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「平均点主義」の終焉----ニューロダイバーシティが照らし出す、メンバーシップ型雇用の限界と「組織は戦略に従う」への転換

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ニューロダイバーシティの記事として読み流すには、あまりに本質的な内容だった。

電通報のニューロダイバーシティ連載(電通グループのプロジェクト「noiro」)に掲載された、オムロンとSHIFTによる座談会のことである。テーマは発達特性のある人材の採用と活躍支援。しかしそこで語られていたのは、ダイバーシティ施策の各論ではなく、日本型雇用そのものの構造転換だった。

本稿では、この座談会を手がかりに、二つの論点を掘り下げてみたい。一つは「平均点主義」に象徴されるメンバーシップ型雇用の限界。もう一つは、チャンドラーの古典的命題「組織は戦略に従う」への転換である。

参考:電通報「『配慮』から『活躍』へ。IT企業と製造業が挑む、異能を活かす人的資本経営とは」

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■ 「平均的にバランスの取れた人財」という呪縛

座談会の中で、オムロンの宮地功さんはこう語っている。これまでは「平均的にバランスの取れた人財」を求めていたが、得意・不得意を前提にしながらそれぞれの強みを組み合わせていけば、これまで以上の成果につながるという実感が生まれてきている、と。

この「平均的にバランスの取れた人財」という言葉に、日本型雇用の設計思想が凝縮されている。

新卒一括採用で「素質のある人」を職務を特定せずに採用し、ローテーションで幅広く経験させ、どこに配属されても一定の水準で仕事ができる人材を育てる。これがメンバーシップ型雇用の骨格である。この仕組みは、全員が平均点を取れることを前提に、誰でも異動できる柔軟性と、雇用を守る安定性を実現してきた。高度成長期の日本企業の強さの源泉でもあった。

しかしこの構造は、裏返せば「平均点が取れない人」を排除する装置でもある。突出した強みと明確な不得意を併せ持つ人材は、総合評価では平均点に届かない。異能は、構造的に埋もれる。

宮地さんの証言は、その現場を映している。過去には入社時に発達障がいのある方の特性が十分に共有されず、現場でのすれ違いが生じることもあった。受け入れ側も得意・不得意を把握できないまま関わるため、苦手な部分を改善しようとしたり、適さない業務を任せてしまったりして、結果的に双方に負担の大きい状況が生まれていた、と。

これは「配慮が足りなかった」という話ではない。「全員を平均点に近づける」という設計思想そのものが、強みを持つ人材を潰していたのである。

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■ 答えは「配慮の上乗せ」ではなく「ジョブ型への転換」だった

だからこそ興味深いのが、オムロンが2018年から始めた「ニューロダイバーシティ採用」の設計思想だ。

この採用は、障がい者採用の枠ではなく、総合職の中のジョブ型採用として位置づけられている。障がい者手帳の有無は問わない。重視するのは、自身の特性を理解し、必要な環境調整や合理的配慮を言語化できることだという。各部門のニーズに応じて求めるスキルを明確にしたジョブ型の募集を行い、2〜3週間のインターンシップを通じてスキルと職場双方のマッチングを確認したうえで採用に進む。

宮地さんは、従来の障がい者採用との違いをこう説明する。以前の障がい者採用は、あくまで採用プロセス上で合理的配慮を行うための区分であり、入社後の業務や役割は総合職(メンバーシップ型採用のジェネラリスト)と基本的に変わらなかった。一方でジョブ型のニューロダイバーシティ採用は、各部門のニーズに応じて求めるスキルを明確にし、その職務に適した人材を採用するという考え方だ、と。

ここが本質である。異能を活かすための答えが、「メンバーシップ型のまま配慮を上乗せする」ことではなく、「職務を起点にする仕組みへの転換」だったのだ。

職務が明確に定義されれば、必要なスキルも明確になる。必要なスキルが明確になれば、それ以外の「不得意」は評価の対象から外れる。そして本人も受け入れ側も、何を期待し何を期待しないかを共有できる。宮地さんが「あらかじめ特性を理解し、必要な環境調整を行ったうえで業務を設計すると、仕事がスムーズに回り、評価も大きく変わっていく」と語るのは、この構造の帰結だろう。

なお、SHIFTのアプローチは入り口こそ異なるが、行き着く先は同じである。同社は業務を細かく「分解」し「標準化」したうえで、独自の検定によってその素養を持つ人が力を発揮できるようにしている。職務を明確に定義するという点で、両社は同じ地平に立っている。

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■ 日本のジョブ型議論が抱える「OSとアプリ」の問題

ここで、日本におけるジョブ型雇用の議論の現在地にも触れておきたい。

2024年8月、内閣官房・経済産業省・厚生労働省の連名で「ジョブ型人事指針」が公表された。従来の日本の雇用制度では、リスキリングが生きるかどうかは人事異動次第であり、従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくかった----という問題意識のもと、職務に応じたスキルを設定し、従業員が自ら職務やリスキリングを選択していくジョブ型人事への移行が提唱されている。

一方で、この流れは順風満帆ではない。「メンバーシップ型/ジョブ型」という概念の提唱者である濱口桂一郎氏は、日本企業の多くが「メンバーシップ型のOSの上で、ジョブ型のアプリを動かそうとしている」と指摘してきた。新卒一括採用も、定期異動も、雇用保障の慣行も残したまま、職務等級だけを導入する。当然ながら、それでは制度が本来意図した効果は出ない。実際、ジョブ型雇用に対する働き手の支持率は近年低下傾向にあるとの調査もある。

この文脈に置くと、オムロンやSHIFTの取り組みの意味がより鮮明になる。彼らがやっているのは、全社を一気にジョブ型に切り替えることではない。特定の入り口と特定の職務領域から、職務起点の設計を実装し、そこで得た知見を全社に広げようとしている。OS全体の入れ替えが困難ななかで、動く部分から動かしていくという現実的なアプローチだ。

そして重要なのは、その動かし方が「多様な人材を活かす」という切実な必要性から生まれている点である。制度を入れることが目的化した改革は形骸化するが、目の前の人材の力を引き出すという目的から出発した改革は、必然性を持って根づいていく。

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■ そして、「組織は戦略に従う」へ

座談会でもう一つ、深く刺さった発言がある。宮地さんの次の言葉だ。

このテーマは人事部門だけで完結するものではなく、事業そのもののあり方と密接に関わるものだと思う。事業が変われば求められる人材や役割も変わり、それに応じて評価や処遇も変わっていく。そうした前提で捉えていく必要があるのではないか----。

これは、経営史家アルフレッド・チャンドラーが1962年の著書『Strategy and Structure』で提示した「組織は戦略に従う(Structure follows strategy)」という命題そのものである。

日本企業の多くは、長らく逆の順序で動いてきた。まず人がいて、その人たちで回せるように組織と仕事を作る。人事異動は玉突きで決まり、ポジションは人に合わせて作られ、時に「人に付けるポスト」が生まれる。これは「組織が人に従う」構造だ。メンバーシップ型雇用が前提である以上、これは必然でもあった。人を辞めさせられない以上、人を起点に組織を組むしかないからである。

しかし、事業環境が激変し、求められる能力が数年で入れ替わる時代に、この順序では追いつかない。まず戦略があり、戦略を実現する組織があり、組織に必要な職務があり、職務に最適な人材を配置し、その人が力を発揮できるよう環境を設計する。この順序への転換ができるかどうか。

宮地さんが「日本の製造業は今、大量生産で利益を出す時代から、新しい価値やイノベーションを生み出す方向へとシフトしており、多様性を前提とした組織が必要になっている」と語るのは、まさに戦略の変化が組織の変化を要請しているという話にほかならない。これまでのように「全員が同じことをできるようにする」発想ではなく、それぞれのスキルや特性を前提に適切に組み合わせる----戦略が変われば、求める人材像も、組織の組み方も変わるのである。

そして宮地さんは、人事部門の役割の変化にまで言及する。必要な人材を見極め、適切に配置し育てていくという人的投資は、本来は事業そのものであり、より現場に近いところで担われるべきものだ、と。人事が事業から独立した管理機能である限り、「組織は戦略に従う」は実現しない。人事が事業戦略の実行主体になって初めて、この順序は成立する。

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■ 人件費を「投資」として測る指標

戦略から組織へ、組織から職務へ、職務から人へ。この連鎖を成立させるには、投資の効果を測る仕組みも要る。

オムロンは「人的創造性」という指標を掲げ、売上から変動費を差し引いた付加価値額を人件費で割る形で人の価値を可視化し、非財務情報として開示している。宮地さんはこう説明する。計算式だけを見ると人件費を抑えれば数値が上がるようにも見えるが、本質はそこではない。人件費を投資として捉え、その投資に対してどれだけ価値を生み出せるかを見るための指標であり、人への投資を増やしながら、それ以上に成果を生み出すことを重視している、と。

私はかねて「報酬はコストではなく未来への投資である」と書いてきたが、それを企業全体の指標として実装し、外部に開示している点で、オムロンの取り組みは一歩先を行っている。戦略・組織・職務・人材・投資効果が、一本の線でつながっているのだ。

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■ これは「特別な施策」ではない

SHIFTの北川愛さんの言葉が印象的だった。個を活かすという視点で見れば、ニューロダイバーシティは特別な施策ではない。むしろ、これからの時代においてはより自然な考え方になっていくはずだ、と。

私はこれまで、人材マネジメントが「ジョブベース → スキルベース → パーソナリティベース」へと進化していくと書いてきた。AIがスキルを代替し、拡張する時代に、人材の価値は「何ができるか」から「どんな人か」----その人固有の特性が、どんな環境でどう発揮されるか----へと移っていく。同じスキルを持つ二人が、環境によってまったく違う成果を出す。その差を生むのがパーソナリティであり、環境との適合である。

オムロンとSHIFTが実践しているのは、まさにこの思想だ。平均点主義を脱し、戦略起点で職務と環境を設計し、そこに固有の強みを持つ人を配置する。ニューロダイバーシティは特別な取り組みではなく、これからの人材マネジメントの本流を、最も先鋭的な形で先取りしているのだと思う。

座談会では、AIとの関係にも触れられていた。北川さんは「役割が変わり続けること自体を前提にできるかどうか」が重要だと語り、AIが業務の分配や評価、適材適所の配置をこれまで以上の精度で実現しうると指摘する。一方でSHIFTの大泉将さんは、AIの進展によって切り出してきた業務そのものが変化・消滅する懸念にも言及し、だからこそAIを使う側として新たな業務を生み出し、仕事の形を変えていく必要があり、それに伴って評価のあり方も見直す必要がある、と述べている。

これは、ニューロダイバーシティに限った話ではない。AIが仕事の中身を変え続ける時代に、あらゆる人材マネジメントが直面する論点である。

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■ おわりに----登山口は違っても、頂上は同じ

座談会のモデレーターを務めた北本英光さん(電通)の締めくくりが見事だった。IT企業として急成長したSHIFTの「仕組み化により、仕事に適性のある人を探して伸ばす」アプローチと、歴史ある製造業であるオムロンの「能力発揮を前提として業務を設計する」アプローチ。業種も歴史も順番も異なるが、最終的に目指す方向は共通している。両社とも「人を変える」のではなく、「仕事や環境の設計を変える」ことに取り組んでいる。登山口は違うけれど、目指す頂上は同じだ、と。

私たちが向き合うべき問いは、おそらくこうだ。

自社は今も「平均点の取れる人材」を求めていないか。組織は人に従っていないか、それとも戦略に従っているか。そして人事は、事業から独立した管理機能にとどまっていないか。

ニューロダイバーシティという入り口から見えてきたのは、日本企業が長く抱えてきた構造の問題であり、その転換の可能性だった。異能を活かせない組織は、おそらくこれからの時代、平均的な人材からも十分な力を引き出せない。個を活かす設計は、一部の人のためではなく、すべての人のためにあるのだと思う。

参考リンク
電通報「『配慮』から『活躍』へ。IT企業と製造業が挑む、異能を活かす人的資本経営とは」
電通報「SHIFTとオムロンは『未経験の異能』をどう見極めるか。『個』を活かすための環境設計」

マーサージャパン「データでみるジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用 賃金・給与の違い」

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