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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

親の因果が子に報い・・・的人材育成の負の連鎖を断ち切るためにできること

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ある人生相談を見ていたら、「自分は親に虐待されて育ったので、子どもを持った今、自分がそういう経験則しかないため、虐待してしまうのではないかと心配で仕方ない」といったことがかかれていました。

「かわいがるとはどういうことか」「きちんと育てるとはどういうことか」が、肌体験としてしか分からない、と相談者は嘆いていました。

こういう悩みは、子育てだけに限らず、企業のOJTでもよく耳にします。

「自分はとても厳しい上司の元で育った。今だったらパワハラ認定が出そうな、たとえば、”バカヤロー”とすぐ怒鳴られたり、何もフィードバックされず、ただ書類を突き返されたり、立たされたこともある。そういうのに対してなにくそを思って頑張ってここまで来た。今の時代、同じことを部下にしたらダメだと”頭”ではわかる。でも、自分がそういう育てられ方しかしていないので、いざ部下と向き合おうとしても、具体的に何をどうしたらいいのかわからない」

怒鳴られたことばかりが記憶になるから、つい自分も怒鳴る。あるいは、怒鳴りそうになる。
厳しい挑戦をたくさんさせられたので、自分も支援の手を出さず、とにかく「やってみろ」と言ってしまいそうになる。

この壁を超えるのは実はとても難しいのではないかと思います。

頭ではわかるのですよね。「そういうやり方はよくない」と。さらに深く考えれば、実は数十年前の自分だってそんな上司の元にいて、辛かった。もっと違う指導をしてくれてもよかったのではないかと思う。だから、頭では、理性では、その負の連鎖は断ち切ったほうがよいと思う。でも、経験がない、肌体験で「よりよい指導方法」がわからない。だから、つい自分がされたと同じように怒鳴ってしまう。それを我慢すると、今度は、部下と対峙できなくなる。

中間地点で落ち着くというのがなかなか難しい。

私は親になったことはないので、子育てのことはよくわかりません。でも、冒頭の人生相談の親御さん(女性)が、自分も愛される、ただ抱きしめられる経験を今からでもしたなら、少し変わるかも、と思わなくもない。された経験がない、というのなら、まずは自分がそういう経験をすることが変化を引き起こすきっかけになるのではないかと思うのです。

大人にはなっているけれど、たとえば、相談した相手が真摯に話に耳を傾けてくれ、「あなたは十分頑張っているし、お子さんを上手に育てているわよ」と肯定的フィードバックをし、少しハグしてあげる。握手する。それだけで、「そうされると嬉しいものだ」ときっと実感し、「そのくらいならできそうだ」と子どもをハグしてみる。

想像ですけれど。

こと企業のOJTでも、「鬼軍曹的」「昭和的」上司しか経験がなく、どうしたらいいのかわからない方でも、たとえば、誰かに傾聴されたり共感されたり、あるいは、褒められたりすると、「こういう風にされるの、悪くないな」「嬉しいものだな」と思え、少しは現場で自分も試してみるか、という気になる。

私が提供する研修では、たとえば、傾聴の練習も取り入れたりしますが、ポイントは、「傾聴する」ことだけにあるのではなく、「傾聴される」経験の方にもとても大きな意味が込められているのですよね。「された」経験。「されて嬉しかった」という記憶。

これを持ち帰っていただくと、現場で「する」側に回れるのではないかと思うから。

私の場合、研修が仕事の現場なので、研修で例を挙げましたが、「される」経験の上書き(悪い体験からよい体験へ)は、周囲の誰かがしてあげることも十分できること。

教え育てるのがうまくいっていない誰かを見つけたら、指導方法を指導する、のではなく、ハートフルに、あるいは上手に指導される経験をさせる、ことから始めてみるのも一つだと思います。



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