オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

配属された新入社員を「コーチ」するのか「ホーチ」するのか。

»

「俺、新人のころって、コーチングじゃなくて、ホーチングだったからなぁ」
「そうそう、誰も構ってくれなくて、ホーチングされっぱなしだったよね」
「でも、なんとかここまで自力で這い上がって」
「勉強するしかないから、勉強したよな」
「そうだったよなあ、ホーチングが人を育てたよなぁ」

・・・・・・

遠い目をしながら、そして、昭和を懐かしむように「ノスタルジー的想い出」に浸るという世代が少なからずいます。

うん、私もたぶんにその世代です。世代ですが、ノスタルジーには浸りません。

だって、別に勝手に育ったわけじゃないから。自分で自力で這い上がった部分はあるかもしれないけれど、現代よりもホーチング度合いは高かったし、誰も「コーチング」なんて知らないから、「質問」よりは「指示命令」、「承認」よりは「改善指導と説教」が多かったけれど、それでも、やはり、一人で勝手に育ったわけではないと思うからです。

昭和は、確かに「OJT」というのは、「名ばかりOJTだった」部分があったと思います。(私が入社したDECという外資系企業は、配属されるとブラザーとかシスターがついて、一定期間(3-4か月だったか)、かなりきめ細かく指導をしてくださいましたので、完全ホーチ(放置)ではなかった)

たいていの企業では、「配属したら、あとは背中から学べ」とか「とにかく現場行って来い」とか「仕事は自分で覚えろ」とかまあそんなこと言ってて、それに着いていった人が成長し、現在、4-50代となってそれなりのポジションにいるわけですね。

とはいえ、そのホーチングは、誰も何もしてくれなかったかというと、ちょっと違うんじゃないかと思います。

常々、口を酸っぱくして、耳がタコになるように、いや、耳にタコができるように繰り返して述べていることですが、
「人は、有形な支援だけではなく、無形の支援を受けて成長している」
ことを忘れてはいけません。

「無形支援」とは、「黙って見逃す」「なんとなく見守る」「大目に見る」「笑い飛ばす」「気にしない」など、「特に、何を指導してくれるわけでも助けてくれるわけでもないけれど、成長する"邪魔"をしない」というようなことを指しています。

昭和と今の大きな違いは、この「無形支援」の重みの変化です。

数年前、DEC時代の同期と25年ぶりくらいに飲み会を開いた時、営業だった男性が、「俺さぁ、展示会で使ったコンピュータ(VAXだったと思う)を台車で運んでいたら、途中縁石で台車が傾いて、マシン落としてさあ、まだ日本に1台か2台かってもので、●千万(億、と言っていたかも)円のマシン、一瞬で壊して・・・。真っ青になったら、上司が"展示会後でよかったな"と言っただけだったんだよな」なんて話をしてて、爆笑したことがあります。

バブル前とはいえ、30年前とはいえ、凄い。いや、皆頭おかしかったから、こういうことが許されたのかもしれないけれど。

この出来事に象徴されるように、まだまだのどかだった昭和では、「格別、手塩にかけて育てる」「きめ細かく教え導く」ことはなかったかもしれないけれど、何かあってもなんとかしてもらえた、許してもらえたってことがあるのではないかと思うのです。

今は、新人といえども、何かすると、へたすればそのニュースが世界を駆け巡りますし、コンプライアンスだの個人情報だのなんとかかんとか・・・といろいろ配慮すべきこともあって、新入社員は、有形支援をしない限り、簡単には育たない環境になってしまったのです。

これまた何度も書いたり言ったりしていますが、それを「ゆとり世代だから、育たないんだな」という言うのも好きではありません。

学校の教育より、働く私たちを取り巻く環境の大きな変化が、新卒で採用した若手の成長を阻害する要因として作用している点のほうがうんと大きいのです。

・・・というわけで、各社は2000年ごろから「OJT制度」という、人事制度の一環、あるいは、人材開発制度の一つとして、若手に対して一定期間、指導担当者をアサインする取り組みに着手し始めます。

制度化したOJTは、一定の成果を見ますが、一方で、「OJTトレーナー」をアサインすることで弊害も生じます。
私は、2003年から各企業のOJT制度の立ち上げやOJTトレーナーの支援、はたまた、人材開発担当者の皆様へのサポートなどをしてきていますが、現場の課題には以下のようなものがあります。

●OJTトレーナーがきちんと育てられていないから、育て方のノウハウを持っていない。(人は自分が育てられたように他者を育てる傾向があります)
●OJTトレーナーをアサインすると、周囲の社員がOJTに無関心になり、サポートしないため、OJTトレーナーとトレーニーが孤立する(「核家族の子育て」化とか、「全員の無関心」現象と、私は名付けております)
●トレーニーにも様々な人がいるので、OJTトレーナーが扱いや接し方に苦慮して、メンタル的に参ってしまう
●上司が育成の本当の責任者なのに、上司も「君がOJTトレーナーなんだからしっかりしたまえ」的な振る舞いをする(上司をいかに利害関係者にしていくか問題)


悩みや課題はあれど、一旦OJTトレーナーを経験した人は、口をそろえて、こうも言います。

●自分のためにやってよかった。間違って覚えていたことに気づけたから学び直しができた(Unlearn→Relearnが発生するわけですね)
●新人を見ていたら、忘れていた初心を思い出してモチベーションが上がった
●誰かを教える、育てるという役割は、将来リーダーやMGMTの立場になった時に絶対役立つ
●自分ひとりの能力を上げるだけではなく、他者の能力向上に関わることでチーム全体の力を高めることの大事さに気づいた
●何よりも、「新入社員」って楽しい! 人の成長に関わるって面白い!

・・・というわけで、OJTは本当に関わると刺激的で楽しく、自分の成長につながる、とてもよい「学びのチャンス」だと思い、話が来たら「積極的に引き受ける」ことをおススメしてますが、もうちょっとその辺を勉強してみたいなぁ、と言う方のためのセミナーをご紹介します。

同業者といえば同業者なのですが、リスペクトしている研究者でもある関根雅泰さんが開催されるセミナです。

*********************

新卒採用数100名規模の企業内教育担当者向け

 「新人育成のためのメンター制度構築のポイント」

 ~組織社会化・OJT・研修転移研究の知見を基に~

========================

【日時】2015年7月28日(火)10時~13時(9時45分 開場)

【場所】池袋駅東口 アットビジネスセンター池袋駅前【別館】


http://www.learn-well.com/blogmanabi/2015/05/728.html

*************************

楽しそうではあーりませんか。私はさっそく申し込みました。

関根さんは、「同業他社でもいいよ」とよくおっしゃってくださるので、張り切って参加します。
OJT研究、若手の成長についての研究をなさっている関根さんの講義とワークショップ、
とても面白いです。勉強になります。

そして、もうひとつ、関根さんのセミナーの興味深いところは、家族総出なところです。

小学生から0歳までのお子さん4人が全員何かの役割を持って参加されます。
子どもに対する「キャリア教育」にもなっているのですよね。

ご興味ある方、ぜひぜひー!

==========================

この本の中に関根さんの章があり、「大勢で寄ってたかって育てる方が若手は能力向上する」といったことが書かれていますよ。


Comment(0)