オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第11話:トイレの事情

»

「トイレ」の話で恐縮です。ただし、ビロウな話ではないのでご安心を。

仕事で色々なビルを訪問する機会が多く、訪問時はたいていそこで終日過ごすため、トイレも何回か利用する。男性用がどうなっているかは全く知らないが、女性用のトイレにはあれやこれやと貼り紙があって、それがとても面白い。

よく見かけるのは、「トイレットペーパーで手を拭かないでください」だ。

おそらくハンカチやタオルを持たずにトイレに来たものの、そこに「空気がぼわーっと出る乾燥機(なんていう名前?)」も設置されておらず困った人がトイレットペーパーを個室から洗面台まで持ち出すのだろう。

水に溶けやすい紙のため、手を拭くとあちこちにカケラが落ちる。あまり美しい光景ではないことからから「禁止」なのでは?と想像している。



ハンカチ不携帯でトイレットペーパーでも拭かない人はどうするか。

観察していると「髪の毛を手櫛で梳かす」が案外多い。いつぞやそのことを職場で話したら、「えー、女性って、濡れた手で髪を梳かして、手を乾かしちゃうわけ?」と男性陣が驚いていた。(いや、私はハンカチをいつも持ち歩くのでそのようなことはいたしませんが、”ヒミツの花園”ではそういう行為も時々見かけます)

個室内に目を向けてみよう。以前、こういうパネルが貼ってあった。

【トイレの使い方】

1.用を足す
2.水レバーを押す
3.立ち上がる
4.蓋を閉める

そのトイレは、水洗レバーがうーんと後ろの方についていた。「レバーを押してから立ち上がる」…ということは、腕を思いっきり後ろに回せ、ということか?

不思議な体勢を想定しているんだなあ。

「ここはひとつ、2と3の順番を入れ替え、先に立ち上がってもよろしいでしょうか」とつぶやく。



この間、頭を悩ます貼り紙があった。まず、個室の扉裏面上部にこうある。

「10メートルを超えたトイレットペーパーは流さないでください」

少し視線を落とすと、下部に、

「一度に多くのトイレットペーパーを流す場合は、10メートル未満にちぎって、少しずつ流してください」

ここで「うーん」とうなった。

流したいトイレットペーパーの長さをP(ペーパーのPです)とする。

「10メートルを超える」は、「P>10メートル」を指し、それは「ダメ」と言っている。「10メートル未満にちぎる」は、「P<10メートル」にせよ、ということである。それじゃあ聞くが、「P=10メートル」だったら?

仮に「10メートルぴったりに切った」場合は、10メートルを超えてはいないからそのまま流していいのか?

いや、「一度に多くのトイレットペーパー」に該当するので、たとえば、9.9メートルと0.1メートルに分断するなど「10メートル未満」にしてから流すべきなのか?

よく考えてみれば、そもそも10メートルなんて一度に使わない。トイレットペーパーの一巻きは30メートル程度だろう。その3分の1を1回で費やすなんてそうそうあることじゃない。

だが、注意書きがあるということは、過去に「トイレ詰まり事件」が続発し、管理会社が実験して「うん、10メートルを超えるとダメだな」と認定したのではないか。

細かい数値での指定に頭を捻った(そういうことを個室内で真剣に考えている私も相当なヒマ人であるが)。



公共のトイレは、「集団心理」がなせる業なのか、どうしても汚れやすいものらしい。注意事項は「きれいに」という点に集中して書かれていることも多い。

先日訪れたビルのトイレでは、全個室内の貼り紙にこういう文言があった。

「振り向いて前後左右の確認を」

ニッポン人が好きな五七五調である。洋式便器の背中側に書いてあった。個室を出る前に前後左右を確認し、散らかっていないか、忘れ物はないか、汚していないかをチェックせよ、という意味であろう。



「汚さないでね」については、「後の人のためにきれいに使いましょう」「皆のために汚さないでください」と、「軽い命令形」が使われやすい。

しかし、「こうしろ」と指示されるのも「これはダメ」と禁止されるのもあまり効果が出ないためか、肯定文で表現するという方法も最近は増えた。

「いつもきれいに使っていただき、ありがとうございます」

「きれいに使うこと」を前提として、先に「ありがとうございます」と礼を言ってしまうわけだ。ある公共のトイレでこういう貼り紙にしたところ、急にきれいになったと何かで聞いたこともある。

禁止や命令ではそう行動変容が起きなくても、「ありがとね」と言われれば、いい人にならざるを得なくなるということもあるはずだ。

「いつもきれいに使っていただき、ありがとうございます」これは、そういう心理をついたもの。



これは、日常の会話でも使える。

「あれしろ」「これはダメ」よりも、
「いつも頑張ってくれてありがとう」
「いつも助けてくれてありがとね」

汎用性がありそうだ。

夫に家事分担を頼みたい時も、

「洗濯ものを取り込んでよ」「どうして手伝ってくれないの?」ではなく、
「洗濯ものを取り込んでくれてありがとう」と言うほうが上手に協力を仰げるのであろう。

===============

「日経BPケイタイ朝イチメール」(または、『コミュニケーションのびっくり箱』(日経BPストア))再録です。 日付、数字などは、掲載当時のままですが、文章は、一部加筆修正しています。 (初出:2009年7月~2010年7月)


Comment(0)