催される「デモデー」で各チームがデモ (発表) を行い、選考が行われます。本プロジェクトは、東京大学産学協創推進本部が主催し、学生・社会人有志により構成されるTodai To Texasプロジェクトチームが運営している。
《"Todai to Texas" SXSWのスチューデント部門で見事優勝したBIONIC M》
富士通グループの挑戦
かく言う富士通も実は、SXSWに三年前から挑戦している。はじめは富士通総研の若手コンサルタントたちの挑戦から始まったSXSWの挑戦は、年々規模を拡大してきている。これまでの経緯を簡単に紹介したい。
漢方のデジタル化をテーマに出展したKAMPO ME!(2015年)
北里大学と富士通が文部科学省COIプログラムの一環として取り組んでいる「漢方ICTプロジェクト」が海を超えSXSWでその可能性を試したもの。漢方のデジタル化をテーマに出展した「KAMPO ME!」は「伝統的な日本文化とデジタルの融合」というコンセプトのもと、印章と基盤をモチーフにしたロゴを掲げ、デバイスのプロトタイプ、コンセプトムービーを中心とした展示を行った。
「KAMPO ME!」というフレーズは、漢方を能動的に使える社会の実現を願って、漢方を動詞「Kampo」として用い、「Catch me!」「Take me!」などの気軽に利用できるフレーズにしたいと名づけました。「Balancing My Imbalance」というタグラインには"日常生活のなかで自然にImbalance(未病)に気づき、それを漢方でケアすることで健康を維持するしくみを漢方ICTで提供する"という意味を込めています。
《「KAMPO ME!」写真提供:あしたのコミュニティーラボ》
神戸大学とのアイデアソンから生まれたアイデアを持ち込む(2016年)
富士通でも、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)や神戸大学と共同で開発したプロダクトを出展しました。当時神戸大学大学院修士1年の今村駿太さんは2015年秋の神戸大学が富士通と共同で開催したアイデアソンを組み入れたプログラム参加を皮切りに、神戸ITフェスティバルなどを経て観光向けナビゲーション用スマートフォンアプリ「Kobe Quest」でSXSWに臨みました。
《interactive shoes hubとともに展示されるKobe Quest 写真提供:あしたのコミュニティーラボ》
このプログラムを富士通と共同企画し、SXSWにも学生と共に参加した神戸大学の准教授・藤井信忠さんは、神戸で今年、SXSWの神戸版ともいえるプロジェクトを立ち上げています(078KOBE)。
センサーシューズ"interactive shoes hub"(2017年)
昨年につづき、SXSWでの展示となった"interactive shoes hub"音楽に合わせて踊るフィジカルなデモは観客の関心も高かった。
《センサーシューズを履き音楽に合わせて踊る来場者》
来年はどんなアイデアに出会えるか!?
SXSW2017に先駆け、SXSW ASIA Representative(株式会社ASADA)の主催で、東京都内にあるDMM.make(2015年)、Sony-Creative Lounge(2016年)でミートアップイベントが開催されました。
2017年は、まず富士通の協力のもと、FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(東京・蒲田)でSXSW 2017 新年Meetup & 出展社ショーケース(以下、関東大会)が開催されました。一方、関西でもパナソニック「Wonder LAB Osaka」にてJapan@SXSW Meetup in Kansaiが開催されました。
またアイデアを孵化させるために、高速でフィードバックを集める"場(ba)"としてSXSWにチャレンジすることで自らのアイデアを世に問うチャレンジャーが既に来年のSXSW2018に向けて始動しています。
是非、次はあなたや仲間のアイデアをカタチにして日本から世界へチャレンジしてみてください!
(おわり)