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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

『宇宙に挑むJAXAの仕事術』を読んだ!

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この本は、JAXAがどのようにプロジェクトを遂行しているか、どのように人材を育成しているか、どうやってチームビルディングしているか、ということがいろいろな角度から書かれている。

考えてみれば、ISS(国際宇宙ステーション)は、現在宇宙にあるわけである。

地上で「きぼう」を開発していたのを知っている世代にとっては、今は宇宙にある「きぼう」がどういう状態のものだったか、実物を見て、記憶にも残っており、今宇宙にあるからといって想像はつくのだが、そうじゃない世代がどんどん増えてくると、「きぼう」を見たことがない人が、地上から遠く離れた宇宙にある「きぼう」をイメージしながら仕事をすることになる。

しかも、「やっぱり、ちょっくら行ってきます。直接話したほうが早いんで」とか「現地に行ってちゃちゃちゃっと直してきたほうがきれいに直せますし」なんてことが絶対にできないほどの遠隔地なのだ。

ITのプロジェクトでも、遠隔地で監視とかメンバ同士が物理的に離れていて、ということは多々あるだろうけれど、そういう距離の比じゃない。

見たことなければ、触ることもできない。そんな中で、宇宙飛行士とコミュニケーション取りながら、何か指示したり、宇宙飛行士からの要望に応えたりしていく必要がある。


「きぼう」を見たことも触ったことも(地上にいたときでも触れないだろうけれど)ない世代がほとんどになっても、それでも、互いの技術力やコミュニケーション能力やチームの力を高めつつ、支援していくというのは、私にはもう想像を超えてしまう。

問題が発生したら、いち早く、安全に解決しなければならないし、「解決策」を地上で考えたとしても、実際に手を動かす人は宇宙にいる、というこれまた厄介な状況で、誰もがミスなく粛々とコトを進めなければならないという緊迫感にも包まれているのだから、何度もすごいことだ。

そんな宇宙開発とITの開発とでは規模もスタイルも違う、と言ってしまえばそれまでなんだが、どの世界の仕事にも学ぶことはある。

へぇ、ほぉ、と思うことも多々あった。

P.54-55には、「きぼう」のプロジェクトマネージャだった今川吉郎氏(この本は今川さんから頂戴した)の「人を育てるヒント」が載っている。これはどのプロジェクトでも組織でも当てはまるものだと思う。

①非常に難しい仕事は手とり足とり教え、少しむずかしいことは一人で考えさせて、自主性・主体性を養う

②仕事は背中を見せて教え、勘所や洞察力を身につけさせる

③理事長の立場(一段以上高い視点)で発想させ、大所高所から判断させる

④一人ひとりがいま何を求められているかを考え行動させる

⑤謎をかけて常識の後ろにあるものを考えさえる

⑥正しい日本語を使わなければ、話の内容も疑われると教える

⑦適度に笑いを提供し、緊張を解く

⑧褒めて育て、がみがみ言わない

⑨最後は責任をとってもらえるという安心感を与える

⑩先輩同士の会話をわざと聞かせて、発想のヒントや情報収集の原点を教える

⑪ものづくりでは実際にものに触らせる

⑫同じ勘違いを繰り返させないためには反省文を書かせる

⑬言いっぱなしにさせず、紙に書いて具現化させる

⑭管理職は部下と一緒に育つ

⑮自信と意欲を土台に、覇気を持ち、ひたむきさを失わず、熱を込めて語らせる

⑯上司であれ、部下であれ、男性であれ、女性であれ、JAXAであれ、メーカーであれ、決して驕らず、誰とも対等に教える。実るほど頭を垂れる稲穂たれ。

⑨の「安心感」。空中ブランコの下にセイフティネットがあることであんなアクロバティックなことができるわけで、あのセイフティネットは、上司や先輩やPMが持っていないと、ってことかなぁと理解した。

⑭管理職も育つ。これ、ホントにそう!。部下を持つことで育つのは、部下だけじゃなくて、というか、部下以上に管理職の方だ。人の面倒を見ることで、一皮むけるというのは、誰もが経験しているはず。

⑩の「会話を耳に入れさせる」。まさに「門前の小僧」の話。 これについては、現代の職場では、相当意識して実践しないと、放っておいても門前の小僧にはお経が聞こえてこない。だから、どうするかは、上司やPMが考えないといけないのだ。


・・・と、こんな風に仕事術や人材育成のヒントがそこかしこにちりばめられているこの本、おすすめです。

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【JAXAの仕事、JAXAの人ってこんな仕事をしているんだぁ、という視点で読んでも非常に面白い!】

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