ITIL v2 Manager 採点官の立場から・その1
私は、ITサービスマネジメントのベストプラクティス(といってもピンとこない方には、IT導入・運用のための教科書的な存在、という言い方をしています)である ITIL Version 2 の、ITIL Manager という資格試験の採点官をしています。この試験は論述形式で、3時間かけて一生懸命文章を書いていただき、それを採点官がこれまた一生懸命読んで採点する、というスタイルをとっています。
現在は、過去に一度でも受けたことのある方向けの再試験のみが残されています。その再試験も、6月30日で受けられなくなります(ITIL v3 に完全に移行します)から、私の仕事もあとわずかです。
しかし、この試験、とっても合格率が低いんです。だいたい、10% ~ 20% ぐらい。逆にいうと、合格している人はそれなりのスキルをちゃんと持っている人だ、と言えるわけですね。
では、ITIL Manager 試験に合格する人は、そもそもどのようなスキルを持っているから、この試験に合格しているのでしょうか。逆にいうと、これからの IT サービスマネージャには、どのようなスキルが必要だとされているのでしょうか。これから、何回かに分けてお話をしていきたいと考えています。
今回、真っ先に言いたいことはですね。
ITサービスマネージャに必要不可欠な能力、それは「問題を正しく認識する能力」です。
試験に合格している人は、この「問題を正しく認識する能力」が備わっていると言えます。
これには、ふたつの意味が含まれます。
ひとつは、現在のIT組織に関して、あるいは運用の方法に関して、何が問題なのか?ということを正しく認識する能力だ、といえます。例えば「ノウハウが蓄積されていない」ということが表面上の問題として見えたとします。この表面上の問題をそのまま鵜呑みにして、「じゃぁそれを解決するために、ノウハウを蓄積するためのツールを導入しましょう」という結論を見出すのでは、デキるITサービスマネージャとは言えませんし、試験でも点が取れません。ここでは、「なぜノウハウが蓄積されないのか?」ということを深く考察する必要があります。そもそも従業員にノウハウを蓄積する文化がないのかもしれないし、場当たり的・属人的な対応が当たり前だと思っているのかもしれない。IT機器の入れ替えが激しすぎて、ノウハウを溜めるに溜められないのかもしれない。現場の人間が、ノウハウを共有することで自分の仕事がなくなるのではないか、価値が下がるのではないか、と危惧しているのかもしれない。もちろん、ツールが存在しないというのが本質的な問題なのかもしれない。そういった「問題の本質」を見極める力を持ってこそ、優れたITサービスマネージャであると言えるでしょう(実際、試験もそのように作られています)。
もうひとつは、「問題文をちゃんと読む能力」という意味です。意外ですか?でも、実際に問題文をちゃんと読んでいなくて点に繋がらない人がたくさんいらっしゃるのです。典型的なのが、「この組織における課題を述べよ」という問題文に対して、解決策を書いちゃっているというパターン。もうひとつが、「この組織にITILを導入するにあたっての課題を述べよ」という問題文に関して、ITILを導入することで解決できるであろう組織上の課題を書いちゃっているというパターンです(注:上記の問題文は、本試験問題そのままではありません。念のため)。これでは正直申し上げて、0点です。採点官はそれでも、少しでも加点できるところはないか、一生懸命解答を読んで加点できそうな部分を探すんですけどね。
問題文をちゃんと読める人ってのは、言い換えれば部下の報告書がちゃんと読める人、ドキュメントに潜んでいる潜在的な問題点を見つけ出せる人、でもあります。ITIL Manager の試験問題には、決して「ひっかけ」はありません。それでも出題の意図を間違えるってことは、普段からドキュメントをきちんと読む癖がついてないのではないか?とも考えられるわけです。
タイムリミットまで、あと3か月。ITIL Manager 試験にチャレンジしている人は、これを参考にして戴ければ幸いです。また、ITIL Manager 試験に合格した人は、これらの能力を持っている人である、と言って過言ではありません。