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AIが浸透していく社会の「未来道徳」

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前回(20251115日)の投稿で、哲学者の今道友信が情報システム学の発展に少なからぬ影響を与えたことを紹介した。

今道の著作『エコエティカ 生圏倫理学入門』によれば、「エコエティカとは、『人類の生息圏規模で考える倫理』ということで、科学技術の連関から成る社会という新しい環境の中で、人間の直面するさまざまな新しい問題を含めて、人間の生き方を考え直そうとする新しい哲学の一部門」であるという。 

人間を取り巻く環境と言えば、「自然」を指すのが何世紀にもわたる常識だった。しかし今道は、1960年頃から「科学技術(テクノロジー)」が新たな環境になったとして、それを「技術連関」と呼んだ。

そして、自然だけが人間の環境だった時代は至近距離にいる隣人が倫理の対象で済んでいたが、情報通信技術の進歩で世界中の人びとが結びつく技術連関社会では不特定多数の他者を対象とした新しい倫理が求められるとして、エコエティカを提唱したのである。

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ところで前回の投稿で、「情報システムや情報社会が進展するのはよいことだが、同時にそれは善い目的に向かっていくことが大切で、新しい目的を考える姿勢を人間は持たなければならない」という今道の指摘を紹介した。

それを強調したのは、技術連関社会になって「目的」と「手段」の関係が変わったと認識しているためである。アリストテレス以来、人間の行為は、①ある願望を目的として定立する、②それを実現するための手段を複数列挙する、③最適の手段を選択する、といった三段論法で考えられてきたが、技術や手段が強大になってくると「三段論法の逆転が初めて意識されるようになった」。そして、「現在は、手段が選択ではなくて自明なものとしてあって、目的を選択しなければならない」と述べている。何のためにテクノロジーを開発し使用するのか。私たちには善い目的を追求する姿勢が求められるわけである。

さらに、テクノロジーは「道具」の性格を残したまま「機械」となり、「環境」となったが、今や「環境」の性格を残したまま「人間の内部」に浸透しつつある、と指摘した。今道は今日のAIブームを見ることなく2012年に没しているが、テクノロジーが人間の内部構造となる未来を洞察した慧眼には驚かされる。

社会道徳についても時間のスケールを拡大して、「歴史道徳」あるいは「未来道徳」「宇宙道徳」という表現を用いて、テクノロジーの自己規正が人類の生き残りのために不可欠だと主張する。

この本で「未来道徳」や「宇宙道徳」という概念が深く掘り下げられているわけではないものの、人類の生息圏が宇宙へと拡大しつつあり、AIの急速な技術進歩で「人間とは何か」という問いがあらためて突きつけられている今日、善い目的を考え続けて未来道徳を追求する姿勢が私たちに今求められていると感じた。

*お知らせ:拙著『情報システム進化論』は情報システム学会から浦昭二記念賞特別賞を受賞しました。

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