父の日の贈り物
2005年のことだったと記憶しています。ある企業の新入社員研修でのこと。
休憩時間に、新入社員がこういう会話を交わしていました。
「オレさあ、一人暮らし始めて、オカンのこと、スゲーなあ、と思うようになった。」
「何が?」
「だってさー、いつもちゃんと飯作ってくれてたし、家の中、ちゃんとしてあったもんなあ。一人暮らしして、全部自分でやるようになったら、どれほど大変かわかったんだ」
「そうかー」
脇で聞いてた私は思わず、
「だったら、今度帰省した時、”ありがとう、お母さん”って言わないと、ですね」
と口を挟んでしまいました。
しかし、
「エー!?それだけは絶対にやだ。言いたくない。ハズカシイっす」
との返事。
ま、「息子」なんて、そんなものかも知れないな、と思った出来事でした。
あれから6年。今年2011年。
別の企業で。新入社員研修の最中に、彼らにとっての「初任給の日」がやってきました。
私が、「金額は小さくてもいいから、親御さんに何か贈り物できたらしてあげてくださいね。親御さんはきっと喜びますから」なんて話と共に、私が25年前初任給で両親と妹に贈った品物の話をしました。
6年前の若者と同じように、「えー!?」と照れくさそうにするのかと思ったら、今年は違うのです。
「はい、もう考えてあります。食事に連れて行こうと思って」
「腕時計を」
「両親が、お酒好きなので、何かお酒を」
などと品物や行為を具体的に話してくれました。
それだけではありません。
「田中さーん、なんか、イマイチなんですよ。ボクの計画。もっと”完璧”な演出をしたいんです。一生に一回のこと(初任給は)だから」
などと言い、演出について真剣に考えている人までいました。
親御さんへの思いと感謝の贈り物について、男女問わず、マジメに考え、私に話してくれる新入社員。
やはり、3月のあの出来事が大きく響いているのかも知れません。(実際、そういうことを言っていた人もいました。いつ何時何があるか分からないから、と)
昨日は父の日。
Twitterでフォローし合っている新入社員たちのツイート(つぶやき)を、うふふと思いながら眺めておりました。
「お父さんはお酒が好きだからお酒にしようと思う。今、焼酎を試飲している」
「結局、山崎にしたー」
「山崎、いいね」
「オレも山崎にしたー」
「私はケーキ買って来た」
なんてやり取りを交わしていました。(微笑ましい・・・)
「山崎」を贈られたお父上は、どんな想いで口になさったことでしょう。
息子が給料で買ってくれた初めてのお酒。涙でほんの少ししょっぱくなったりして。
山崎もとても嬉しいけれど、たぶん、親御さんが祈っているのは、娘や息子が健康で元気に社会で活躍していることのはず。
これから40年ほど続く、長い社会人生活をどうか幸せに過ごしていってくれますように、と。