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富士通が批判されている「英郵便局冤罪事件」とは何だったのか?その深い闇をドラマの内容から考えてみる!!!

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こんにちは。

今回はITネタですが、同時に社会問題ネタでもあります。みなさんは「英国郵便局冤罪事件」をご存知でしょうか。

英国のスナク首相が今年1月10日の議会下院でこう言っています。
「この冤罪事件は英国史上最大となる誤った判断の一つだ」
そして、被害に遭った人を救済する新法を導入する、とも表明したのです。

一国の首相にこうも言わしめた「英国郵便局冤罪事件」とその原因となった
富士通サービシーズの不具合および道義的責任などについてまとめてみました。

<目次>
1. 「英国郵便局冤罪事件」とは
2. 「英国郵便局冤罪事件」についての常識的な感想
3. 英郵便局の勘定系システムHorizonとは
4. Horizonの不具合内容
5. 今年放映されたドラマ「Mr Bates vs The Post Office」でわかったこと
6. ドラマの内容から考えられるシナリオ
7. 富士通の道義的責任



1. 「英国郵便局冤罪事件」とは

1999年に英国の郵便局では、新しい勘定系システム「Horizon」を導入しました。すると、多くの郵便局で窓口の現金残高と(システム内の)会計記録が一致しない問題が頻発したのです。

ここまでは、よくある導入システムの不具合かと思うのですが、その後のポストオフィス(会社)側の対応が驚きのものだったのです。

なんと、会社側は「横領や不正経理」をしたとして、郵便局長の責任を問い、2015年までに700人以上の局長らが「詐欺」「横領」の罪で起訴され、身に覚えのないお金を払わされたり、刑務所に入れられたり、はたまま、それが原因で自殺した人もいたようです。

その後、当然ながら、身に覚えのない罪を着せられた元郵便局長らがポストオフィスに集団訴訟を起こします。そして、その裁判の中で、ようやくこの残高の不一致は富士通の英子会社、富士通サービシーズが納入したこの「Horizon」システムの不具合が原因であることが判明したのです。

2019年、英国の高等裁判所にあたる高等法院は、このように明らかになった事実を踏まえて、ポストオフィスに対し、合計5775万ポンド(約107億円)の支払いを命じる判決を下したのです。
冤罪を受けた人々は、2000年前半から数えると、20年近くも冤罪を晴らすために時間とお金とそして苦しみを払ったのです。ひどいですね。

しかも、この話はまだ終わっておらず、この時に冤罪として有罪が取り消された人はたったの93人で、まだ冤罪全員に対して全面救済には至っていないようです。


2. 「英国郵便局冤罪事件」についての常識的な感想

さて、ここまで、主に新聞などで紹介されている内容を説明して、みなさんはどう思われましたか?納得できますか?私は全く納得できませんでした。

もし、これと同じことが、例えば国内で発生したら、不具合の多いシステムに対して、単に、企業側とITベンダーが側が争う構図が普通です。なぜ、ポストオフィス(企業)側はそれをシステムのバグと思わずに、ユーザーの犯罪と考えるのでしょうか。

ここが我々の常識の範囲を超えていますよね。そして、その後の対応もおかしい。

郵便局長(ユーザー)側が、システムがおかしいのではないかと何度も、また何年もポストオフィスに訴え続けているのに、その声に全く耳をかさなかったのです。ここまでいくと、むしろ何らかの悪意を感じますよね。

英国の郵便局は、国有企業のポストオフィスから業務を請け負った民間受託郵便局が行っていく体制のようです。英国では民間の個人経営のショップやカフェなどの事業主が自身のビジネスの一つして郵便作業(金融含む)を請け負うのが一般的とのことです。

日本のように郵便局が一つの組織であれば、郵便局長はその従業員であるので、こんなバカのことは起きないでしょう。英国ならではの民間委託体制がこうした冤罪を起こしやすくしたこともあるのかもしれませんね。それでも700人以上の民間事業者を冤罪として罪をなすりつけるのは異常です。


3. 英郵便局の勘定系システムHorizonとは

ここでは、問題の勘定系システムHorizonの情報がありましたので、ITの話としてみてみましょう。なんとHorizon導入以前は1990年代まで全て紙ベースだったそうです。これも驚きです。

以下は日経コンピュータ2020.3.5号の「動かないコンピュータ、英ポストオフィス」から抜粋しました。

2000年 ポストオフィスの初の勘定系システムHorizon(レガシー)の運用開始
<システム内容>
クライアントサーバー型、各郵便局内だけでトランザクション処理が完結
サーバーは各ブランチ(郵便局)におかれている
DBはOracle Database
ブランチサーバーDBと本社サーバーDBとの同期はバッチ処理
この部分にオランダIT企業のミドルウェアRiposteを使用
回線はISDN回線
開発言語はCとVisual Basic

2001年 Horizon機能追加(切手や保険販売のためのPOS機能)

2003年 Horizon機能追加(ネットワークバンキング機能)

2010年 Horizon(レガシー)を全面刷新してHorizon(オンライン)導入
<システム内容>
トランザクションは全て本社データセンターサーバーで処理
開発言語もJavaに切り替え

2017年 Horizon(オンライン)のクライアント端末をWindows10に変更

さて、ここで冤罪事件の中心となっているのは、2000年に稼働した後、機能追加が毎年行われていたHorizon(レガシー)であると思われます。


4. Horizonの不具合内容

裁判の資料から、このHorizon(レガシー)が非常にバグやトラブルの多いシステムだったことがわかっています。例えば、次のようなものです。

・郵便局からポストオフィス本部に送った現金袋の金額を正確に記録できないバグ
(ある条件下で現金袋につけられたバーコードをスキャンすると、最初にスキャンした現金袋は郵便局の窓口に残っていると誤って記録される)
・トランザクションが消失するバグ
窓口端末のソフトウェアが異常終了するとトランザクションに不整合が生じるバグ
非同期処理ソフトのRiposteにもバグがあり、ブランチサーバーDBと本部のDBが正しく同期できなくなる問題

以上のように、2000年より稼働している本番システムHorizon(レガシー)は大変問題の多いシステムだったようです。こうした問題の多いシステムについては、普通であれば、テストをやり直すとか、また場合によっては作り直すなどの開発導入スケジュールを延期して、できるだけ完全な状態にもっていき、それをベンダー、発注者両者が納得した上で導入運用するはずです。
特に金融の勘定系システムクラスになると、基本的にノーバグでリリースしないといけないはずです。

その辺りが当時の発注者ポストオフィスとベンダーの富士通サービシーズが甘かったと言わざるをえません。また、こうしたバグが多いことについては発注者もベンダーも把握しているはずと思いますが。


5. 今年放映されたドラマ「Mr Bates vs The Post Office」でわかったこと

さて、システムの情報をあらためて整理した上で、いよいよ本論に入りたいと思います。今回、この事件がなぜ再び公にでたかというと、英国の民放番組(たぶんPBS)で、この事件を題材にしたドラマ「Mr Bates vs The Post Office」が今年1月に制作、放映されたからです。


この「Mr Bates vs The Post Office」全4話のドラマで、重要なことは、これは事実に基づいた再現ドラマである、ということです。つまりドキュメンタリーと言い切っていることです。ドラマに出てくるMr Bates、すなわちベイツさんは実際に、この長い冤罪訴訟を戦った、元郵便局長のアラン・ベイツ氏です。実在する方です。

それでは、ドラマの内容を説明したいと思います。この情報は、noteで「Mr Bates vs The Post Office」を実際にご覧になった方の文字起こし記事がありましたので、そちらを参考にさせていただきました。



ドラマは2003年4月4日に、アランさんの郵便局にポストオフィスの調査員が荒々しく入ってくるところから始まるそうです。そして、調査員の次に警察がきてアランさんを郵便局の資金を横領した罪で事情聴取しますそして、ドラマの最後は、2016年12月16日の英国高等法院において、ポストオフィスに対し、550人の冤罪を被った元郵便局長に合計5800万ポンド(約83億円)を支払うよう命じる判決が下されたところで一旦終わります。

このドラマの中で、非常に問題となる部分があることに気づきました。これはあまり新聞などでは報じられていないことです。それを少し見ていきたいと思います。

まず、問題と思われたのは、システムのヘルプデスクの対応です。以下、その部分です。

「オペレーターは「このような問い合わせは他にありませんし、(システムが)ハックされるということはまずありません。支店のアカウントは完全に守られています。」と言いました。」

「オペレーターは指示を出しながら「このようなことが起こっているのはあなたのところだけです。今夜中にバランスを支払わなければ明日郵便局を開けることはできません。」と告げました。」

この「他の方からこのような問い合わせはありません、あなただけです。」という返答は、この残高エラーを誰が問い合わせても同じだったようです。したがって、オペレーターには、ポストオフィスまたは富士通から、このような電話がかかってきた時にはこのように答えるというマニュアルがあった可能性が高いと思われます。

それが何を示しているか、というと、ポストオフィスも富士通もこうしたエラーが起きたこと、または起きる可能性があることは、早い段階でわかっていたので、あらかじめ対処したということでしょうか。

また、罪を着せられた郵便局長に対して、ポストオフィス側からこのような申し出があったそうです。
「この司法取引には2つ条件があった。1つは全ての借金(残高不足分)を返済すること、そして2つ目は今後一切Horizonのシステムを非難しないこと。」

このことから、ポストオフィス側は頑なにシステムの不具合については公にしないように口止めをしているということです。本来なら戦うべきポストオフィスと富士通ががっちりと手を組んで、システム不具合をなかったことにしているとしか見えません。

そして、ドラマが進んでいくと、驚きの展開となるようです。以下がその下りです。
「2年前、2008年8月19日、私はロンドン、ブラックネルにある富士通のヘッドオフィスを訪ねてみました。(中略)
(富士通の)リチャードは私をコントロールルームに案内し、デスクのひとつに座り、Horizonターミナルを前にマニュアルでストック(残高)コントロールを調整する方法をやって見せました。私は驚いて、「これはライブなのですか?あなたは今、郵便局のHorizonに侵入しているのですか?」と聞きました。すると彼は、そうです、と言い、私の目の前で、郵便局の数字を書き換え始めたのです。(中略)
数値を元にもどしておいたほうが良いですね。そうじゃないとバランスが合わなくなる、と彼は言いました。」

このリチャードという元富士通エンジニアが再び登場します。

「アランに富士通のテクニカルサポートで働いていたという男から電話が入る。2008年8月に富士通オフィスでマイケルを案内したリチャードだ。
「私があなたと話していることを誰にも知られたくないのですが、彼らは嘘をついています。彼らは支店のアカウントにはリモートアクセスは不可能だと言っていますが、富士通のオフィスの中にはHorizonの数字を訂正する部署があり、昼夜問わず大勢の人が働いています。誰もそんなことは認めないでしょうけど。コーディングエラーやバグ、データの変造など毎日火消しに追われています。」」

「弁護士ジェームス・ハートリーが富士通の内部告発者リチャードと面会した。
「(我々は)郵便局長のコンピュータースクリーンを目の前に映し出すことができるのです。(中略)
私たちは郵便局長たちのIDを使って侵入し、問題の原因を突き止め、修正し、立ち去ります。彼らには全く気づかれずに。」
「もし問題の原因が見つからなかったり、訂正できなかったりしたらどうなるのですか?」と聞く。リチャードは「わかりません。それは郵便局長の責任になるのでしょうか。」」
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「2015年1月30日法廷で「2015年の時点でポストオフィスがHorizonのデータにリモートアクセスできないと言うのは誤っていますよね?」
アンジェラは「ポストオフィスには不可能です。でも富士通を通してなら可能です。」と答える。法廷内がざわつく。」

「リチャードは証言台に立つ。震えながらもリモートアクセスに関しては富士通が収支の数値を変更することができること、しかも、それは郵便局長に判別されることなく行えると証言する」


6. ドラマの内容から考えられるシナリオ

この2008年のHorizonはHorizonレガシーと呼ばれるバッチ処理だったころのシステムです。Horizonオンラインが導入されるのは2010年ですので。

そうすると、富士通側は当初からエラーを見越してデータベースのデータを直接書き換える機能を管理用に持っていたということになります。また、そのような不具合が起きることを予想して、あらかじめデータを修正できる体制を準備していたということなのでしょう。
そして、実際に導入後にトランザクションエラーが多発したため、ポストオフィスと富士通側は不具合を公表せずにエラーの都度、データを直接修正してつじつまを合わせていたようです。

つまり、考えられるシナリオとしては、ポストオフィスと富士通は当初から不具合の多いことをわかっていて強引なシステムのリリースを行った。
ただ、事前にユーザーからそのような問い合わせが多発することを想定して、画一的なヘルプデスクのマニュアルを用意していた。

さらにはポストオフィス側は富士通に言って、直接データベースの数字を直す機能やプログラムを裏で開発し用意させて、稼働後にエラーの都度、24時間データ修正を行える運用をさせた。

ところが、導入初期の段階で、予想通りエラーが発生したのだが、その件数が予想より多かったため、富士通側のエラー修正の作業が間に合わず、実際に残高が不足する郵便局が発生してしまった。
そこで、あわてたポストオフィス側は、そうしたケースはそれほど多くないと判断して、エラーを隠すために郵便局側に不足分を支払わせてうやむやにしようとした。
また、その際、民間の郵便局長になんらかの悪意を持ってこの対応を行った。

しかし、こうした初期対応(郵便局長に当初の残高不足を支払わせる)が予想を反して(当たり前ですが)大事となり、何人かの郵便局長が支払いを拒否して収監されたり、自殺、破産したりしたため、ポストオフィスと富士通はこの事件を闇に葬ろうと画策して、全ての関係者に箝口令(かんこうれい)をしいた。

ところが、このドラマであったように、それでも戦うアラン・ベイツ氏のような人々から集団訴訟を起こされ高等法院の裁判でこうした事実を調べ上げられ、敗訴してしまったというわけです。

ここでのターニングポイントは、やはり導入初期段階で残高の不一致が発生してしまった時、それを隠してユーザーである郵便局長のせいにしてしまったこと、さらにはそれを横領罪という形で郵便局長たちを犯罪者にしてしまったとんでもない対応です。

そして、そうした指示を誰が決定したのか、悪意はあったのかなどがこの事件の本当に知りたい真実となります。

ドラマのエピローグでは、このような形でそのことが悔しく語られています。
「ポストオフィスはHorizonの不具合によって起こされた残高不整合で3500人の郵便局長を非難した。700人が有罪判決を受け、236人が収監され、4人が自ら命を絶った。しかし(そうした判断をした)ポストオフィスの幹部たちは未だ誰一人として訴追されていない。」


7. 富士通の道義的責任

そして、問題の富士通の道義的責任についてです。
富士通がシステム導入前からシステムの不具合が発生することを予想して、データ修正の機能や体制まで用意し、予想通りシステムの大量の不具合が発生したことは、ベンダーとしては情けないことですが、ポストオフィス側が了解しているのであれば、仕方ないと思います。

富士通が問題となるのは、その後、クライアントであるポストオフィスがシステムエラーを隠すために無実の人を有罪にしてしまう行為を行ったことに対して、何も言わなかったことです。
富士通にとってポストオフィスは優良顧客だったと思いますが、それでも顧客が犯した間違いを正したり、告発する勇気を富士通の関係者には持って欲しかったと思います。

また、その後20年もの間、郵便局長が無実の罪で苦しんでいることを見てみぬふりをしているとしたら、企業の倫理性、いや、経営者や担当者の人間としての社会倫理観が欠如しているとしか思えません。

その意味で、富士通には道義的責任はあると思います。
みなさんはどう思いますか?


(文章中に明記されている出典以外では日経コンピュータ、日本経済新聞、関連ネットニュースなどの情報を参考に記事を作成しています。)

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