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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

後輩育てと自分育ての「ハッピーセット」。

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昨日、あるお客様先で、「OJT担当者」向けのワークショップを担当しました。
ある方の質問に答えている内に、25年ほど前の出来事が突然思い出されたので、みなさんにも紹介しました。

私が入社2年目の時のことです。新入社員の後輩が配属になったので、それまで1年間、自分たち新人が担当していた「バックアップ」業務を引き継くことになりました。

マシンルームに新人たちを連れて行き、「どのようにバックアップをすればよいのか」手順を説明します。25年前の、VAX、そして、VMSです。

大きなディスクパック(円盤を複数枚重ねたもの)をディスクドライブにセットし、オープンリールのテープをテープドライブにかけて、いくつかのコマンドを打って、バックアップ。自部門の基本的なデータファイルをバックアップするだけで2時間くらいはかかりました。

ずっとマシンルームにいる必要はありませんが、時々見に行き、テープを取り替えたり、終わっていたら、全部を片づけたり、バックアップ終了の報告を書いたり、と、週明け月曜日の午前中はほぼつぶれてしまうほどのボリュームはありました。

細かく説明し、「何か質問はありますか?」と新人に尋ねたところ、「ありません」という返事をする顔を見たら、何か浮かない様子。バックアップなんて楽しい仕事でもないし、力作業に近いものがあるので、ここはひとつ、新人を励まさねば、と思いました。

私が口にしたのは、「バックアップって楽しいから、頑張ってね」でした。

すると、新人の一人(院卒のため、私より年長でした。)がこう言ったのです。

そんなに楽しいのなら、今年も田中さんがやればいいじゃないですか。」

・・・・・

なんと、なんと!なんと! この時私が真っ先に思ったことは、「ナマイキな後輩だ!」です。

結局、なんだかんだ説明し、翌週から、私たち2年目はバックアップ作業から無罪放免。無事、1年目の新人に仕事をゆだねることができました。

さて。

今ならわかるのです。私の説明のおかしいところが。

「楽しいからやってね」じゃないのですよね。
「こういう目的で行う、これほど重要な業務であり、それがちゃんとできていないと、これだけの影響を及ぼす」と目的、意義を言葉で伝えるべきだったのです。

では、なぜ、私は、とっさに「楽しいから頑張ってね」と言ってしまったのか。

それは、私自身が、その「バックアップ」の目的も意義も影響も誰のためになっているのかも理解していなかったからです。

夏場、ガンガンにエアコンの効いてるマシンルームでのバックアップは、どちらかというとラッキーな作業でした。
あるいは、「バックアップ」という名目で月曜午前中のほとんどをマシンルームで過ごしていても、誰からも注意されることもなかったので、もしかすると、回るテープを意味なく見つめぼーっとしていた時間もあったかもしれません。

そうやって、私が目的や意義や影響を理解しないまま、「作業」としてこなしていたから、単に「ああ、やっと新人に引き継げる」と思ったし、その引き継ぐ相手がちょっと嫌な顔をしたら焦って「楽しいよ」と言ってしまったのです。

後輩の成長を支援する、ということは、こういう場面に何度も遭遇することかもしれません。

そもそも自分が仕事をちゃんと理解していたか。
わからないなら、誰かに目的を聞いたか。
自分でも考えて、自分なりに意味づけをしたか。

後輩を指導する際、必ずついて回るのが、「自問自答」なのですね。

後輩に教え、後輩を育てる行為と「わが身を振り返る」行為はセットもの。
振り返ることで、ようやく理解できることも多々ある。だから、「後輩育て」は「自分育て」になる。ハッピーセットなんですね(でも、そのことに気づくのはだいぶ後だったりします)。

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