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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

新入社員研修の風景⑤:厳しくすればいいと思っていませんか?

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よくこういう相談を受けます。

「厳しくお願いします」
「ビシバシとお願いします」
「最初が肝心なので、どんどん怒ってもらって構いません」
「ガツンと言ってください」
「頭はたくくらい、やってください」

・・・・・

ええと、ええと。

こういう相談して来られる場合、この方の頭の中には、「新入社員はマナーも何もかもなっとらん。学生気分も抜けておらん。社会人としてしっかりさせるためには、根性をたたき直す必要がある。優しく言っても伝わらない。がつんと厳しく、大きな声で、怖い顔して言わねばならぬ。そうじゃなければ新人には分からないし、新人は変わらない」といった信念があると思われます。

いやぁー、怖い、怖い。

もし、私だったら。
初めて会った講師に突然「全否定」されたり、「怒鳴られた」り、「頭ごなしに叱られた」りしたら、と思うとぞっとします。

自分が怖いと思うことはしたくない。

厳しくすれば新入社員の行動が変わると思うかもしれませんが、それは、恐怖によって支配している、恐怖によって行動を押さえつけているだけであって、心の底から納得してるわけじゃないと思うのですよね。

あ、もちろん、自衛隊のように命がけになりそうな危険なことをするような仕事の場合は、怒鳴る、怒る、厳しく言う・・は大事な側面も多々あると思います。身体が反応するまで訓練しておかないと究極の場面で、動けないという面もあるでしょう。

しかし、会社員。そんなに厳しく言ってどうする?

怒鳴らなくても大丈夫。
怖い顔しなくても大丈夫。

「厳しさ」というのは、怒鳴ることでもキツイ言葉で言い募ることでも怖い顔でにらみつけることでも、声を荒げて言うことでも、嫌味な言葉をたくさん並べることでもなく、中身なんです。

中身としての「厳しさ」。それさえあれば十分です。

怒鳴られて覚えたことは、中身とか理由とか理屈じゃなくて、「怖いからやらない」とか「怖いからやる」となってしまう。
そういうの、逆に「怖くなければやらない」ということも考えられる。

それよりも、中身を腹の底から理解させる。「そうする必要性がある」「それはしてはいけない理由がある」
ここが分かれば、新入社員の行動はたいていの場合、変化します。(たいていの場合、というのは、ほんの少しだけ、「箸にも棒にもかからない」タイプがいるからです。笑)


社会心理学では、「説得者の特徴」が紹介されています。

1.統制力

2.魅力

3.信憑性

1.統制力、というのは、力によって相手を動かすことです。 「上司に言われたんだから仕方ねぇーな」とか社会的パワーも含めて、力が説得力に影響するもの。

2.魅力は、被説得者側が説得者に対して「魅力」を感じるというもの。 「この人に好かれたい、この人が好きだから、動く」といった影響力がある。TVCMなんかこの機能を使っているように思います。

3.信憑性は、専門性と信頼性の2つで評価されます。専門的であること、人として信頼できること、といったことですね。

「統制力」による説得効果は、その人との関係が変化してしまうと消滅しやすいものです。 「言われたからやっていただけ」「あの人が自分に対してパワーがあったから行動を変えていただけ」となりがち。同じく、「魅力」も。

「信憑性」は、中身に対して反応するので、相手との関係にはかかわらず、説得効果が被説得者の価値体系に組み込まれて、説得効果が長続きする。

・・・というわけで、新入社員には、「信憑性」で迫ったほうがよいのですよね。

いや、新入社員だけではなく、上司が部下に接する時もお客様に何かを販売する時も。

人は、力によっても動くかもしれないけれど、それは一過性。心の底からしたがっているわけではないという場合がほとんどだと思います。

言葉や態度で厳しくすればいいってもんじゃないんですよね。

ニコニコしながら、中身だけキビシイことを言う、というのが大事なポイントだといつも思っています。

よくある「地獄の特訓」系も、「全員でツラい想いをして最後は泣く」系も、「講師に罵倒され、何度もやり直させられるビジネスマナー」系も全部、私のスタンスではないです。
そんな研修、私が受けたら、まっさきにその場から逃走してしまいます^^; 

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対人力についてはこちらの本に詳しいです。(笑

教える力についておススメなのは、コチラです。

どちらの本もたくさんのエンジニアの実体験、実話がモチーフになっています。現場の実践例満載です。

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