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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

PMシンポジウム2011参加記録(2) OJTのススメ

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PMシンポジウム2011(9/8-9開催)、私が担当したセミナーの報告です。

「若手を育てる!生きたOJTのススメ」というタイトル。2時間半の演習付き。

昔から「OJT」という言葉はありましたが、この10年ほど、企業では、「OJT」を「制度化」する動きが盛んです。「制度化」とは何か。

一人の若手社員に、一人の専任「OJTトレーナー」(メンターとか指導員とかいろいろな呼び名があります)を割り当て、一定期間(たいていの場合は、1年から3年)、育成にあたる、というもの。その音頭を人事部や人材開発部がとり、「指導計画」を作らせたり、定期的に「報告書」を上げてもらったり・・・。

こういう「制度化」が始まる以前。
新入社員研修を終えた社員は、各職場に配属され、「ある部署では熱心に育て」、「ある部署では放置」と、育成に対する温度差が激しく、これではまずい!と気づいた企業が、続々と「OJT」の制度化に踏み切っている、というのが実態です。

コーチングが流行っていますけれど、「うちは、まさにホーチング(放置ング)だ!」と苦笑する人もいるくらいでした。

こういう制度を始めると、現場からはクレームの嵐になることが多く、「なんで、こんな制度を始めるんだ。若手に甘いのではないか」「私たちが新人のころ、こんな制度はなかった。でも、ちゃんと育ったよ」「1対1で指導するなんて。仕事は盗むもんだ」なんて声が上がってしまうことがよくあります。

しかし、たとえば、20年前と今とで比べたら、「成長に対する期待」ってずいぶん変わっているんですよね。

私は、25年前に新社会人になりましたが、その頃は、「10年で一人前になればいいよ」というようなのんびりしたところがあった気がします。失敗にも許容度があったし、顧客も懐広く、他者の若者でも育ててやろうじゃないか、という態度だったような。(育てる、というのは、積極的な行為だけを意味するわけではなく、「多少のミスは見逃してやるか」なんていう、無形の支援も含まれます)

今は、社会全体にそんな余裕はない。失敗は、かなり許されない。相当許されない。影響の範囲が広すぎるから。

聴いた話ですが、「うちのプロジェクトに新人を入れないで」と断られるケースもあるとか。

「OJTの一環として、会議に同席させるだけでも。全くの手弁当ですから」とお願いしても、「だって、うちの椅子に座るでしょう?」と言われてしまうこともあるというのです。

だから、若手を取り巻く環境は本当に厳しくなっている。
しっかり育てていかねばならない。

自然に育つのを待つのではなく、専任OJTトレーナーがついて、しっかりと成長の支援をする。これが今の「OJT制度」なのですね。

・・・・・・

もちろん、「制度化」には、弊害もあります。

●これまで、周囲の先輩たち全員で育てるムードがあった組織であってすら、専任トレーナーを決めることで、「私には関係ない」という気分になってしまう先輩たちが増えること。あるいは、「トレーナー」の考えもあるだろうから、余計な口出しをしたら悪いな、と協力しなくなってしまう現象。トレーナーが孤立してしまうことも。
→これを、「善意の無関心」と私は名づけました。 悪気はないけれど、若手育成に無関心を装ってしまうことです。

●「OJT」という「制度」があることで、若手も甘えてしまうケースがある。「この制度によって、私たちに何をしてくれるんですか?」と権利のように主張してしまう、という例も聞きます。
→ ここは、「いや、成長するのは、あなたの問題で、それを促進すべく先輩がトレーナーとしてついているだけなのよ。成長する主体は、あくまでもあなたなのよ」という意識づけをしなければなりません。

・・・なので、どうやって周囲を巻き込むか、学びの主体である若手にどう「成長する」ことへの動機づけをするのか、が「OJT」の課題だったりもします。

PMシンポジウム2011の田中のセミナーでは、こういったOJTの制度化とはなにで、どこに気を付ければよいか、という話から始まり、現場で見聞きしてきた、具体的な育て方のノウハウをご紹介しました。(たとえば、「文章は添削してはダメ!添削した先輩の文章力だけ向上するから」とか「大切な価値観をきちんと伝える」「体験談を引き出しに入れておき、折に触れて語ってあげよう」とか「対話によって相手の頭にあるもやもやを言語化する手伝いができ、それによって気づきと学びが深まる」と「叱る時、どう考えればよいか」など、様々な話をアラカルト的にいたしました)

ワークは、4回。

「あなたの企業のOJTの現状は?」
「若手には”どんな人”になってほしいですか?」
「若手に伝えたい”自分の体験や思い”は何ですか?」
「すべての話を聞いて、”印象に残ったこと”と”明日からやってみたいこと”は?」

これらを、2ペアあるいは4人一組くらいで話していただきました。

自分が受講者として参加するといつも思うのですが、講師が一方的に話しているより、ところどころで「私の場合は」「私はこう思う」と誰かと語り合ってみたいなあ、と。そうすれば、話を深く理解し、記憶にとどめるのに役立つし。


なので、私は1時間の「講演」であっても、必ず、周囲と語り合う(対話する)時間を入れるのですが、今回は、2時間半の枠でしたので、その「対話」の時間も多く取れ、皆様もすっきりなさったのではないか、と思います。

それにしても、会場には、お顔に見覚えのある方もちらほら。お聞きしたら、「去年も一昨年も田中さんのセミナーをとりました」と。うわーっ! 毎年似たような話で申し訳ない!と思いつつ、「いや、1年ぶりに聴いたら、やはり、忘れていることもたくさんあったので、よかったです」とのこと。

毎度ありがとうございます♪

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