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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第9話:擬音の人

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「ぶーぶー」「わんわん」「にゃーにゃー」などと、幼い子どもは、そのモノが発する音や声を繰り返す擬音によって、対象を表現する傾向がある。

大人もそれに釣られて、「もーもーさんのミルクをのみましょうねぇ」とか「ストローでちゅーちゅーしましょう」などと言っている。あくまでも、子ども相手に、である、

が、世の中、オトナ同士の会話なのに、こういった擬音を主体に話す人がいる。



たとえば、取引先の担当者に「ちょろちょろっと話しておきますんで」と言われても、わかるようなわからないような。ちょろちょろっと、とはどんな風に伝えておいてくれるのだろう?

先日、あるプロジェクトに関する提案を聞いていたら、途中で「ここは、どんと入れて、だーっと対応する予定です」という説明が出てきた。

意訳するとこうなる。

「このタイミングで、一気にメンバを追加投入し、一斉に全ての対応を開始する予定です」

オトナも案外、擬音を活用して生きているのである。



知り合いがパソコンスクールに通った時の体験。エクセルの使い方のクラスで、数字が入っているセル(区画)の範囲を選択するのに、こう説明されたと言う。

「マウスで、ここからバーッとやって、ガーッっとやればできますから」

その後もこのインストラクタ氏、あらゆる説明を「バーッとやって、ガーッ」だけで済ませたため、一日の講習が終わったら、耳に残っていたのは、「バーッとやって、ガーッ」だけだったと苦笑い。

私も「ドラッグする」ことを「ずるずるっ」と説明している人を見かけたことがある。「ずるずるっ」という説明でも操作は学べるが、いざ、マニュアルなどで「ドラッグ」という記載を見つけても、「ずるずるっ」と「ドラッグ」が一致するかどうか心配だ。

「バーっとやって、ガーッ」の人は、それ以外にうまく説明できないからなのだろうし、「ずるずるっ」の人は、「ドラッグ」という用語が初心者に理解しづらいと配慮しているのであろう。だから、どちらも気持ちはわかる。



そういえば、こんなことがあった。自宅近くにオープン予定のスポーツクラブが開催した事前内覧会に参加。

フロアには説明要員として、大勢のスタッフが立っていた。パンフレットを手に思案顔をしていたら、ある男性スタッフがニコニコ近づいてきて「何かわからないことはありますか」と訊いてくれた。

「プールサイドに〝マッサージプール〟と〝ワールプール〟がありますが、さっき見に行ったら、どちらも同じに見えました。どこがどう違うんですか?」

「あ、マッサージプールは、ボワーッとなって、ワールプールはワーッとなってブクブクってなるんです」

「ん? ボワーッとなるのがマッサージ? ワールプールはワーッでブクブクと?」

「いえ、ワールプールもボワーッともなります。ブクブクってボワーッと」
彼は、嬉しそうに教えてくれる。

「ワールプールもボワーッと…(どっちも同じ!?)。ええと、そもそも二つは同じものなんですか? 違うものですか?」

「同じようなものですが、とにかくボワーッとなってブクブクってなって、シュワシュワっとなるんです。気持ちいいですよぉ~(遠い目)」

「あ、シュワシュワも(増えてる)…。ああ…そうですか。わかりました(ホントはわかってない)。ありがとうございました」

「ほかに何かありますか? 僕、ヤマモトと言います。何でも説明しますからどんどん聞いてくださいねっ(満面の笑み)」

…………。

たぶん、いい人なんだ、ヤマモト君。でも、キミにはもう質問しないと思う。

ワールプールとマッサージプールの違いは、いまだに謎である。


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『コミュニケーションのびっくり箱』(日経BPストア、販売停止)の再録です。(初出は2009年7月~2010年7月)

※情報は掲載当時のままです。


★後日談★

スポーツクラブに入会したのは、2007年で、上記の出来事もその2007年の秋に体験した。昨年2013年、初めてプールを利用してみて、「ワールプール」と「マッサージプール」の違いがわかった。

●「ワールプール」:温かいお風呂でジャクジーのように下から泡が出ていて、多少水流もあるタイプもの

●「マッサージプール」:同じく温かいお風呂だが、ふくらはぎ、太もも。お尻、腰・・と順番に異なるジェット水流が出てくるようになっており、利用者は、少しずつ場所を移しながら、全身の水流マッサージを受けるもの

「説明する力」って大事だなあ、と思うできごとでした。


 

 

 

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