あのWatsonがあなたのそばに、、、:IBMWatsonエコシステムによってワトソンが最新科学から我々の生活まで密着する時代へ
「Watsonをおもちゃからがんの治療まで展開していく」
米IBMでWatson事業 シニア・バイス・プレジデントのマイク・ローディン氏の2015年7月30日の会見での言葉だ。
そもそも、Watsonとは人間が話す自然言語を理解をし、複雑な質問に対して適切な回答をしてくれる質問応答システムだ。Watsonが注目されたのは、2011年2月16日にアメリカの人気クイズ番組「Jeopardy!」に、質問応答システムであるWatsonが回答者として出演し、その結果、最高金額を獲得するという偉業を成し遂げたことから注目が広がった。
ちなみに、Watsonというシステム名称は、IBMの創設者であるトーマス・J・ワトソン氏から由来する。
Watsonはクイズ番組の回答者という基礎研究から実ビジネスに利活用されるフェーズに入ったということこそがマイク・ローディン氏の発言に潜んでいる。
Watsonが様々な分野の様々な研究、業種、ビジネスに応用できるように生まれたプラットフォームが「Watsonエコシステム」である。Watsonの様々な機能を様々な形で、かつ様々な組み合わせでソリューションとして提供できるプラットフォームとなる。IBMはWatsonを独自で展開するのではなく、様々な企業とアライアンスを組み、Watsonエコシステムというプラットフォームを介して展開していくということである。 これは大きな一歩なのである。Watsonの技術をビジネス展開、横展開をすることであるからだ。
実際、Watsonは現在36ヵ国でプロジェクトが進められており、17分野の適用業種に広がっている。また、エコシステムパートナー、つまり、Watsonエコシステムを通じたアライアンスも300社以上になっていることは驚きだ。もう、Watsonはクイズ番組のWatsonではなく、みんなのWatsonだ。
マイク・ローディン氏のWatsonエコシステムの展開の3つのキーワードとして、"Commercialization"、"Creativity"、"Consumerization"を挙げている。
"Commercialization"とは、商用化ということで、上記に示した通り、Watsonというテクノロジーを社会市場に展開していく方法を示している。その方法としてIBM内だけで止まらず異業種と協業し、新たなマーケットを切り開く道に舵をとったのである。異業種との協業によるアイデアにより、Watsonの可能性を最大限に引き出せると考えたのだ。
次に、"Creativity"とは、創造性ということで、以前になかったものを創り出すように展開していくということである。実際、コンピュータの創造力とはどのようなものなのか、Watsonが人々の脅威を感じさせずに発揮させることは非常に重要である。
さらに、"Consumerization"とは、消費者にリーチするマーケットの創造を示している。IBMは、B2Bの会社であるが、WatsonについてはB2Cの可能性を模索する、チャレンジするということだ。Watsonは、コンシューママーケットにおいて何ができるかをWatsonエコシステムを通じたアライアンスで探っていくという。
ここで、Watsonの可能性を知るために、Watsonを使った応用、ビジネス展開について、面白いものをいくつか例を示すことにしよう。
まずは、Watsonを使ったがん最適治療法の発見・提示である。これは、東京大学医科学研究所との協業である。がんといっても様々であり、がん細胞には数千から数万の遺伝子変異が蓄積されており、その遺伝子変異を網羅的に調べることにより、それぞれのがん特有の遺伝子変異をみつけて、効果的な治療法を提示するというものである。最新鋭の医学である。それには違いない。しかし基本路線はクイズ番組と同じである。クイズ番組は問題に対して、それに適した回答を返す、がんの場合は遺伝子変異情報からそれに合致した治療法を提示する。このように少しの機転で最新がん研究にまで応用ができるのである。
Cognitoysというおもちゃがある。会話のできる人形である。人形のお腹あたりのボタンを押しながら子どもがお話するとそれについて反応してくれるのだ。この会話をするところにWatsonが応用されている。ただの質問応答だけではなく、裏側では、Watsonは子どもの属性、つまりは、年齢、性別などを識別しているという。さらには、この会話履歴を保持することにより、Watsonは子どもの成長を見守ることができる。具体的には、発達が遅い子どもを発見するだけではなく、その子どもに対して、会話を通じてサポートをするのだ。
ウインブルドン、テニスにおいてもWatsonは力を発揮する。スタッフが試合について自然言語でWatsonに質問すると、試合の進行状況に応じて、プレーの分析や過去のプレー状況をリアルタイムで提示したりする。これはまさにプロのテニスの分析官を座らせて観戦しているようだ。
Chef Watsonも忘れてはならない。レシピを考案するのだ。過去の膨大なレシピデータをもとに、ユーザの気分や嗜好(「クリスマス」、「日本料理」など)の条件にあったレシピを提示してくれるというものだ。
これは一部であるが、これだけみても、広い応用範囲とポテンシャルを秘めていることがお分かりであろう。
実は、IBM社はWatsonをあまり人工知能(AI)とは扱わない傾向にある。それは、様々な記事などで取り上げられたような、人工知能が人間の職業を奪うというイメージではなく、Watsonが人間と寄り添いながら、新しい研究的発見をする、新しいマーケットを創造する、新しい価値を創造するパートナーとして、当たり前の存在としてあるべき姿を映しているからと私は考えている。
Watsonは、いろんな人々のパートナーとしてもう歩み始めている。