オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

2年目の私が新入社員を指導したときの失敗談

»

先日、ダイヤモンド社主催・松尾睦さんが講師をお勤めになった「OJTの実践知」というセミナーに参加したことはすでに書きました。「経験学習」の研究でも著名な松尾さんが講師で、講義(解説)とワークショップのファシリテーションをなさいました。

4-5人1グループで「自分のOJTの成功例と失敗例」を共有するというセッションがありました。私が思い出した一つの例を披露すると、なぜかグループメンバにバカ受けして、「田中さんの例を全体発表で紹介したほうがいい!」と全員一致で推挙され、プレゼンすることにまでなりました。

そのお話とは。

1987年、DECに勤めて2年目の春。待ちに待った後輩が入ってきました。

入社1年目の時、5人の新入社員が持ち回りで「ユーザディスクのバックアップ」という仕事を任されており、毎週月曜日の午前中を掛けて、マシンルームとオフィスを往復しては、バックアップをしたものです。なんせ、25年以上前ですから、バックアップといったって体力もいるもので、ディスクパック(今の方はわからないと思いますが)をハードディスクにセットし、オープンリールのテープもかけて、コマンドをうち、途中でテープを変えて・・・。毎週毎週月曜日3時間くらいかけて行うこの作業を、入ってきた後輩にようやく引き継げることに。

その引き継ぎの説明をする係りに私が任命され、数人の新入社員を引きつれて、マシンルームへ。意気揚々と。

「このディスクをこうやって入れ」
「テープをかけて」
「コンソール端末からコマンドを入力し」
「・・・」

説明している時、一人の後輩(男性)の表情が冴えないのに気づきました。

「何か質問は?」
「ありません」
「表情が冴えないようだけど」
「いえ、別に・・・。毎週やるんですよねぇ」
「そうです」
「・・・・(何か不満げ)・・・」
「これ、すっごく楽しいから、頑張って!」
「ふーん、そんなに楽しいなら、今年も田中さんがやればいいじゃないですか」
「・・(絶句)・・」

・・・うう、負けた、新人に負けた、ナマイキな新人だ。なんてことだ。

この後輩は、院卒だったので私より年上で、そういうプライドもあったのか、「そんなに楽しいなら田中さんがやればいいじゃないですか」と笑いながら言い返してきました。

私は私で、まだ2年目になったばかりの若造。。「後輩に舐められてはいけない」と焦っているというか、先輩ヅラしたくてしょうがないというか、良くも悪くも燃えている年齢ですから、「かーーーー」っとなってしまったのでした。

「そんなこと言わないで、やって!」と、おそらく、キレ気味に言ったんだと思います(このあたりの記憶は定かではない)。

・・・それから何年も経ち、自分が「リーダーシップ」とか「コーチング」とか学ぶようになってから、この時の出来事はたびたび思い出しました。

そして、後になってわかったことは、

「楽しいから頑張って」ではなく、
「この作業は、部署全員のデータを大切に保管するための重要な作業なのだ。このバックアップがあることで、ファイルが消えたとかディスクがトラぶったという時、少なくとも月曜時点までは戻せるわけ。だから、作業自体は淡々としてオモシロいと思えないものだけど、皆のために大切な任務を担っているのだと意識して、取り組んでね」とでもいえばよかった、ということ。

目的、誰の役に立つのか、それがあることでどう貢献でき、ないとどんな困った事態が起こるのか。何を意識して作業してもらいたいのか、そんなことをきちんと伝えず、「楽しいから頑張って」と適当にごまかした。

これが少しはねっかえり気味の後輩の何かにひっかかり「だったら、田中さんがやればいいじゃないですか」という返事になってあらわれたわけで。

第一、自分だってバックアップを「楽しい」とは決して思っていなかった。単調な作業だなあ、と思っていたし、まあ、夏は、涼しいマシンルームにいられるので、いいなーと思うことも有ったけれど、根っこのところでは、「つまらないルーチン」でしかなかったのですね。

で、こんな話を、セミナーのグループワークの際に面白おかしく再現していたら(面白おかしく言う必要もないのですが、つい、サービス精神がふつふつとわいてきてw)、自分で語りながらさらに気付いたことがあるのです。

●なぜ、私は「つまらない」と思っていたのか。
⇒ 私自身が、先輩から意味を説明されていなかったから。
⇒ 私自身が、先輩に意味を問うこともしなかったから。

先輩が悪いのではなく、自分が尋ねればよかったのですよね。1年目の時。「これは誰の役に立ち、私が何を学び取ればよいのでしょうか」というようなことを。

さらに、グループの他のメンバ(その日会ったばかりの他社の方です)から、以下のように質問されて、さらに考えを深めることもできました。

●その時の田中さんの上司はどう言っていたのですか?
⇒ そういえば、「田中さんがやればいいじゃないですか」と食ってかかられた時、私は上司にそのことを報告しなかった。報告していたら、「そういう時はね、目的をきちんと伝えるものだよ」などとアドバイスをしてくれたかもしれない。
⇒ 上司が私にバックアップの説明を指示したとき、再度呼んで「どう説明したの?」と問うて暮れてもよかったのかも知れない。(もちろん、こちらからホウレンソウすべき事案ですけれど)

こんな風に「田中さんがすればいいじゃないですか」という過去の笑い話から、あれこれ想いをめぐらせ、色んな気づきがありました。

「失敗談」を他者と共有すると、思わぬ気づきがあるものです。

一つには、頭にあるものを言語化して他者に伝えている最中、自分の言葉で自分が気づいていく。

もう一つは、他者からの思わぬ「問いかけ」からさらに思考が深まり、「あ!そうだったのか!」と新しい答えを発見する。

「学び」を深めるために「ふりかえり」は大事ですが、その振り返りは、

●言語化 (言葉に直して、自分の外に出す。話す、書く)
●他者との対話 (「壁打ち」という表現を使う方もおいでですね)

がポイントなのでしょう。

ところで、会場からこの例に対して、質問がありました。

「その新人とその後の関係はどうなったのですか?」

答えは

「良好でしたよ。互いの家に遊びに行くような感じでした」

です。(今、彼がどこで何をしているのかは存じませんが、きっと元気でしょう。)

【松尾さんのご本です。再び。この本は、私が主宰している「OJT茶話会」というOJTについての勉強をしているコミュニティで多くの方がお読みになりました。とても勉強になりますよ♪】

【私の失敗談満載の「後輩指導の本」です(笑)。ついでにご紹介。唯一の書き下ろし本です♪(他の著作は連載をまとめたもの)】


※追記:この話、ずーっと前にも書いていましたねー。検索かけたらひっかかりました。この出来事について気付いたことが少し変化したので、このエントリーもこのまま残します。

Comment(2)