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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

「研修中」バッヂをつけて接客してもええやないか。

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もうずいぶん前のこと。10年、いや、それ以上前のような気がする。

お客様先で担当者(アラサー)と私の2人での打ち合わせが終わったところで部長と落ち合い、3人でオフィス近くのお店に移動することとなった。部長から前もって「会食を」と誘われていたのだ。

1時間後、部長は、担当者が全員分を支払うと考えていたらしいのだが、担当者は、手ぶらで来ていた。

支払の段になってそれが分かり、部長がレジまで行って3人分支払ってくださった。(もちろん、私も、財布を出したが、「今日はいいですよ」と言われ、「ごちそうになります。ありがとうございます」と礼を述べた)

再びオフィスに3人で戻る際のことである。

部長が私に対して、「田中さん、田中さんの前で悪いんだけど、まあ、いいよね。長い付き合いだし」といってニコっと微笑んだ後、担当者に向き直って、こうおっしゃったのだ。

「●●くん、キミねぇ、田中さんと会食するって前からわかっていたわけなんだから、キミが全員分をささっと支払うものでしょう?この場合。手ぶらで来るなんてないよね。こういう場合は、下の人間が、ゲストに気づかれないように、食事が終わるちょっと前に支払を済ませておくようにするもんなんだよ。そういうこと、ちゃんと考えて行動しなさいね」

多少厳しい顔をしながら、少し微笑みながら。

私は、この2人の会話を2-3歩後ろからついていきつつ、なんとなく聴いていた。

いいなぁ、この部長。ちゃんと指導している。
会食での振る舞い方、お金の支払方、他社のもてなし方、そういったことを、きちんとその場で教えているのだ。

簡単なようでいて、なかなかできることではない。

「このやろう、まったくもおーー」と思っても、その場には客もいるし、口を閉ざす人もいるだろう。
後で言おう、指摘しようと考えていると、どのタイミングで言えばよいか、わからなくなる。
オフィスに戻って、「さっきの支払いの件だけど」と持ち出すことが出来ない場合もある。
部外者がいようが、その場で堂々と指摘し、部下の指導をしてしまうというのは、なかなかできることではない。

この部長は、間もなく定年というお歳だった。だから、自分がいる間には、後進を育てておこうと強く固く思っていらしたのかもしれない。

あれから10年、15年・・とにかく、時代が変わった。

上司は、部下をこんな風に説教しなくなった。(今でも説教しているという人もいると思うが、以前ほどではないだろう。)

「パワハラと言われちゃうから、人前で説教なんて」とこの例を聴いて、思った方もおいでだろう。


「田中さんとは長い付き合いだから、この場で言うね」と断った部長は、「通常は、社外の人の前でお説教や指導というのは好ましくないが、今は、よいだろう」と判断されたのだと思う。

私はその場面を目撃し、「非常にいい指導だなぁ」と思った。決して、嫌な感じはしなかった。

その場で、誰かがいようと、堂々と指導してしまうのも、時にはアリなのではないか。


さて、


研修中バッヂをつけた人に接客させるのはけしからん」というコラムが先日公開されていたが、私は、そんなことないと思っている。

新人と分かる、研修中と分かるというのは、いいことである面も多いのではないだろうか。

●客側のメリット

・多少対応が遅かったり、上手ではなかったりしても、「見習い」か、よしよし、と許容できる
・こうして、人が育っていくんだなぁという成長の場面に立ち会える(こういうことに興味あるのは、私の職業病かも、ですが)
・その場で先輩や上司が「見習い」バッヂの人に教えていても、「修行中なんだもんな」と見守れる


もし、これが「研修中」「見習い」と分からない場合、どうなるか。

・「この人、なんてどんくさいの!」と客が思うかもしれない
・「この会社、このレベルなの?」と不審に思うかもしれない


「見習い」「研修中」・・・分かった方がいいんじゃないか?



誰にだって「新人時代」はある。「新人時代」がなかった、と言う人は皆無だろう。

「新人時代」というのは、誰かに支えてもらわねばならない時代でもある。

「上司や先輩」という直接の関係者だけではなく、「顧客」や「その他利害関係者」という幅広い、間接的な関係者も「誰か」に含まれる。

指導する人、教える人、育てる人と、その場面に立ち会う人、見守る人、許す人・・・がいてこその人材育成だと思う。


社会は、人が動かしている。大勢がいろいろな役割を果たすことで、なんとかちゃんと動いている。その動かす人には、必ず「新人時代」がある。ということは自社だろうが他社だろうが、人が育つ、ということは、間接的に自分の仕事や生活にも関係してくることだ。

新人より先行く人にできることは、直接、誰かを教え育てること以外に、「誰かが育つ場面に立ち会う」「成長しようとしている人の多少の失敗は許容する」といったことじゃないだろうか。

・・・というわけで、「研修バッヂをつけている人、全然OK!」と反論してみた。

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