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デジタル民主主義の基盤を考え抜いた著作 : 『基礎から学ぶインターネット投票』

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これまで拙著『情報システム進化論』の重要な参考文献をこのブログで紹介してきたが、その中に牟田学さんの著作が含まれている。

牟田さんは、国民・利用者の視点を大切にした電子政府・ITコンサルタントとして活躍され、日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会(JEEADiS )の理事も務められている。数々の著作の中でも私は「manaboo.com電子政府ブログ」の20年来の愛読者で、日本とエストニアのデジタルガバメントについて非常に多くを学んできたし、拙著の執筆でも参考文献として使わせていただいた。

今回紹介する本は、今月発売の牟田さんの新刊書『基礎から学ぶインターネット投票-デジタル民主主義を実現する統治基盤として―』。序章に書かれているとおり、まさに「選挙を支える統治基盤を、デジタル時代においてどのように設計し直すべきかを考えるための、制度設計とガバナンスの書」である。

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これまで投票のデジタル化というと、投票用紙の電子化など技術手段を中心とした狭いトピックに偏りがちだった。しかし、本書はそうした議論とは一線を画し、投票制度を国が設計・運用するデジタル民主主義の統治基盤のひとつと明確に位置付けたうえで、日本が検討すべき制度設計とガバナンスの具体的な議論を展開している。

インターネット投票に関しては、「安全か、安全でないか」に焦点を当てた議論は本質を見失わせると指摘したうえで、技術は制度を支える手段であり、リスクの許容範囲と検知・是正の方法こそ問うべきだと著者は論じている。

ここで参照されているのがエストニアである。本書によれば、2001年に正式にインターネット投票の構想を表明した後は、まず(技術実証ではなく)政治的意思を表明して2002年には法改正を行った。そして、2011年の議会選挙で海外に居住するエストニア国民がインターネット投票を利用、導入から18年を経た202310月には5割強が利用して制度として定着したのだという。

エストニアのデジタルガバメントについては私も現地調査を行った経験があるが、デジタル化を民主主義とリンクさせて推進してきた点がとても印象に残っている。たとえば、自分の個人情報にいつ誰がアクセスしたかのログが残り、それを本人が確認して説明を求めることもできる。いわば、政府は国民の個人情報を活用してデジタル化を進める一方で、国民は政府を監視できる仕組みが整備されているのだ。

このようなデジタル基盤に加えて、さらに本書では、選挙データが機械可読な形式で公開されている点に注目し、選挙データのオープン化と標準化はフェイク情報の検証を可能にするため民主主義の基盤として不可欠であると述べている。

ところで、エストニアは人口が137万人の小国だから日本の参考にはならないという意見をよく耳にする。たしかに国民へのICカードの配布をはじめハードウェアの量が問題となる場面では参考にできないだろうが、民主的な制度と情報システムの設計については日本への示唆が大きいと私は考えている。

この点について、著者は「人口規模よりも"ガバナンスの分散度×制度の複雑さ"」が問題であると指摘する。つまり、日本は各自治体が個別に導入する分散方式であり、投票制度が複雑である点がデジタル時代に適さないというわけだ。

さらに、分散型のままでは制度の持続可能性・公平性を維持できないとして、全国一元型選挙人名簿データベース、統一インターネット投票プラットフォーム、独立した監査・検証体制、段階的導入モデルを提案している。この提案は、在外投票で限定導入したフランスとパナマ、試験を実施したものの中止したノルウェー、試験を行ったが撤退したオーストラリアとフィンランド、そして憲法違反の判断が下されたドイツなど、エストニア以外の諸外国も研究した著者の卓見に基づいている。

国民・住民の利便性、行政効率化、公正・公平な社会づくりを目指し、デジタル化民主主義の基盤を考え抜いた力作である。

なお、著者が中心となってまとめた、JEEADiS政策提言2026「デジタル民主主義基盤の再設計日本版インターネット投票実現に向けた政策提言」は、以下のサイトに掲載されている。

https://www.jeeadis.jp/pressrelease/jeeadis-2026

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