オルタナティブ・ブログ > 野石龍平の人事/ITコンサル徒然日記 >

人事領域(上流/elearing/ERP)コンサルでの人材開発/人事の一歩先の動向を考えます!

日本人の給与について考える 【対策編】

»

以前に日本人の給与がなぜ上がらないのか、その原因編を書いた。その続きを書こうと思っていたのだがなかなか手を出せずにいた。

そんな中で賃上げ局面がついに訪れたと感じるので、重い腰を上げて、日本人の給与【対策編】を書いてみることにする。

海外からみて日本人の給与は今どうみられてるのだろうか。日本の報道よりも客観性が出ているので拾ってみることにした。

いま賃上げ局面である根拠(最新データ)
・春闘の最終集計:2025年の賃上げは平均5.25%、34年ぶり高水準(連合最終、主要紙報道)

https://www.reuters.com/business/world-at-work/japanese-firms-agree-biggest-pay-hikes-34-years-top-union-groups-final-tally-2025-07-03

・実質賃金:2025年7月に前年比+0.5%と7カ月ぶりプラス、名目は+4.1%(毎月勤労統計)

・ベース給(所定内給与):2025年7月は前年比+2.5%と加速基調(同上)

https://www.reuters.com/business/world-at-work/japan-july-real-wages-turn-positive-first-time-7-months-2025-09-04

・最低賃金:2025年度は全国平均1,118〜1,121円へ過去最大級引上げ、47都道府県で1,000円超

・日銀展望:労働力逼迫を背景に名目賃金の伸びは再加速見通し(2025年7月展望レポート)

https://www.boj.or.jp/en/mopo/outlook/gor2507a.pdf

日本語だとどうだろうか。みてみよう。

・令和7年春季生活闘争での賃上げ率は加重平均で5.25%。34年ぶりの高水準。 出典:連合「2025年春季労使交渉・最終集計」


・厚生労働省の毎月勤労統計によれば、2025年7月の実質賃金は前年同月比で0.5%増。7カ月ぶりのプラスとなり、基本給を含む所定内給与の伸びも名目で過去数十年で強いもの。

・民間主要企業の春季賃上げ妥結額は18,629円、賃上げ率は5.52%と前年を上回る結果。

総括:
[春闘 5.25%↑] → [実質賃金 +0.5%] → [所定内給与 名目伸びが強い] → [最低賃金上昇の圧力] → [賃上げ持続見通しあり]

ではどう日本人の給与を上げていくのか、ポイントに分けてみていくことにする。

①ジョブ型人事の導入・スキルベースへの深化
・職務記述書で責任・スキル・成果を明確化し、職務価値に基づく報酬体系へ。
・等級制度を在籍年数中心から職務・スキル・市場価値中心へシフト。

② 報酬レンジの再設計
・ミッドレンジ(市場50パーセンタイル)を基準に、Min-Maxの範囲を市場データで設定。
・特にデジタル/AI系職種でのレンジ更新頻度を年間で見直し。

③ ベース+変動のミックス最適化
・固定給(ベース)をしっかり底上げしつつ、事業KPI連動の変動報酬を強化。
・長期インセンティブの検討、公正かつ成果に基づく運用設計を。

④ スキルベース賃金体系の導入
・特定スキル(AI・データ解析・ITセキュリティ等)の認定制度を構築。
・スキル取得 → 現場適用 → 評価 → 報酬反映のサイクルを設計。

⑤ 総報酬の拡充
・給与・賞与だけでなく、学習支援、柔軟勤務、健康・ケア支援などをパッケージに含めて魅力を増す。
・従業員のライフステージや職能属性に応じた報酬設計。

⑥ 透明性と説明責任の強化
・レンジ・昇給決定基準・評価プロセスなどを公開し、納得性を確保する。
・報酬上昇原資や配分方針を社内外に説明。

賃上げ設計の骨子
市場価格 × 職務価値 × 社内公平性
= ベースレンジ(Min-Mid-Max)+変動報酬
= 総報酬パッケージ(現金+福利+成長機会)

運用原則:年次見直し/セグメント別設計/透明性重視

実装ロードマップ(6〜12か月)
Phase 1(0-2か月):現状診断
・職種別現行レンジ・マーケットポジション・公平性を可視化
・採用オファーの辞退理由・離職データの分析

Phase 2(2-5か月):設計フェーズ
・ジョブアーキテクチャ構築、レンジ設計
・変動報酬要素・スキル認定制度案の設計

Phase 3(5-8か月):試行と運用設計
・優先職種でパイロット実施
・評価・報酬・学習の統合運用に慣れる

Phase 4(8-12か月):全社展開と開示
・年度改定に組み入れ、従業員・応募候補者向けに報酬設計を広報
・人的資本の開示指標(賃上げ率・レンジ・スキル報酬・離職率など)に反映

結論
いま日本企業が直面しているのは「一時的な賃上げ」ではなく、「持続可能な給与体系への構造転換」です。ジョブ型人事や報酬レンジ設計を梃子に、総報酬パッケージを戦略的に構築することが、採用力・定着力・企業競争力の核心になる。給与はコストではなく未来への投資──その視点を持てるかが勝敗を分ける。

そして日本人の給与が30数年ぶりに本格的に上がり始めた今、これは単なる数字の変化ではなく、働く人が安心して暮らし、未来に向けて学びや挑戦を重ねられる久々の好機であり、その喜びを次の世代につなぐ責任の時期でもある。

Comment(0)