世はバレンタインデーだけれど、私はハラヘッタデー。
父は内科医だった(だった、とは、現役は引退している、ということであって、存命です)。たまに職場の話を食卓でしてくれるオヤジであった。ある日、こんな話を。
「○○さん(←高齢の女性)、来週は検査だから、朝ご飯食べずに来てね」
「はい、先生」
・・・翌週、○○さん来院。
「先生、朝ご飯食べずに来い、と言われたので、朝は”パン”食べてきたよ」
「・・・・・」
・・・ウソのようなホントの話である。 検査の意味がつうじていなかったのですな。
さて、検査といえば、我が敬愛する漫画家でありエッセイストでもある東海林さだお氏には、『ドック上がりのトンカツ』という名文がある。(『トンカツの丸かじり』(文春文庫収録)
人間ドックに行く前日20時から絶食・絶飲。正午にドックが終了するまで、「16時間飲まず食わず男」になる。「ドック上がりの16時間飲まず食わず男」は、「もう何をしてもいい」というキモチになる。
普段なら身体に悪いから、と控えるけれど、ドック上がりだから大胆に。「肉だ」・・・さらに「油だ」・・・さらに「ビールだ!」となり、トンカツ屋に入ると、「もっと油だ」とロースを注文し、「もっと多くのビールだ!」と大ジョッキを頼む、というお話。
こうやって要約してしまうと、なんてことないように読めてしまうけれど、東海林センセーは、これをリズミカルに書いていくのである。
人間ドックの日は、この名文を必ず思い出す。「私も18時間飲まず食わず女、だ。がるぅ~~!」という気分で街中を闊歩したくなるわけだが、今日(2/14)はまさにその日。
よりにもよってバレンタインデーに人間ドックの予約を入れるとは。いや、もう関係ないけど、とっくに。
バレンタインデーではなく、ハラヘッタデー。(← 音に反応するとこうなります。笑)
不思議なことに、普段、何かで忙しくて食事を1回スキップしても、これほどまでに空腹を感じないのに、「食べては駄目」と言われた途端に、「食べ物」「飲み物」「食べ物」「飲み物」と、脳内の75%くらいがそれらで占められる。
マズローの欲求五段階説で言えば、「生理的欲求」という最下位の欲求充足こそが、わが喫緊の課題になるわけなのだ。「安全の欲求」よりも「所属と愛の欲求」よりも何よりも「生理的欲求」。
マズローさんは、人間ドックを受診する日に、この「欲求五段階説」を思いついたのかも知れない。
ところで、バリウム。あれが苦手、という人は多いのだが、なんでも挑戦する心が湧いてしまうワタクシは、白いひげを作らずに飲むということに血道を上げている。レントゲン室から出てきて、うがいする場所で隣に「ひげおじさん」がいたりすると、心の中で「勝った!」と小さくガッツポーズをするほどだ。
バリウムは、以前よりもうんと美味しくなった。ヨーグルト味?風とでもいうのか。だから、18時間の空腹の身には、「おっ、案外美味しいではないか」としみじみしてしまう。ゴクゴク。ごくごく。
しかし、ここで問題が。
18時間飲まず食わずを耐え、終わったら美味しいものをうーんと食べよう!と決意しているのに、ここにずしっと重量感のあるバリウムを胃に納めてしまうと、急に空腹感が遠のいてしまうのだ。
「私の空腹を返してくれ~」と思う。「バリウム上手に飲むからさ、だから、空腹感は奪わないでぇ~」と切に願う。
・・・・かくして、ドック明けの、バリウムで重くなった胃袋を抱えながら、実は、東海林センセーほどには”がるぅ~~!”とはならず、普通に遅めのランチをとることとなる。
さて、今日は、どこでランチをしましょうか♪
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このエントリーを書くために、我が家にある東海林さだおセンセーの本、約50冊の目次を全部開き、ようやく見つけました。
しかも、最初に当たりをつけた「丸かじりシリーズの30巻目あたり」というのは合っていたのに、1回目に気付かず、3週目に入って、「やはりあったじゃないか」と見つけたのが、第28巻。 夕べ、本箱の前で1冊ずつ目次を丁寧に追い、50冊、しかも、3週で約150回、目次をめくっていたのでありました。食べては駄目、と言われて、ひたすら暇だったんです。