人工知能によってなくなる職業って本当か?
人工知能によって職が失われるよという話になると必ず出てくるのが、オックスフォード大学のマイケル・オズボーンらによる論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION? 」が有名ですね。そこには、電話のオペレータ、小売のレジ係だけでなく、銀行の融資担当などもなくなる可能性が高いと挙げられています。しかし、本当にそんな世の中が来るのか、どれくらい社会にインパクトがあるのか想像がつきづらいかもしれません。
実は経済産業省が詳しくまとめたレポート「「新産業構造ビジョン」 ~第4次産業革命をリードする日本の戦略~」に具体的な職業を9つに分けて、2015年から比べて2030年にその職業に就く人が増えるか減るかを具体的な数字を挙げて予想しています。
経済産業省:「「新産業構造ビジョン」 ~第4次産業革命をリードする日本の戦略~」より引用
ここでポイントとなるのは、現状放置シナリオと変革シナリオの二つの数値を示している点です。
具体的に、現状放置シナリオとは、日本の産業が海外のプラットフォーマの下請けに陥ることで付加価値が海外に流出、新たなサービス付加価値を見出せず国内産業が低付加価値・低成長化、機械と雇用者が競争する低付加価値・低成長の職業への労働力の集中による低賃金化を指しているようです。逆に言うと今のままでは、そのような未来が待っているということです。
一方、変革シナリオとは、新たなサービスが創造されグローバルに高付加価値・高成長、技術革新を活かしたサービスの発展による生産性の向上と労働参加率の増加により労働力人口減少を克服、機械と共存し人間にしかできない職業に労働力を集中させ高所得化を指しているようです。
上記の図を見る限り、変革シナリオを実現し、上流工程、カスタマイズされた高額なものに関するものなどの付加価値の高い営業担当、きめ細やかな接客などの付加価値の高いサービス、IT業務で働くことが可能な人材を確保していくことが重要であることが伺えます。全体を通して、現状放置シナリオならば、735万人分の雇用が減る(日本の現在の従業者数が約6300万人なので約10人に1人強、職が奪われる!)という結果です。変革シナリオでも161万人減としていますが、これは効率化と人口減・高齢化の減少を加味しているからということになるでしょう。
また、この報告書によると、実質GDP成長率は、現状放置シナリオは0.8%に対し、変革シナリオは2.0%となるとしています。
人工知能、ビッグデータ、IoTというキーワードによって、技術が発展していくだけでなく、それに伴って社会構造も変化していくことを忘れてはならない。これがグローバルで起こっているトレンドです。それを踏まえた上で、ローカルではどのような戦略をとっていくか、それを考えることが、変革シナリオを実践していく鍵となるでしょう。
そのためには人工知能、ビッグデータ、IoTというキーワードによって織り成す技術と共に我々人間がどのように新たな価値を見出すかを考えないといけなくなる。その上で人間がこれからより必要となってくる能力が下記の3つかなと思います。
- データサイエンス
- ヒューマン・タッチ
- クリエーティブ
人工知能、いや、ほぼ全てのITソリューションはデータがなければただの箱です。「データサイエンス」は、世の中に散在するデータを価値に変える重要な能力です。
高次で触れ合う、話し合うということこそが、種全体の幸せ・価値になります。「ヒューマン・タッチ」は、人間同士の協働という本能に刺激する価値を創出する重要な能力です。
より良い世界にしよう、しかし勝手に変わるわけではありません。「クリエーティブ」は、世の中を変えることで新たな価値を創出する重要な能力です。
これらは人間の本来の性質、役割によって、必要とされている能力です。これらの能力を活かせるような社会に変えていくことが、いわゆる変革シナリオなのでしょう。