第16話:あれ?
中高生のころ、中間テストや期末テストで、できればよい点を取りたいと思ったものだ。自分のためというよりも、親に叱られないように、という不純な動機の方が強かった。だからといってすぐ勉強を始めるわけではない。
最初にすることと言えば、学習環境の整備だ。
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机の上を片付ける。鉛筆や蛍光マーカーの跡を雑巾でごしごしこすってきれいにする。小さい頃に貼ったシールがはげかかってくっついているのが目に留まる。
「お母さ~ん、ベンジンか除光液ある?」などと階下に下りていく。ベンジンとボロを手に部屋に戻り、早速シールを削り取る。
「ああ、よかった、これできれいになった」と満足する。何年も前からあるのだから、何も試験前にしなくてもよさそうなことなのに。
そうこうする内に部屋の散らかり具合が気になり始める。
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今度は部屋の大掃除に移っていく。本箱を見ると、本やアルバムが乱雑に差し込まれている。これは、大小を揃えた方がいいなと思い、とりあえず、本やアルバムを順番に抜き出していく。
大きさが微妙に異なるアルバム。納まりが悪い。入れる順番を考えながら、何冊か本棚に戻している最中、何気なくページを開いてしまう。中学時代の修学旅行写真。
「おお、仲良しだったAちゃんだ。2年前に会ったきりだな。Bちゃんとはすっかり縁が切れたなあ」などと懐かしがっていると突然、「そういえば、今年、Cちゃんからは珍しく年賀状が来ていたなあ」と思い出す。年賀状、年賀状、どこだっけ?
年賀状を探す。「これは一昨年の。こっちは去年の…。あ、あった。今年の年賀状。…Cちゃん、Cちゃん…あった、あった」。Cちゃんの住所を見て、引っ越したことに今頃気づく。
「そうかあ、あの家から越したんだなあ」と遊びに行ったことがあるCちゃんの家をまぶたに思い浮かべる。
「年賀状も溜まる一方だし、処分しようかな。折角なのでもう一度読み返して、面白いのやきれいな年賀状だけ残すことにして、と」…。
年賀状チェックに1時間はかかった。Cちゃんの新住所も住所録に書き写した。うん、ずいぶん作業がはかどった。にんまり。
…床を見ると、「アルバム」が散乱している。「おっと、そうだった、アルバムの並べ替えをしていたんだ」と我に返る。
無事アルバムは本棚に納め、本も整然と並べ替えて作業は終了。少し離れたところから見ると、なかなか美しい景色だ!
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「本箱から秩序を感じるな」などと一人ほくそ笑む。「次は何をしようかな?」あっ!そうそう、試験勉強のために掃除を始めたんだった。
机も本箱も片付いた。そろそろ勉強を始めよう。その前に勉強計画を立てて壁に貼り出さねば。
ルーズリーフを1枚はずし、定規で線を引いて、国語、数学、化学、歴史などと課目を書き込む。何日に何をどこまで勉強するか、予定を書いてみる。
苦手科目から着手したほうがよさそうだ。そういえば、教科書も章や節ごとにぱっと開けるようにインデックスをつけたほうがよいかも。勉強の効率がよくなる気がするなあ。インデックス用のシールは…あった。
「1章:○○」「2章:××」…。閉じた教科書から目的のページがすぐ見つけられるようになった。うん、きれいだ。
鉛筆。机の上、ひきだしの中にある鉛筆を全部取り出す。鉛筆削りで全てを削る。赤鉛筆も。青鉛筆も。
色鉛筆は、芯がぽろっと取れてしまうことが多い。何度も削っている内にあっという間に1-2センチは短くなる。「どうして色鉛筆は芯が折れるんだろう? 赤だけかな?」と気になりだす。
小学生時代に使っていた12色セットを取り出し、順に削ってみる。やっぱり、どれも折れやすいな、と前からわかっていたことを再確認する。
試験勉強用に新調したノートは、課目ごとに表紙の色も異なっている。普段、特に秩序を気にしないのに、こういう時だけやたらと整理整頓・秩序が大事に思える。
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さあ、準備は整った。試験勉強に取り掛かろう!と思った時点で、もう夜中である。勉強は明日からにしよう。
「勉強している?」
「ううん、全然」
なんて余裕のコメントを返しつつ、実は、猛勉強していてクラスメイトを出し抜くタイプっているよね、とよく話題に上るが、私の場合、着手は早いものの、「ううん、全然」は本当のことだった。
整理整頓に忙しく、なかなか勉強を始められない。だから結局、いつもほぼ一夜漬け。立てたはずの「計画表」は飾り物として壁に貼られたまま。
当然、実績の記入もなく、ひたすら教科書を暗記する、という本質から遠く離れた学習法を取り入れる羽目になる。
本来の目的を忘れて、周辺のことばかりが気になり、時間を無駄に使ってしまうことがある。
皆さんもそういう経験、ありませんか?というお話でした。
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『コミュニケーションのびっくり箱』(日経BPストア、販売停止)の再録です。(初出は2009年7月~2010年7月)
※情報は掲載当時のままです。