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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

関根雅泰さんの「新人教育をアカデミックに語ろう(2)」(2013/3/27)セミナー報告。「イマドキのOJT」を考えてみた!

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先日(2013年3月27日(水))、株式会社ラーンウェルの関根雅泰さん主催のセミナー「新人教育をアカデミックに語ろう!(2)」に参加しました。

Twitterでフォローしあっているのですが、ある日、このセミナーの告知を関根さんがなさっていて、「同業者でも歓迎!」と書いてあったので、ダメ元で「完全な同業者ですが、それでも良いですか?」と問いかけてみたら、「ぜひぜひー!」と。 (ホントにええお人や)

もう前日から、いや、前々日くらいから楽しみで、楽しみで、楽しみで。スキップしながら、青山「こどもの城」の会場に向かいましたよ。 16-7人の人事や人材開発、あるいは、私のような人材系ビジネスに携わる方が集まりました。



関根さんは、東京大学の中原淳さん門下生で、OJTの研究者でもあります。詳しくは、関根さんのブログにもレポートが載っていますので、私が「なるほどー」と思ったことをこちらに記載したいと思います。

【OJTの歴史】
★1900年代~1980年代
●新卒の一括採用とOJTはセットもの。新規学卒者がまとまって入社してくることが前提で「OJT」が機能する(そうでなければOJTは成立しない)

●なぜか? 企業はいわば「村」社会で、同質な人を育てる。長期雇用も前提。企業内で(のみ)通用する特殊スキルを学ばせるのがOJTだった

●企業と学校の間の信頼関係や企業と社員との信頼関係が成立しているからこそ「OJT」で人を育てることができた

★1990年代~
●バブル経済が崩壊し、そこから学校と企業の信頼関係は崩れた(村の一員になれない現象が起こる)

●村の一員になったとしても、人員削減だとか余裕のない職場など様々な要因により、若手が将来への希望を持てず、学ぶ意欲もなくなる。これで「OJT」が機能不全に陥る

●求められるスキルも変化してきた。その企業でのみ通用する特殊スキルを学ぶのではなく、外でも通用するスキルを学ぶ必要がでてきたが、これはOJTでは学べない

・・・・・ふむ。そうですね。

私が入社したのは1986年。ぎりぎり「OJTがうまくいっていた時代」の人間です。バブル期でしたから、なんだかほわほわして、先輩も上司も忙しいながらも楽しそうで。新人にみんなが寄ってたかって関わって、ブラザーシスターという制度はありましたが、シスターではない先輩もしょっちゅう声かけてくれたり、叱ってくれたり、どこか飲みにつれていってくれたり。

「自分の”村”の一員」として迎え入れ、全員でかまってくれた時代でした。

時代が変わり、私がOJT支援を始めるようになった今世紀。どの職場を見ても、「みんなでかまう」というような雰囲気ではなくなってきているのがわかります。上司もプレイヤー化しているので、部下の面倒など見ているヒマもない。だから、専任の「OJT」担当者をアサインして、上司の仕事の肩代わりをしているような状況なのですが、今度は、OJT担当者以外の人が、若手育成に無関心になっていく、ということもよく目にします。

20年前までのように、放っておいてもみんなが「新人」をかまう時代ではなくなってしまっているのですね。忙しくて、余裕なくて、そして、育てる文化とかノウハウも継承されていなくて。



【OJTと組織社会化について】

「組織社会化」というのは、簡単に言うと「ある組織の一員としてやっていくために学び成長していくこと」というようなことを指します。(簡単に言いすぎ?)

OJTというのは、まさに新人の「組織社会化」を果たすもので、社会化のキーワードに「適応」というのがあるそうです。

「その組織に”適応”する」ことが、社会化のポイントの一つ。

「適応」にはさらに3つのポイントがあって、
1.役割が明確であること (配属されても、何もすることがない。何させようか?と先輩たちが困っている、とか、放置されているなんてのはよろしくないわけです)

2.自己効力感 (ああ、自分が何かやっていると価値を生み出しているとか誰かの役に立っているという感じ)

3.社会的受容 (仲間に入れてもらえる、馴染めるってことだそうです)

この3つのポイントが新人がその組織に「適応した」と見なされる要素なんですって。

ってことは、1年目のOJTの場合は、特に配属直後の数か月は、OJT担当者もこの3つを頭において新人と接していくとよいのではないかと思いました。

もちろん、上司や先輩が自分が「適応」できるように心を砕いて、いろいろな働きかけもしてくれるだろう、と待っているばかりではダメで、「自分からも能動的」に働きかけることも大事なわけ、ですが。(たとえば、「何か手伝うことはありますか?」と新人から先輩に尋ねることで、自分の役割が明確になったり、自己効力感を味わったりするわけですし、「飲みにつれていってくださいよー」などと先輩にお願いし、そこでAfter5の会話をすることが自分を「社会的に受容してもらえる」状況を作り出すという側面もありますよね。)

だから、相互に働きかけていくことが実際には大事なんだろうと思って話を聴いていました。



セミナーでは、参加者同士の意見交換タイムが数回設けられていました。

これまた私がメモしていて、「ほほぉ」と思ったことを以下に列挙。

●(学校の先生のようでしたが)「卒後1年はやめないでね」といって送り出すが辞めてしまうケースもある。職場でうまくいく人は「人間関係がよい」と言うことが多い。

●若い人がダメになったという言い方をすることがよくあるが、昔のほうが、周囲に余裕があって、まめに教えてくれていた。いまの若手のほうがかえってかわいそうなのではないか

●生産性本部の方がいらしていて、生産性本部の調査について紹介しつつ(公開されている内容です)、「若年層の退職は、”前向きな理由”が多いのだが、とどまった側は、”人間関係がよいから”といった回答を寄せるケースが多い」そのことからも、職場の人間関係というのはとても大事らしいことがわかる

●「この人すげー」と思える先輩でないと後輩も学ぼうとしないのではないか。

●自分の体験だが、入社してすぐに先輩がいろんな人(社内外)に紹介してくれた。その時は誰が誰で何をしているのかなどちっともわからなかったが、組織の一員になれた感があった

●見えない不安というのがあるはずなので、色んな人に紹介したり、見せてあげたりすることで「全容」が見えるようになり、それで安心してくるという側面はあるだろう

●縦の関係だけではなく、ななめの関係も用意できると、若手を育てやすいかも

●会社の規模が小さい場合は、ななめの関係まで社内で用意できないケースもある。社外に求めるのもいいのかな

・・・・・・

人脈拡大を支援する、と言う話が出た時、「新卒者が配属されてすぐに人脈?」と一瞬思ったのですが、「誰に何を聴けばよいのか知っている」とか「色々な人とかかわることで、組織の一員になった感じを味わうことができる」といったコメントを聴いているうちに、確かにそうだなと納得しました。

そういえば、私も以前から「新人を社内外の他者に紹介しましょうね」なんてことを言っていたではないか、と苦笑いしつつ、「人脈拡大」というワードにムム?と反応してしまったのです。人と人とを結び付けていくことは先輩が後輩にしてあげられることの一つですよね。

ほかにももっともっとたくさんのアカデミックな内容(今研究されていることや今後のテーマなども含め)が紹介され、「ほほぉー」「なるほど」と思ったり、「うん、実務家として私がこの10年感じていたことと同じだわ」と心強く思ったりしているうちにあっという間に半日のセミナーが終わりました。



今回のセミナーは、関根家総動員で進行しました。

受付のところには、奥様と長女、次女、長男と皆様勢揃いで、席に案内してくださったり、名札の書き方を教えてくださったり。 (関根さんが社長で、奥様:専務、長女:部長、次女:課長、長男:係長、と紹介がありました)

長男クンはうちの甥っ子と誕生日も近く、間もなく4歳。男の子ですから、やんちゃでにぎやかでしたー。

仕事をする、お金を稼ぐ、ってどういうことかを小さいうちから体験させたいというお考えのもと、家族総出の運営でした。

お姉ちゃんたちが作ったらしい名札には全部絵が描いてあり、楽しい演出です。

皆様、どうもありがとうございました。
本当に勉強になりましたー。




なお、関根さんは今後もOJTの研究をなさっていくそうですが、ぜひぜひ、以下をいつか明らかにしていただきたいと思っています。

●OJT担当者になるのは「何年目」の「どういう人」が良いのだろう?

→ 2-3年目がアサインされるとともに成長する、という度合が強くなりますし、5年目以上の先輩がアサインされると、仕事はきっちり教えるけれど、歳の差があって本音で分かり合えないという壁もあるやに聴きます。本当など何年目の人がいいのでしょうね。

また、「どういう人」がOJT担当者に任命されると非常に効果的なOJTが進行するのかも興味あるところです。すでに「人を巻き込む力がある人がよさそうだ」ということは、関根さんのご研究で述べられていますが、もっと細かいプロフィール、あるのかしら?なんてことも興味あります。

人事の方はこのあたり、すごく悩んでいるように思うのですよ。「誰がOJT担当者としてふさわしいのか」というテーマ。



「新人教育をアカデミックに語ろう!(2)」セミナー。詳しくは、関根さんのブログにレポートがあります。合わせてご覧くださいませ。

●新人教育をアカデミックに語ろう(2)Agenda は こちら
●当日のレポートは こちら
●お子ちゃまたちの準備や当日の様子は こちら


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関根さんのOJTに関する研究を始めとして、たくさんの研究者の研究がテーマ別に掲載されています。オモシロい本です。(この本は、生産性本部のY君も関わっているようなのですが、このY君、私の大学時代の同級生で、「おお、色んなところで人はつながるもんだなぁ」としみじみしましたw。)

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