後輩を指導することは、「おまけ」の仕事なのか。
OJTトレーナーの方の中には、「新人のOJTをするなんて、仕事が増えるばかりだ」「新人の面倒をみなきゃいけないし」と、自分の業務にアドオンされた「おまけ」の仕事と捉える方がいます。
企業のOJT制度(OJTトレーナーを1対1で新人につけ、1-3年くらいの一定期間、OJTによって若手を立ち上げていく制度)が2000年代から隆盛になってきていますが、これ、もともとは、「新入社員がなかなか育たない」という悩みを解決する施策でした。
しかし、しかーし、実際にふたを開けてみると、「新人以上にOJTトレーナーの成長著しい」という声が管理職から、経営者から、あるいは、OJTトレーナー自身の口から聞こえてくるようになります。
子育てすると、親も成長することが多いとは昔からよく言われますけれども、OJTもそれと同じで、人を育てるプロセスで、自分自身の学びの棚卸とかストレス耐性の強化とか人を巻き込むリーダーシップ力の醸成など、数えきれないほどの成果があるのがOJTなのです。
だとするならば。
OJT制度は、「新人を育てる制度なんですよねー」という位置づけにとどめる必要はなく、「OJTトレーナー側の成長支援、特に、"リーダーシップ開発"のよい経験になるんですよねー」という意味も持たせて制度設計をし、運営していくことが大事じゃないかと思います。(だから人事部も「OJTトレーナー説明会」とか「OJTトレーナー研修」を開催する際、参加者に「お忙しいのに新人指導のために集まっていただいて申し訳ありませんねぇ、できるだけ手短に済ませますんで、ぜひ、前向きに参加してもらえると嬉しいんですよね」という及び腰なメッセージを出すのではなく、「これは、皆さん自身にとっても、とてもよい経験をする機会です。そのための説明会や研修です。自分の能力アップのために、積極的にご参加ください」と伝えることも重要です)
後輩を指導することは、「おまけ」の仕事なのではなく、自分の能力開発を促進するためにとても重要な意味を持つ実務体験です。
現代は、「誰もがリーダーシップを発揮すること」が求められる時代です。
リーダーだけがリーダーシップを発揮するのではなく、新入社員でも入社3年目でも、自分の仕事を進めるために、自分が目指すことを実現するために、誰かに影響力を発揮しながら、周りを巻き込みながら、周りに協力を仰ぎながら、仕事を進めていくことが重要になっています。
そういうリーダーシップを開発するために、まずは、たった一人の新入社員の成長を支援する。これは、新人のためでもあるけれど、自分自身の成長にすごく意味のある経験です。
誰かを育てているようでいて、結果的には、その経験を通じて、自分が育てられてしまう、というのは、子育てもOJTも同じなんですよね。
人を育てる行為は、ブーメランのように自分に戻ってくる、のです。
「オレ(わたし)、ずーっとメンバとしてやっていけばいいし、指示された仕事を着実にこなしていくというのが好きだから、リーダーシップなんて無関係だもんね」と思っているそこのあなた。
リーダーシップを発揮しなくて済む仕事は、そのうち、機械やITにとってかわられますよ。
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【リーダーシップ関連の本】どちらもお薦めです。
金井壽宏先生は、理論と実務経験の両方から、「リーダーシップ持論を作りましょう」といつもおっしゃっていて、それは非常に納得感の高いメッセージだと思っています。
理屈だけでもダメだし、経験だけでも弱いし。理屈、理論をベースに、そのうえで、「私の経験から言うとこうなんだよね」と自分なりの「リーダーシップ持論」を持つ。もちろん、一度考えたらそれで終わりではなく、ことあるごとに見直して、時代の変化にも合わせて改良を重ねることも大事でしょう。