アクセンチュアは不滅です!!:IT業界ウォッチャーシリーズ第7回
今回はグローバルなIT企業の戦略ウォッチの第7弾になります。
今回モデルとするのはアクセンチュアです。
アクセンチュアは私のキャリアにとって最も長い企業(一番良い時期を過ごした)であったことから、思い入れも強く、ITウォッチャーとしては、逆に今までアクセンチュアの業績についての記事を書く事をためらってきました。
ところが、なんと日経コンピュータの最新号の特集が
「アクセンチュアの謎 - 減収のIBM尻目に6年連続増収」
とあり、中身を読んでみると大変興味深い(懐かしい)内容でした。
(詳細は当紙をご覧ください)
そこで私のITウォチャーシリーズでも、やはりここでアクセンチュアの業績分析をしてみようと思い立ちました。
それでは、まずアクセンチュアの歴史から始めます。
アクセンチュアの母体となるアーサーアンダーセンアカウンティングファームは1913年にシカゴで生まれました。
そのアーサーアンダーセンのコンサルティング事業部が1989年独立したコンサルティングファームが「アンダーセンコンサルティング」です。(ちなみに筆者もアーサーアンダーセン入社となります。)
その後、「アンダーセンコンサルティング」はアンダーセングループから離れて、完全独立し、名称も2001年に「Accenture」に変更して今に至ります。
ちなみに「Accenture」社名は社内公募からセレクションされ、AccentとFurtureが組合わされた造語なんですね。
さて、いよいよアクセンチュアの業績ウォッチを開始します。
まずは業績の全体像です。アクセンチュアが上場した2001年から現在までの売上高データとその対前年伸び率を追ってみます。
2001年 130億ドル
2002年 131億ドル 0.8%増
2003年 134億ドル 2.3%増
2004年 151億ドル 12.7%増
2005年 171億ドル 13.2%増
2006年 182億ドル 6.4%増
2007年 215億ドル 18.1%増
2008年 253億ドル 17.7%増
2009年 232億ドル 8.3%減
2010年 231億ドル 0.4%減
2011年 274億ドル 18.6%増
2012年 298億ドル 8.8%増
2013年 304億ドル 2%増
2014年 319億ドル 4.9%増
2015年 329億ドル 3.1%増
2016年 348億ドル 5.8%増
毎年着実に売上規模を上げていき、例えば2005年から2016年の11年間で規模を倍にしています。
基本的にコンサルティング/SIベンダーの売上は頭数、人数に比例しますが、グローバルな社員数も2001年から2016年の間に20万人超から倍の40万人超になったようです。
個別に見ていくと2009年からのリーマンショック後2年間は売上高は減少をしていますが、それ以外の年は着実に対前年比でプラスにしています。
次に純利益です。こちらは売上高純利益率も同時に算出してみます。
2001年 10.6億ドル 8.1%
2002年 2.5億ドル 1.9%
2003年 5億ドル 3.7%
2004年 6.9億ドル 4.6%
2005年 9.4億ドル 5.5%
2006年 9.7億ドル 5.3%
2007年 12.4億ドル 5.8%
2008年 16.9億ドル 6.7%
2009年 15.9億ドル 6.9%
2010年 17.8億ドル 7.7%
2011年 22.8億ドル 8.3%
2012年 25.5億ドル 8.6%
2013年 32.8億ドル 10.8%
2014年 29.4億ドル 9.2%
2015年 30.5億ドル 9.3%
2016年 41.1億ドル 11.8%
こちらは景気に左右される売上高と違い、この15年間で全体的に伸びており、2013年以降は10%前後または10%台の売上高純利益率がだせる体質となったようです。
それでは次に事業の中身を見てみましょう。
まず日経コンピュターの記事から、アクセンチュアの事業別の2016年8月期の売上高の割合を見てみると
Strategy&Consulting 31%
Application Services 47%
Operations 22%
とあり、日経コンピュータでは
「高いコンサルティング料で儲けていると思うかもしれないが、主力はシステム構築運用だ」
と書かれていましたw
私が在籍していた時代(2004年以前)で考えても、このデータ(事業割合)に対して特に意外感はありませんでした。
なぜなら当時からアクセンチュアの基本的な事業戦略ポリシーとしては、
コンサルティング→SI→BPO
つまりコンサルティングを標榜していますが、できるだけ事業戦略としては、下流のSIやアウトソーシングの事業を取りにいく事を求められます。
理由は下流に行くほど、ビジネスの規模が大きくなるからです。当時でもSAPやOracleに代表されるERPの大規模SIの売上高が多かったような記憶があります。
誤解のないように言っておくと、コンサルティングの中で特に戦略コンサルティングについては当時から専門の収益責任のあるグループがあり、現在でもAccenture Strategyというグループが主体となり、純粋なコンサルティングのプロジェクトも多いとは思います。
ただITコンサルティングと言った場合、IT構築のどこまでがコンサルティングでどこからがSI開発かと言った切り分けが曖昧なのでコンサルティング(Consulting)とSI(Application services)と分かれていることはあまり意味がないように思われます。
次に対象インダストリーを見てみましょう。こちらはAccentureのFY2017 Q2のデータからです。
Comms.,Media&Tech $1.62 (19.5%)
Financial Services $1.77 (21.3%)
Health&Public Services $1.51 (18.1%)
Products $2.26 (27.2%)
Resources $1.14 (13.7%)
インダストリーの分け方は私が在籍当時(2004年)と今とほぼ変わっていませんが、そのせいか非常にバランスのとれた事業セグメントの分け方かと思います。
ちなみにこのFY2017 Q2で伸びている業界は製造流通(Products)と金融サービス(Financial Services)のようです。
次に対象地域を見て見ましょう。こちらも同じデータソースです。
North America $3.96
Europe $2.83
Growth Market $1.53
やはりヘッドクオーターはアイルランドにあるようですが、圧倒的に北米が強いですね。
日本はたぶんGrowth Marketに含まれていると思われます。AsiaとかChina,Indiaとかと一緒にされているようです。
ちなみにアクセンチュアの日本法人の2016年度の売上高は1650億円、5年前から1.5倍になったそうです。
従業員数も現在約7,800人でこちらもこの10年で3倍以上になっていると思われます。
グローバルからみたら明らかにGrowth Marketなんですね。
組織の形態については、こちらも日経コンピューターから引用すると、いわゆるインダストリーとサービスの「マトリクス組織」を採用しています。
<インダストリー>
通信メディアハイテク本部
金融サービス本部
公共サービス医療健康本部
製造流通本部
素材エネルギー本部
<サービス>
戦略コンサルティング本部
デジタルコンサルティング本部
テクノロジーコンサルティング本部
オペレーションズ本部
こうしたマトリクス組織に馴染みがない方もいらっしゃるかと思いますので、当時を思い出して少し解説します。
まず、いわゆるクライアント(アクセンチュアの場合はCXOが多いですが)を開拓したり、関係を継続するのがインダストリー本部側の責任となります。一般の会社の営業(トップ営業ですが)に近い職務となります。
次にクライアントへの提案書作成をサポートして、実際に提案が通り、プロジェクトを組成する際の要員としてサービス本部のデリバリー部隊が必要となります。
理想的にはクライアントの業界、業務がわかるインダストリー本部のコンサルタントとコンサルティングの方法論やテクノロジー等がわかり事例が豊富なサービス側のコンサルタントがミックスでチーミングされます。
このようなマトリクス組織は外資系の企業では多かれ少なかれ採用されていますが、アクセンチュアはビジネススピードに対する「機動性」「スピード」という点で他社よりも非常に優れていると感じています。
アクセンチュアの他社にない強みとして日経コンピューターには次の3つが書かれていました。
◯内製で失敗を減らす
◯事例も人もソフトもシェア
◯高成長企業を狙う
私は個人的に上記以外の強みとして
◯CXOへの訴求力が半端なく強い
◯グローバルで使えるビジネスモデル、アプリケーションモデルがある
◯ワンファームコンセプト(社員が常に同じコアバリューをもつ)
◯グローバルで標準的な仕事の方法論
◯若手に早くから上位の仕事をさせる
があったと記憶しています。
さて、私が在籍していた2004年当時から比べた組織上の変化を上げると「デジタルコンサルティングサービス」の強化になります。
アクセンチュアの最近のニュースを見ると、このいわゆる「デジタルマーケティング」の領域に力を入れて、続々と投資もしているようです。
2015年9月 ユニクロと合弁でウェアレクス設立(デジタルイノベーション事業)
2016年7月 アイエムジェイ買収(日本マーケティング企業)
2016年9月 カートサイモン買収(小売業向けコンサルティング)
2017年3月 KDDIと合弁にてアライズアナリティクス設立(AI、データ分析)
この「デジタルマーケティング」の領域はAIやビッグデータが活用できる領域で、今後最も伸びる分野ですのでその事業戦略も十分うなづけます。ただIBMや他のコンサルティング会社も同様に力をいれているので、アクセンチュアとしてもいち早く市場をおさえるために買収戦略を実行していると思われます。
さて、最後に日経コンピュータが書いているように、
「アクセンチュアが2022年に売上高でIBMを抜くかもしれない」
についてはよくわかりません。IBMとアクセンチュアでは同じIT分野でも微妙に主体が違うように思っています。アクセンチュアはあくまで人材で勝負、IBMはワトソンに代表されるソリューション技術で勝負ということで、この両者を比較することにあまり意味はないと思います。
ただ、IBMが、以前のITウォッチャーの記事で書いたように売上高の減少が止まらない(それが私が書いたような事業の体質改善としても)は事実ですから、その可能性もないとは言えません。
私はアクセンチュアの基本的な使命は「顧客が成功することであれば何でもやる」という究極の「クライアントフォーカス」ではないかと思っています。
それをフリーハンドでできることがアクセンチュアの戦略的強みでないかと思っています。
現在40万人の社員、4兆円の売上をほこるアクセンチュアは、CEOのピエールナンテルムの言うような「鋭敏な巨人」であり続けてほしいと思います。彼の今までのコメントを見るとそれがよくわかります。
「私は毎日のように顧客企業の経営者と議論していますが、誰もが変化の中にチャンスがあると考えている。」
「経営環境は大きく変化しています。それに応じられなければ、顧客企業との関係性を維持できませんし、競争優位性も保てません。」
「業績が伸びている理由は、アクセンチュア自身が過去数年、変わってきたからだと考えています。」
アクセンチュアは不滅です!
(参考サイト:YCharts、Accenture, GQjapan, Iotnews, 名言DB, ファーストリテイリング、Wikipedia)
(参考図書: 日経コンピュータ 2017.5.15号)
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