オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第12話:勝利者インタビュー

»


2種類の質問がある。「オープン質問」と「クローズ質問」だ。
「オープン質問」は、「いつ」「どのように」などの具体的な説明を求めるもの。「はい」か「いいえ」で答えられるのが「クローズ質問」である。



以前、TVで見かけた大相撲のインタビュー。(雰囲気で再現してみる)

「今日決まり手は○○でしたが、○○で行こうと決めたのはいつの時点ですか?」(オープン質問)
「はぁはぁはぁ…(息切れしてしゃべれない)」
「今日の取り組みについて、事前にどんな研究をなさってきましたか?」(またしてもオープン質問)
「はぁはぁはぁ…(息切れしてしゃべれない)」

新人アナウンサーだったのだろう。息切れしている力士にオープン質問をして、空振りしまくっていた。



スポーツのインタビュー。インタビュアーの質問の仕方を観察していると案外面白い。ベテランアナウンサーは、どちらかと言うとクローズ質問で聞くことが多いようだ。

「この喜びを早くご両親に伝えたいですね」
「そうですねぇ」
「ふるさとの皆さんにもご恩返しができましたね」
「そうですねぇ」

さんざんクローズ質問を繰り返した後、場合によっては「以上、喜びを語る××選手でした」などとなるのだが、実際には、選手が答えたのは「そうですねぇ」だけだったりする。

演技や競技が終わったばかりで呼吸も整っていない選手へのインタビューもクローズ質問であれば「それらしく」進行することができる。

質問される側も競技直後のコーフン状態で難しいことを尋ねられるよりは楽だろう。

もし、

「どなたが喜んでくださいますか?」
「ふるさとの皆さんにおっしゃりたいことは?」

などとオープン質問で聞かれたら、「今、そんな話題を振られても、困るなあ・・。ええと・・」と困惑しそうだ。

だから、こういう時は深く考えずに答えられる「クローズ質問」が向いているのかもしれない。

しかし、それにしても。クローズ質問には、インタビュアー側の思惑や意図が見え隠れする。

「ご両親に喜びを伝えたいですね」という質問は、「両親のことに触れることは視聴者も期待しているはずだ」という思惑が含まれている。
「ふるさとの皆さんへの恩返し」も背景にある「故郷の人も支援してくれていた」という物語に触れるべきだという意図があるのだ、きっと。

選手もその辺はわかっているから「そうですね」と言うのであって、仮に、ここで「どうかな? 両親はボクがこの競技を続けていることを賛成してくれていないし」などと言おうものなら、場が白けてしまう。素直に本音を言っただけだとしても。



最近、気づいたのだが、クローズ質問よりももっとすごいのがある。そして、これ、ひそかに流行っている気がする。どの局のアナウンサーでも使う話法だ。

たとえば、スキーの例で。

「会心の滑りでした」
「そうですね」
「途中、ヒヤッとする場面もありました」
「そうですね」
「とはいえ、予選通過です」
「そうですね」
「明日は決勝です」
「そうですね」
「気を緩めるわけにはいきません」
「そうですね」
「期待しています」
「ありがとうございます。頑張ります」

わかります? 疑問文ではなく肯定文。

「会心の滑りでした」とインタビュアーが言い切る。「ヒヤッとする場面もありました」と断定する。選手は「そうですね」と受ける。

「会心か」「ヒヤッとしたか」などは選手自身の問題だと思うが、そんなことは聞いていない。インタビュアーが決めてしまう。

確信を持ったこの「肯定文言い切り型断定インタビュー」。スポーツインタビュー特有のような気がする。

「会心のすべりでしたね」「ヒヤッとする場面がありましたね」ではない。もはや「質問」の形式をとっていない。もしこれが日常の会話だったら、どうなるか。

たとえば、上司と部下の会話。

▼ 

夏休み明け一週間ぶりに出社した上司と留守を預かっていた部下の会話。

「課長。いい夏休みでした」
「そうだね」
「ずいぶん日に焼けました」
「そうだね」
「久々の田舎でリフレッシュできました」
「そうだね」
「休み中、業務がうんと溜まりました」
「そうだね」
「いつまでも夏休み気分でいるわけにはいきません」
「そうだね」
「今日からの奮闘、期待しています」
「頑張るよ」

…なあぁんて会話、絶対にありえない。「余計なお世話じゃ」と言われるのがオチだ。では、上司と部下を逆転させたらどうなるだろうか?

「山田クン、いい夏休みでした」
「そうですね」
「でも、いつまでも夏休み気分でいるわけにはいきません」
「おっしゃる通りです」
「今日からの奮闘、期待しています」
「頑張ります」

うん、これなら、ありうるかも。かなりイヤミな課長ではあるが。

ってことは「肯定文言い切り型断定インタビュー」、もしかすると、上から目線?


===================

「オリンピック」などでもこの話法は使われていたと思う・・・、たぶん(笑。


★「日経BP携帯朝イチメール」(または、『コミュニケーションのびっくり箱』(日経BPストア))の再録です。初出は、2009年7月~2010年7月でした。

年月日などは特に内容に影響がない限りは、掲載当時のままにしてあります。文章は、多少加筆修正しています。


Comment(0)